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【小説】鳥かごの外は。。。#1


なんでこの人と結婚したんだろう。。。


アキラはつくづくそんなことを思っていた。

実は何気ない日常こそが幸せの証であるのだが、そんな風に思えなかった。

娘が二人いる。

明るい娘で、何の不満もない。

そこには幸せが確かにあったのだろう。

人は「もっと」を求めてしまう生き物なのかもしれない。

それが自己研鑽や自己啓発などに向かえばいいが、単に欲望を求めてしまう人も多いかもしれない。


アキラの子供たちはイクメンなどの言葉ができるよりもはるか前に生まれた。

生まれた当初からアキラは育児に携わり、保育園のお迎えや手料理を食べさせたり、炊事、洗濯、掃除もこなす父親になっていた。

アキラの世代は男がまだまだ家事なんてするものじゃないとか、ごみ捨てなんてするのか?など言われていた時代だった。

それでも、娘が結婚するときは、父親でさえ家事をこなすのが当たり前になるだろうし、そういう男性と結婚してほしいと、アキラはそう思いって見本をみせるように率先して家事をやってきた。

少し時流が変わり、男性も家事を手伝うべきと世間が変わり始めたころだったが、それでも保育園の送り迎えに男性が向かうのは珍しかった。

好奇の目で見られることも多ければ、営業マンと勘違いされ、保育園で追い払われそうになったこともあった。

それでも育児は楽しかったし、辞めるつもりもなかった。

ただ。。。家の中は回らなかった。


休みの日には昼過ぎまで寝ていたい妻に気を使い、掃除、洗濯もできない。

共働きをさせているうしろめたさがアキラにはあった。

「子供と二人きりだったらノイローゼになるから、絶対働きには出たい」

妻は臨んだ共働きだったが、当時は親からも世間からも夫が仕事をし、妻子を養って当然という意見が大多数だったのもある。

バブルがはじけて久しいというのに親や世間はまだバブルのいい思いが抜けきっていなかった。

妻を起こさないようにベッドを抜け出し、洗濯、掃除などをやっていたが、ゆっくり寝られない!と妻に逆切れされ、困惑した。

娘もとっくに起きている時間でも、むさぼるように妻は寝ていた。


娘も親に気を遣って、起きるタイミングを伺うようになった。

朝ごはんがてらショッピングモールに行くこともあったが、お金もかかるし、もったいないので、おにぎりを作って公園に行くことにした。

当時は旦那さんだけで遊ばせるのも珍しいことだった。

公園で遊ばせる親が、公園での親の派閥や仲間はずれに頭を悩ませる「公園デビューの難しさ」なるものが取りざたされていた。

居心地がいいものでもなかったが、子供が楽しそうに遊んでいるのを見るのはうれしかったので、毎週末はお散歩の日と決めた。

お散歩の後は、洗濯ものが回せず、掃除ができずに埃だらけの部屋に帰る。

いまだに起きない奥さんに気を使いながら、娘とふたり息をひそめるようにお昼ご飯を食べて、どうするか思案すると妻が起きてくる。

そんな週末の繰り返しだった。

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