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「アリテーに言え」


春崎 叶はるさき かない 劇中:叶 高校三年生。二組。
在本 定斗ありもと ていと 劇中:アリテー 高校三年生。三組。
久住 玲王くすみ れお 劇中:レックス 高校三年生。三組。
瀬野 辺理亜せの べりあ 劇中:ベリア 高校三年生。四組。
瀬野 舵理亜せの だりあ 劇中:ダリア(案内人) 高校三年生で止まっている。



序幕


(クロード・ドビュッシー:『月の光』 CI)


幕が上がる。

ダリアにスポット。


ダ「恐竜、実現、アリストテレス。同床同夢の少年少女、死にたいくらい悪い夢。移り気な乙女が眠る、校舎三階の空き教室。夢の特異日で約束して。」


ダリアが舞台からはける。

明転。

四人が舞台上で倒れている。最初にアリテーが起き上がり、辺りを見回す、四人を見下ろすアリテー。

ア「校舎三階の空き教室…」

ベリアに近づくアリテー。

ア「今日は服が違うのか」

ベリアを起こそうと少し触れる。するとベリアが勢い良く起き上がる。

ベ「キャアアアア!!」

悲鳴を上げてどこかへ逃げていくベリア。驚いてその場で固まってしまうアリテー。すると今度はレックスが起き上がる。

レ「なんだ、ここ…」
ア「君は」
レ「あ?」
ア「レックス。」
レ「…うわ、お前アリテーか!?」
ア「君とはあんまり面識がないはずだけど。珍しいな…それに、さっきの案内人も様子が変だった」
レ「何一人でブツブツ言ってんだよ」
ア「この人もだ。何か話したことあったっけ」
レ「聞いてんのか?」
ア「何だか今回のはよく喋るな」
レ「今回?それよりアリテー、ここどこだか分かるか?俺何でここにいるのか全然」

レックスが辺りを見渡すと倒れている叶を見つける。

レ「うわ!叶じゃねえか。おい、起きろ!大丈夫かよ!」
ア「叶?」
レ「何が起こってるんだ…何か知らねぇか」
ア「何って…」
レ「叶!おい起きろ!」
ア「だって夢だし」

手を止め、アリテーを見るレックス。

レ「今、なんて…」
ア「凄い。リアリティがあるね」
レ「何だよ、夢って」
ア「全部僕の夢だ。様子がおかしかったけど、案内人だっていた」
レ「ずっと何言ってんだ…?」
ア「いいんだよ、君は登場人物だから。その人だって大丈夫」
レ「(顔をしかめる)」
ア「ここは夢の世界なんだ。僕の。つまり」
レ「俺は今、アリテーの夢の中ってことか?」
ア「そう。物分かりが良いな、やっぱり夢の中だ。君があたかも自我があるような態度をとるから、一瞬夢か疑ったよ」
レ「言っておくが、俺は元から物分かりはいいぜ」
ア「まさに君が言ってそうなことだ」
レ「自我もある」
ア「…そんなはずはない」
レ「レックスこと久住怜王18歳。誕生日は6月25日。AB型。好きな食べ物はオムライス」
ア「まさか」
レ「お前が知らないはずの情報だ。合ってるかどうかは現実世界の俺に聞けば分かる」
ア「本当に君も僕の夢にいるのか?」

ダリアが舞台から現れ、手を鳴らす。意識を失うレックスとアリテー。


暗転。



一場


明転。

放課後の空き教室。レックスと叶。レックスはノートを持っている。

叶「じゃあ、読み上げて」
レ「…えぇっと」

何も言わないレックス。叶、ノートを取ろうとする。が、取らせない。

叶「何で!?」
レ「何でも!」
叶「今まで見せてくれてたじゃん」
レ「プライバシー!」
叶「今更じゃん」

レックス、完全に叶と距離をとる。

レ「俺の夢日記そんなに気になるのかよ」
叶「隠されると余計にね。ていうかどうせ、レックスいい夢しか見ないし」
レ「今回もいい夢ではあったぜ」
叶「じゃあ見せてよ」
レ「無理だ」
叶「意味分かんない!内容ぐらい教えてよ」
レ「…人に会う夢」
叶「…それだけ?」
レ「うん」
叶「何で言えないの」
レ「何でもだよ」
叶「私が知ってる人?」
レ「うん」
叶「分かった、好きな人でしょ」
レ「…ちげぇよ」
叶「レックスほんと噓つくの下手だね」
レ「叶は相変わらずなのか?」
叶「話逸らした」
レ「夢、見てないのか」
叶「見れてないよ、いつも通り」
レ「もしかしたら今日でそれが解決するかもしれねぇぜ」
叶「そうだったらいいなぁ」


誰かが教室のドアをノックする。

レ「来たんじゃねぇか?」
叶「私開けに行ってくる」

叶が教室のドアを開け、立っていたアリテーと目が合う。

ア「どうも」
レ「アリテー!?」
ア「レックス。六限ぶりだね」
叶「アリテーって」
ア「三組の在本です」
叶「レックスと同じクラスなんだ。二組の春崎叶です。アリテー君だよね」
ア「僕のこと知ってるの?同じクラスになったことあったっけ」
叶「ううん。ないけど」
ア「すみません。僕人の名前を覚えられなくて。なんで僕のこと分かるんですか」
レ「アリテーは色々有名だろ」
ア「そうなんだ」
叶「頭が良くて」
ア「確かに」
レ「確かに!?」
叶「自由研究で賞を取ってて」
ア「そうですね」
叶「文化祭のステージも見たよ。ピアノめちゃくちゃ上手だよね」
ア「ありがとうございます」
叶「えっと…」

叶とレックスが顔を見合わせる。

叶「それ以外は知んないかも」
ア「そうですか」
レ「アリテーは三組の委員長でもあるぜ」
ア「誰もする気が無かったから」
叶「在本君真面目?」
ア「そうなんですかね。あとアリテーでいいですよ」
レ「しかしアリテーが来るとはな」
ア「いや、僕はここに用があってきたんですけど」
叶「裏掲示板見てくれたんでしょ?」
ア「…裏掲示板?」
叶「え」
レ「違うのか!?」
ア「もしかして、ここの学校の掲示板のことだったりしますか」
レ「そうそう」
ア「存在は聞いていましたが見てませんね」
レ「まじで違うのかよ」
叶「じゃあアリテーは何しに来たの?こんな空き教室に」
ア「野暮用です。僕だって聞きたい、なぜここにいるんですか?その様子だと誰か待ってるみたいだけど」
レ「あぁ、人を待ってる。来るかは分かんねぇ」
ア「分からない?」
叶「匿名で募集してみたの。その、例の裏掲示板に」
ア「そうだったんですか。裏掲示板、機能してるんですね」
叶「まぁ大体先生の悪口とかで…最後の書き込みも半年前だったけど」
レ「アリテーは何の用なんだ?」
ア「うーん」
レ「待ち合わせか?」
ア「待ち合わせ。そうですね、待ち合わせです」
叶「そうだったの!私ら邪魔者じゃん」
ア「そんなことありません。きっとすっぽかされたので」
叶「えっ」
レ「叶、ほっといてやれ…」
ア「うん。あまり触れないで下さい」
レ「その、なんだ。すまなっかたな」
ア「いいんです。ところで、その裏掲示板には何を書き込んだんですか」
レ「あぁ。それは…」
叶「どうしたのレックス」
レ「いや…」
叶「えっと、夢トークする人を募集してたんだ」
ア「夢トーク、ですか」
叶「そう。夢の話をしたくて。放課後ここの教室に来て下さいって…」
ア「夢…」
叶「アリテー君?」

ふと、アリテーとレックスが顔を見合わせる。

ア「…あ」
レ「あーーー!!」
叶「なになになに」
レ「お前、今日」
ア「えっ。待って。本当にそうなの」
レ「あぁ。思い出したぜ、お前も思い出したなら間違いねぇ」
叶「だから何が!?」
ア「僕達」
レ「俺達」
ア&レ「同じ夢を見た…?」
叶「えっ?」
ア「叶さん、レックスの誕生日は6月25日ですか」
叶「そうだよ」
レ「血液型は」
ア「AB型」
レ「好きな食べ物は」
三人「オムライス」
叶「えぇぇうそうそうそ」
ア「全問正解みたいだね」
叶「ちょっと待ってよ。どういうこと?」
ア「僕はレックスと同じクラスだけど、ほとんど喋ったことがないんです。でも昨夜、僕の夢にレックスが出てきて、僕の知らないはずのプロフィールを教えてくれた」
レ「『僕の夢』じゃなくて、あれは俺ら二人の夢なんじゃねぇか」
叶「同じ夢で、お互いを認識したってこと?そんなことがあり得るの」
ア「信じられないけどこうしてあり得てます」
レ「思い出した。叶、お前もいたんだよ」
叶「え?私も?」
ア「そうですね、いました。叶さん」
レ「まぁ叶は起きなかったけどな。寝たきりのお前がいたんだ」
叶「そ、そうなの?」
ア「叶さんは昨夜の夢の記憶はないんですか」
叶「夢」
レ「まぁ叶は意識がない状態だったんだから、わかんねぇと思うぜ」
ア「そうですか。だけど不思議だな」
叶「不思議だし有り得ないよ」
ア「同じ夢を見たのもそうですが、今ここにその夢に居た三人が集まっているのもです」

レックスと叶が息を吞む。

レ「…た、確かに。偶然とは思えねぇ」
叶「本当に二人は同じ夢を共有してたの…」
ア「有り得ないですね」
レ「そういやアリテー、夢の中でお前は最初からこれが夢だって分かってたみてぇな口ぶりだったな。俺は夢だと気付かなかったぜ」
ア「その話長くなります」
レ「別にいいよ」
ア「『夢トーク』をしなきゃだめなんじゃないですか」
叶「うーん、でも人来なさそうなんだよね」
ア「じゃあ今日は僕が夢トークに参加します」
叶「いいの!?」
レ「ありがとなアリテー」
ア「いいですよ。夢トークでは何を話すか考えてたんですか」
レ「あぁ。叶の夢についてだよ」
叶「私、夢を見れないの。小さいときは見てたはずなんだけど、中学生くらいから全く夢を見なくなって」
ア「見なくなるまでは、どんな夢を見てたんですか」
叶「夢っていうか、フラッシュバックみたいな感じ。実際にあったことが夢で再生されることが多かったな」
レ「気付いたら見なくなってたんだよな。中三の時、確かお前が入院した後か?」
叶「そうだったっけ?でも中三くらいかも」
ア「入院、ですか」
叶「あんま記憶ないけど、怪我しちゃって」
レ「俺も詳しくは知らねぇけどな…あんま話してくれなかった」
叶「正直もう覚えてないな」
ア「その怪我と関係あるんですかね」
叶「どうなんだろう。原因は分かんないし、生活に支障をきたすことも無いから放っておいたんだけど…」
ア「ということは、夢トークっていうのは叶さんの夢が見れないことについて話す予定だったんですね」
叶「そう。お医者さんに言うのも違うかなって」
レ「調べても、これ!っていう答えが無いんだよ」
ア「毎日ちゃんと寝ていますか」
叶「八時間睡眠だよ」
ア「はー」
レ「寝すぎなくらいなんだよな」
ア「強いストレスを感じてたりは」
叶「思い当たる節はないけどなぁ」
ア「不思議ですね」
叶「って、もう私の話はいいよ。こんなことより遥かに不思議なことが起きてるんだからさ」
ア「確かに有り得なさでは上ですね」
レ「叶はいいのか?」
叶「全然いいよ。私も気になる」
ア「ありがとうございます叶さん。じゃあこの不可解な夢の共有について話す前に、僕の夢の話をさせて下さい。さっきのレックスの質問にも繋がるから」
レ「アリテーが夢に気付いたことだな」
ア「はい」

アリテーにスポット。

ア「明晰夢って聞いたことありますかね」
叶「明晰夢?」
ア「はい。夢の中で夢だと気付く現象を指します。昨日の例の夢も明晰夢の一種だと思うんですけど。とにかく、意識がある状態で夢を見ることを明晰夢と呼ぶんです」
レ「じゃあ俺も明晰夢を見たことになるのか」
ア「そうですね。今回のは勝手が違うとは思うんですが。なんせ僕、明晰夢の使い手なんですよ」
叶「使い手?」
ア「使い手です」
レ「夢って使うものなのかよ」
ア「それが使えるんですよ。明晰夢はここがミソなんです。夢の中を意識すると、その夢を自在に操れるんですよ。例えば空を飛んだり、好きな人に会ったり、…人を殺したり。」
叶「…」
ア「大丈夫ですよ。それは無いですから。明晰夢を見たとしても、僕のやってることは現実世界とあまり変わらないです」
レ「でもいいな、明晰夢。何でもし放題じゃねぇか」
ア「確かに楽しいけど、明晰夢は楽しいだけじゃないんですよ。案内人が邪魔をしてくるんです」
叶「案内人?」
ア「『夢の案内人』と呼ばれるものです。明晰夢を見る際、同じ人が現れることがあるんです。その案内人は人によって異なっていて、全く知らない女の人だったり、実の母親だったり。そもそも人じゃないこともあります」
叶「なんか、想像できなさすぎて」
ア「まぁそうですね。明晰夢を頻繫に見る人は少ないですし、案内人と出会うなんて一握りです」
レ「それで、その案内人がどうしたんだよ」
ア「明晰夢の中で、案内人だけは操れないんです。案内人が夢から現実に引き戻してくるんですよ。自分の夢の中なのにそれだけはどうにもならないんです」
叶「夢の中で唯一敵対してる存在…的な」
ア「そうですね、いつも案内人に明晰夢を終わらせられるんです」
レ「じゃあ俺らが見たあれが明晰夢なら、あそこに案内人もいたのか?」
ア「いたかもしれませんね。レックスが起きてくるより前、僕の周りには三人倒れこんでいました。レックス、叶さん、そしてもう一人。その人が…」

教室のドアが開く音。明かりが戻る。ベリアがドアの前に立っている。ベリアに注目する三人。

ベ「えっと…合ってる?」
ア「こんにちは」
ベ「こんにちは」
レ「もしかして、掲示板を見て」
ベ「そう。『夢トーク』?をしに来たんだけど」
叶「来てくれたんだ!」
ア「皆さん初めましてですか」
レ「少なくとも俺は初めて会った。三組の久住怜王だ。皆からはレックスって呼ばれてる」
叶「私は二組の春崎叶。掲示板に書き込んだのはレックスと私だよ」
べ「春崎叶...」
ア「僕は三組の在」
ベ「アリテー」
ア「僕有名なんですね」
ベ「名前くらいは。私は四組の瀬野ベリア」
ア「…瀬野?」
叶「ベリアちゃん」
ベ「ベリアでいいよ。アリテーはなんでここにいるの」
ア「僕は偶然です。掲示板も見てないです」
ベ「でもアリテーが話してるように見えたけど」
レ「あぁ。アリテーの夢の話が面白くてよ」
叶「それは別にいいんだよ。ベリアは何を話したかったの」
ベ「本当に話していいの?何か、優先した方がいい話とか。無いの」
ア「見抜かれてますね」
レ「話すか?あの夢のこと」
叶「支障はないんじゃないかな」
ベ「聞かせてよ」
レ「あぁ…実は、ここにいる三人は昨日、同じ夢を見てるんだよ」
ベ「同じ夢」
叶「私は意識無かったけどね」
ア「僕と、レックス、叶さん」
レ「待て、アリテー、もう一人って」
ア「えぇ。あなた達二人だけじゃないですよ。案内人もそこに倒れていたんです」
レ「案内人が?」
ア「そうです。だからおかしいんですよね」
叶「あ、ベリア、案内人っていうのはね」
ベ「夢の案内人?」
ア「!」
レ「知ってんのか!?」
ベ「あなた達が知ってることに驚きだよ。まぁ夢トークするってくらいだからそりゃそうか」
レ「いや、俺と叶はアリテーから初めて聞いた」
叶「うん。知らなかったです…」
ベ「じゃあ明晰夢を見るのはアリテーなんだ」
ア「ですね。ベリアさんは夢の案内人に会ったことありますか」
ベ「確信はないけど、いつも会うのはあるよ。勿論明晰夢でね」
ア「聞いても?」
ベ「…トラック」
叶「トラック?」
ベ「そう。いつもいつも。いつもいつもいつも。トラックにはねられる。私は、悪夢しか見れないことを話しに来たんだ」
叶「悪夢しか、見れない…」
べ「ちなみに夢を操ったことはないよ。生々しい悪夢から逃げることしか考えられない」
ア「悪夢になるのは毎回ですか」
ベ「そう」
ア「精神削られますね」
レ「俺と逆だ」
ベ「いい夢ばっか見るってこと…?」
叶「あぁ~!レックスはそういう傾向にあるってだけで…」
ベ「…」
ア「レックス」
レ「あ…えっと!」

ベリアが微笑む。

ベ「いいじゃん。羨ましい」
レ「そ…そうか」
叶「救われたね」
レ「…」
ア「すみません。さっきの話の続きなんですが」
ベ「その前にちょっと確認していいかな。叶、レックス、アリテー、アリテーの案内人の四人が同じ夢にいたってことで合ってる?」
ア「そうですね。案内人らしき人がいたので僕の夢だと思ったんですけど。そもそも昨日僕が会った人物は、案内人じゃないのかも」
叶「アリテー君の案内人はどんなの?」
ア「黒髪の女の人です。セーラー服の。何も喋ったりはしませんけど」
レ「昨日の夢ではどうだったんだ?」
ア「セーラー服ではなかったですね。でも、顔がよく似ていたから」
ベ「案内人の顔をそんなハッキリ覚えてるんだね」
ア「まぁ…とにかく昨日の夢で見たのは案内人じゃないみたいです」
レ「俺は見てねぇから何とも言えねぇな。そこにいた奴に心当たりはあるのか?」
ア「今まではなかったですよ」
叶「今までは…?」
ア「ベリアさん。貴方昨日どんな夢を見ました?」
レ「まさか」
ベ「…誰かに起こされて」
ア「悲鳴を上げて逃げた」
ベ「!」
ア「似てると思ったんですよ」
叶「当たってるの…?」
レ「おいおいまじかよ」
ベ「私も、みたいだね」
ア「だとするといよいよ不思議なんです」
ベ「昨日同じ夢を見た四人が、偶然同じところに集まった…いや、これは」
ア「何者かによって『集められてる』みたいだ」
叶「私も見たかった」
ベ「叶は何してたの?」
叶「私は夢を見ないの。中学の時くらいからずっと」
レ「叶はずっと寝てたんだ。俺が起こそうとしたんだが、一向に目を覚まさなかった」
ア「ちなみにベリアさんは僕が起こしたとき何で悲鳴を上げたんですか。何かに怯えているようだったけど」
ベ「さっきも言ったけど、私は悪夢しか見れないの。だから、夢の全てが怖い。アリテーに起こされた時も、何か恐ろしいものが私を襲おうとしたんだと思って」
叶「怯える癖がついちゃったのかな」
ベ「そんな感じ」
ア「僕から逃げた後はどうしたんですか」
ベ「とにかく走ってた。暗闇の中をずっと。そのまま目覚めたし、特に何も現れなかったよ」
レ「俺らも急に目が覚めたんだ」
ア「…」
叶「有り得ないことが起きてるけどさ。これにはきっと、理由があると思うんだよね」
レ「理由?」
叶「うん。さっきアリテー君が言った『誰かに集められてる』っていうのは、あるかもしれない」
ア「僕たちはなぜここに集められたのか」
レ「考えてみたほうがいいかもな」
叶「うん。例えばさ、お互いの共通点とか…」

四人が話し始めたとき、チャイムが鳴る。

ア「下校時刻が近いですね」
レ「じゃあ今日のところは解散だな。皆は明日の放課後空いてんのか?」
ア「僕は何も無いですよ」
ベ「私は委員会の仕事。」
叶「ベリアは来れないんだね。じゃあ私と、アリテー君と」
レ「俺だな」
ア「レックスは卒アル委員の仕事があるんじゃ無いですか」
レ「忘れてた。流石委員長」
叶「明日はアリテー君と私しかいないのか」
レ「別日にしようぜ」
ベ「いや、話して見えてくることは絶対あると思う」
ア「では叶さん、また明日ここで」
叶「うん」
レ「そうかよ。…ほら、先生来る前に帰ろうぜ。」
叶「外結構暗いなぁ」

レックスと叶は先に靴箱へ向かう。

ベ「あの二人仲いいんだね」
ア「幼馴染らしいですよ」
ベ「へぇ。そうなんだ」
ア「…」
ベ「…私達も帰ろう」
ア「瀬野、ベリアさん。僕は最初、夢の中で貴方のことを案内人だと思ったんです」
ベ「…」
ア「もしかして貴方は」

暗転。トラックのクラクションが響き渡る。



二場


チャイム。

明転。

放課後。先に教室に来た叶が何かの道具をいじっている。するとアリテーが入って来る。

ア「こんにちは」
叶「こんにちは!昨日ぶりだね」
ア「ですね。今日も夢は見れずじまいですか」
叶「うん。相変わらずだよ。アリテーは何か夢は見たの?」
ア「何も見ていません。夢を見ること自体は操れないので」
叶「そうなんだ」

荷物を置いていくアリテー。

叶「…二人で何話すんだっけ」
ア「僕たちが何故同じ夢を見て、更に偶然集まったのかです」
叶「なぜって言われてもなぁ…」
ア「…」
叶「…」
ア「有り体に言って、話しづらいですね。僕らはお互いに接点がない」
叶「そうだね。っていうか、なんていった?アリテーに言って?」
ア「僕の『アリテー』じゃありませんよ。有り体に言う、って言葉です」
叶「ありてい…」
ア「有る無しの有るに、体で…ちょっと待って下さいね。書いた方が早いです」

アリテーがリュックからペンとノートを取り出す。

ア「隣失礼します」
叶「は。はい」

叶の横に座るアリテー。

ア「有り体に言う…は…こう書くんですよ」
叶「へぇ、初めて見る言葉だ」
ア「『素直にいうと』『ありのままにいうと』って意味があります」」
叶「アリテー君のアリテーって、在本定斗だからだと思ってたけど、有り体からきてるの?」
ア「いや、有り体は関係ありません。在本定斗だからなのもそうですが、僕がアリテーと呼ばれたいから、そう呼ぶように皆に言っているだけです」
叶「こだわりがあるんだね」
ア「こだわり。いや、まぁ。…アリテーってなんかカッコよくないですか」
叶「なんかカッコいい!」
ア「何ですか」
叶「いや、アリテー君って筋が通ってることばっかり言ってそうだから。ちょっと意外」
ア「僕だって適当にすることはありますよ」
叶「ほら、今だって敬語だし。何で皆と敬語なの」
ア「特に、理由は…外すことはできるよ」
叶「ホントだ。外したほうがいいよ」
ア「そう?じゃあやめる」
叶「おぉ」
ア「叶さんは夢を見ないんだったっけ」
叶「そうだよ」
ア「それ、見れてないことはないと思うんだよ。夢は見たか見てないかじゃなくて、覚えてるか覚えてないかだから」
叶「なるほどね。でも、こう何年も何年も続くかなぁ」
ア「そこですよね。見れていない時期が長すぎます」
叶「あ、戻ってるよ」
ア「…そうだったね」
叶「いいなぁ、私もまた夢を見てみたい」
ア「中学生の時だったっけ。見れなくなったの」
叶「うん」
ア「何かないの?その頃起こった重大なこととかさ」
叶「重大なこと」
ア「じゃなくても、印象に残ったことなんかも」
叶「そうだなぁ、丁度その頃、中学三年生の時、受験勉強が嫌すぎてさ」
ア「嫌すぎて?」
叶「文通してたの。色んな人と。この時だけだけどね」
ア「文通」
叶「うん。便箋も沢山あったから。それこそ文通掲示板なんか見て、住所交換して。それが結構印象的かも」
ア「手紙には何書くの」
叶「悩みかな。ありきたりだけど、受験がしんどいとか、家庭がしんどいとか。相手の悩みも聞いたりして」
ア「僕もやってたよ文通。一人と。本当に2、3往復だけど」
叶「そうなんだ!」
ア「僕も中三くらいだったと思う。その時は病気がちでさ。ずっと病院にいながら大人になっていくのに耐えられなかったんだ」
叶「入院中に文通してたってこと?私も入院中の子と文通してたことあるよ」
ア「僕以外にもいるんだね」
叶「掲示板にいた子にメールをしたら、病院の住所が送られてきてビックリしたんだよね。あ、そうだ。その子の手紙で覚えてる一節がある」
ア「どんなの」
叶「『病院のご飯が美味しくないまま、大人になりたくない。白い天井の未来から逃げたい。』」
ア&叶「『僕はまだ少年なのに』」
叶「…え」

目を合わせる二人。

ア「…有り得ないですねぇ」
叶「うそ、うわ、ええ!?」
ア「忘れてたんだ、お互い」
叶「ねぇ、名前書いてくれない?漢字で!」

アリテーがノートに名前を漢字で書いていく。

ア「こう?」
叶「あ…あーー!!!」
ア「どうしたの」
叶「さだと君!?」
ア「さだと?あぁ。なるほど…名前を間違えて覚えてたのか」
叶「字にも見覚えがある。さだと君だ!在本って…あぁ~!」
ア「ねぇ。実はさ」
叶「どうしたの」
ア「僕も、君のこと『かなえ』さんだと思ってた」
叶「さだと君も間違えてる」
ア「ていとだよ」
叶「ごめん、つい」
ア「初めまして」
叶「初めまして?」
ア「たった今、僕らは本当に出会った気がしませんか」
叶「…ちょっと分かるかも。初めましてアリテー」
ア「どうも」
叶「さだと君は覚えてない?」
ア「ていとね。覚えてない訳ないでしょ。ほら、言ったじゃん。僕名前は覚えられないんだって」
叶「ほんとだね。わ、なんか恥ずかしいな。私何書いてたっけ」
ア「事細かに思い出すのは難しいけど、手紙を読んだ時の感情は覚えてるよ」
叶「どうだった」
ア「嬉しかった。」
叶「そ、そっか」
ア「本当に僕のことを考えながら書いてくれてたよね。あの時はありがとうございます」
叶「やめてよそんな前のお礼なんか。でも、あのさだと君が今こんな風に元気なんてね」
ア「ていとだってば…わざとでしょ」
叶「良かった。私も手紙で話を聞いてくれたのが嬉しかったよ。境遇は違うけど、どこかで一緒に頑張ってるんだって思えた」
ア「いいじゃん。…叶さんは手紙捨てた?」
叶「捨ててない。探したらあると思うよ」
ア「僕も。でもさ。お互い手紙読み返すの無しにしない?」
叶「えぇ!何で」
ア「恥ずかしいし。叶さんはそうじゃないの」
叶「確かに恥ずかしいかも」
ア「じゃあ禁止で。約束ね」

小指を差し出すアリテー。叶も小指を結ぶ。

叶「小っちゃい子みたい」
ア「あんま馬鹿に出来ないよ。これだけで『口約束』じゃなくなるんだから」
叶「そうだね」

小指を離す二人。

ア「それにしても凄い偶然だな。これも僕らを集めた奴の狙いなのか」
叶「全然夢とは関係ないけどね」
ア「叶さんが夢を見なくなったのって、この文通の時くらいなんじゃない」
叶「気付いたらそうだったから正確には分からないけど、多分そうかも」
ア「じゃあやっぱり中学三年生の時なのか」
叶「あ!そうだ。見せたいものがあるんだ」
ア「もしかして、僕が来た時持ってたやつ?」
叶「そうそう、これ!実はさ」
ア「『ドリーマー』じゃん…」
叶「知ってるの?」
ア「まぁ…それがどうしたんですか」
叶「これさ、見たい夢を見れる!っていう道具なんだけどさ。ほら、付属の紙に見たい夢の内容を書いて。この紙も凄いよね。夢を司る特殊な電磁波を当ててるらしいんだよ」
ア「叶さん…詐欺とか気をつけて」
叶「なんで」
ア「何でもない。それで?」
叶「一回だけ使ったんだ。でも何も見れなくて」
ア「だろうね」
叶「でも、私だから見れないのかなって思ったんだ。だからさ、アリテー」
ア「はい」
叶「これ、使ってみてくれないかな」
ア「やっぱり」
叶「これほんとに高かったんだもん」
ア「なんで僕なの」
叶「皆嫌がるから」
ア「分かったよ。じゃあ今使う。下校時間まで二時間はあるでしょ」
叶「え、今!?」
ア「それを家に持って帰りたくない」
叶「ひどい」
ア「で、どうやって使うの」
叶「まずこの紙に、見たい夢の内容を書くの」
ア「じゃあ同じ夢を見たい。」
叶「!」
ア「…とかどうですか」
叶「見れると思わないよ。それとこれとは別の話でしょ」
ア「それもそうだね。じゃあ叶さんはなんて書くの?」
叶「そうだなぁ…もし本当に夢を見られるなら…静かな自然に囲まれる夢がいいな。」
ア「自然?」
叶「うん。川のせせらぎが聞こえて、緑の匂いがして、鳥が鳴いてる。そんな夢」
ア「夢じゃなくてもありそうな景色だけど」
叶「だから良いんだよ。どこにでもありそうだけど、それは私だけの景色だから」
ア「いいね」
叶「よ~し」

紙に書いていく叶。アリテーも書き込む。

叶「アリテーはなんて書いてるの?」
ア「ん?」

アリテーが紙を開いて叶に見せる。

叶「えっ。私?」
ア「そう。もしかしたらって思って」
叶「それで本当に私に会えたとしたら、恥ずかしすぎるかも。っていうか、もっと見たい夢とか無いの!」
ア「こんなの使わなくても僕は大体見れるから」
叶「うわ。そうだった」
ア「書けたよ。それでこれをどうするの」
叶「じゃあ機械にセットして…」
ア「うん」
叶「出来た!二人で使えるかは分かんないけどこれでいいはずだよ。ここから出る光がさ…」
ア「分かった。じゃあ寝よう」
叶「聞いてよ!」

教室の電気を消すアリテー。叶が机に突っ伏す。

ア「アラーム、6時にセットしとくね」
叶「うん。」

叶の横にアリテーが座る。叶の顔にタオルを掛ける。

叶「な、何!」
ア「今日は使ってないやつだよ。嫌だった?」
叶「じゃなくて」
ア「視界が暗いほうが眠れるでしょ」
叶「じゃあアリテーもそうじゃん」

叶がタオルの端をアリテーに掛ける。

叶「…」
ア「じゃ。おやすみなさい」

やがて眠りにつき、夢の世界。二人はいつの間にか地面で横たわっている。眠っていたアリテーが起き上がり、自分の頬をつねる。

ア「…痛くない。夢だ。暗い…明るさ…」

舞台上に明かりが戻る。横たわる叶を見つけるアリテー。

ア「叶さん!」

叶の半身を抱える。

ア「今すぐ起きてくれ。叶さん」

反応がない叶。

ア「もしかして、夢の共有がまた起こってるのか。今度は、僕と叶さんだけで。…丁度いい。試してみたいことがある」

アリテーが目を瞑る。

ア「チャイム」

学校のチャイムが鳴る。

ア「海」

波の音。

ア「レックス」
レ「よぉアリテー」

歩いてきたレックスがそのまま舞台を後にする。

ア「ベリアさん」
ベ「どうかした」

レックスと反対側から歩いてくるダリアが通り過ぎる。

ア「…叶さん」

反応がない叶。

ア「目覚まし」

目覚まし時計のアラームが鳴る。

ア「目覚まし。目覚まし。目覚まし」

何重にもなったアラームが鳴り響く。そしてやがて静かになる。

ア「…川のせせらぎ、緑の匂い。鳥の鳴き声」

川の流れる音がして、やがて鳥のさえずりが聞こえてくる。すると、ゆっくり目を覚ます叶。

叶「…あ…アリテー?」

驚くアリテー。だが直ぐ叶に微笑む。

ア「おはようございます」
叶「ん…え?どこ、ここ…」
ア「夢の中だよ」
叶「夢…私が、夢を」
ア「そう。ごめん。君が自分のものにしたかった景色をつくってしまって」

辺りを見回す叶。

叶「…綺麗」
ア「気に入ってくれましたか」
叶「うん。嬉しい。すっごく嬉しい」
ア「良かった」
叶「私の書いた夢もアリテーの書いた『叶さんに会う』ってやつも、叶ったね」
ア「…ドリーマーを販売しているのは、変な道具を法外な値段で売っている会社だから、もう買っちゃ駄目だよ」
叶「う…」
ア「それで。さっき試してたんだけど」
叶「何を?」
ア「この夢は操れるのかだよ。見てて。…夜。」

暗くなる舞台。虫の鳴き声。

叶「わぁ…!」
ア「何がいい?」
叶「え。じゃあ…」
ア「…ごめん。待って」

何かに気付くアリテー。全ての音が止み、舞台に案内人が現れる。

叶「黒髪、セーラー服...この人って」
ア「…」

案内人が叶に近づく。

叶「は、初めま」
ア「叶さん、駄目だ」

突如案内人が叶の耳をふさぐ。膝から崩れ、うつむく叶。離れていく案内人。

ア「叶さん!」
叶「…」
ア「待て!叶さんに何をしたんだ。おい!」
案「…」
ア「…ダリア!」

案内人が舞台からはける。意識が戻る叶。

ア「叶さん!」

するとゆっくりアリテーの方を見つめる叶。

叶「さだと君」
ア「え?」

叶がアリテーと小指を結ぶ。

(フランツ・リスト:『愛の夢』 CI)

叶とアリテーにスポット。

叶「約束しよう。君が明日の手術を終えて、元気になって病院から出られたら、私と会うって。それで、一人じゃないって思い合おう。どこの高校に行っても、授業をサボって遊ぼうよ。ムカつく奴にいたずらしよう。そうやって過ごすの。だって私達…少年少女だから」

結んだ小指がほどけ、倒れこむ叶。啞然とするアリテー。

ア「かなえ…さん」

場面変わり、レックスとベリア帰り道。

レ「気にすんなよ。もう結構暗いからな」
ベ「ごめんなさい」
レ「謝るなって。それよりさ…アリテー達は何話したんだろうな」
ベ「気になる?」
レ「いや、まぁそりゃあ」
ベ「そんなに気になるの?やっぱりレックスって、叶のこと」
レ「え!?なんでバレたんだ」
べ「結構分かり易いよ…」
レ「あ、おい車」
ベ「えっ」

トラックが通り過ぎる。

レ「トラックが通り過ぎただけだ。狭い歩道だから危ねぇな。ベリア、お前こっち歩け…ベリア?おい、しっかりしろ!」

暗転。


三場


明転。

放課後。ベリアが一人で教室で待っている。そこへ叶。

叶「あ、もう来てたんだ」
べ「うん」
叶「今日は皆集まれそうだよ」
べ「そう」
叶「昨日、レックスと帰ったんだって?」
べ「うん。帰るタイミングが合って。送るぜって言ってくれたの。優しいんだね、彼」
叶「そう!レックスは優しいんだよ。それで」
べ「どうかした」
叶「レックスから聞いたんだけど。大丈夫だった?」
べ「あぁ…大丈夫。ちょっと眩暈がしただけなの。いつものことだから」
叶「いつものことって」
べ「昨日は疲れてたのもあったんだと思う」
叶「そっか…」
べ「私の心配はいいよ。それより昨日アリテーと何話したの?」
叶「何から話せばいいんだろ」
べ「揃ってからにする?」
叶「そうしようかな。きっとアリテーの方が説明が上手だから」
べ「分かった。じゃあ二人だけの話でもしよっか」
叶「二人だけの?」
べ「そう。叶、瀬野ダリアを覚えてる?」
叶「瀬野…ダリア」
べ「…」
叶「…ごめん。分かんないや。ベリアも瀬野だよね」
べ「分からないの」
叶「ごめん。私、何か忘れてるんだね。頑張って思い出してみるよ。」
べ「本当に、忘れて...」

教室のドアが開き、アリテーとレックスが入って来る。

レ「おう。二人共来てたんだな」
ア「すみません遅くなって。HRが長引いたので」
叶「全然待ってないよ」
レ「ベリア、体調どうだ?」
べ「何ともない」
レ「そりゃ良かった」
ア「じゃあ座りますか」

四人がそれぞれ席につく。

叶「皆揃ったね」
ア「状況から整理しましょう」
レ「そうだな」
ア「まず。この四人は二日前、同じ夢を共有した。そして不思議なことに偶然この教室で集まり、謎を解明することにした…ここまではいいですか」
叶「うん」
ア「そして、僕たちはこの不可解な夢の共有を明晰夢の一種だと考えた訳です。明晰夢を見る僕、夢を見ない叶さん、悪夢しか見れないベリアさん、いい夢を見るレックス」
レ「俺だけのほほんとしてんな」
ア「まるで集められたかのようなこの四人には、何か夢以外の繋がりがあるかもしれない。そしてこうして集まっているわけですね」
べ「アリテー達は何か見つけた?」
ア「そうですね。進展のようなことはありました」
レ「マジか」
ア「大きく分けて三つ。一つは、僕と叶さんには繋がりがありました。中学三年生の時、僕らは文通をしていたんです」
べ「文通」
レ「はー。確かに叶は文通してたっけか」
ア「二つ目。叶さんが夢を見ることに成功しました」
レ「は!?そうなのか?」
叶「うん。実は」
べ「何年も、見なかったのに」
叶「ドリーマーを使ったんだよ」
レ「うわ。懐かしいなそれ。俺が捨てろって言ったやつ」
べ「ドリーマーってインチキな道具で有名でしょ」
叶「そ、そうらしいね」
ア「本当にドリーマーのおかげなのかは審議が問われますが。三つ目です。昨日、僕らは同じ夢を見ました」
べ「!」
レ「え」
ア「その夢ですが…」
レ「待て、お前ら何処で寝て」
叶「学校だよ!この教室。起きたら下校時刻ギリギリだったけど、二時間くらい寝てたんだ」
レ「そ、そうか。ってことは、叶が見た夢はアリテーと一緒だったんだな」
ア「そうです。更にこの夢は、少なくとも僕は操ることが出来ました。やはり明晰夢の一種なのは確かみたいです」
べ「叶は操れるか試してないんだね」
叶「うん」
ア「夢で叶さんが起きた後、僕の案内人がやってきたんです」
レ「案内人が?」
ア「はい」
叶「私はアリテーの案内人に会ってから記憶がないの」
ア「…起こされただけです。その後僕も起きました」
レ「益々謎が増えてねえか」
叶「だよねぇ」
べ「夢を共有しているのに、アリテーの案内人なんだね」
ア「そうなんです。そこで僕は仮説を立ててみました」
レ「何だ?」
ア「共有している夢の持ち主は僕かもしれません」
叶「ど…どういうこと?」
ア「これが全員の明晰夢なら、最初の夢でベリアさんはトラックに遭っているはずなんですよ」
べ「そうだね」
ア「だから今日は試したいんです。叶さん」
叶「はい。これだね」

叶がバッグからドリーマーを取り出す。

レ「うわ!持ってきてたのかよ」
叶「うわって言われた...」
べ「故意に、夢を共有しようって?」
ア「僕らがトラックに遭えば、この仮説は破られるんです」
レ「面白そうだな、やってみようぜ」
ア「今日はドリーマーで夢の共有を図る。これはいいですか」
叶「いいよ」
レ「俺も」
べ「うん」
ア「ありがとうございます。じゃあこの紙にここの皆と会う、といったことを書いて下さい」
レ「これに書くんだな」

紙に記入しだす一同。

べ「これでいい?」
ア「完璧です」
レ「叶、アリテー、ベリアと会う…っと。できたぜ」
叶「私も書けたよ」
ア「うん。大丈夫そうですね。じゃあ、寝る前に一つだけ。僕はこの四人の繋がり、分かったかもしれません」
レ「な…何だよ」
ア「瀬野ダリアです」
叶「あ!また…」
レ「ダリア?ベリアじゃなくてか?」
ア「はい。恐らく…ベリアさんのお姉さんだと思うのですが」

ベリアを見る一同。黙り込むベリア。

叶「ベリアの?」
べ「...そう。瀬野ダリアは私の姉」
ア「やっぱりそうでしたか。最初の夢を見たあの日、貴方に確認しようとしたんですが」
べ「聞かないでって言ったのに」
ア「すみません、ズルい方法で聞いてしまって」
レ「おい、そのベリアの姉ちゃんがどうしたんだよ」
ア「僕の案内人が瀬野ダリアだからですよ」
叶「あ…あの人が、ベリアのお姉ちゃん?」
ア「そう。僕らが最初に集まった日、夢でダリアに言われた気がしたんです。校舎三階の空き教室…あれは確かにメッセージだ」
レ「待ち合わせってのは嘘だったんだな」
ア「ですね。僕はダリアに導かれて行ったんだ。そしたら君たちがいた」
べ「なんでお姉ちゃんがアリテーの案内人になるの」
ア「僕はダリアと仲が良かった。入院中、深夜に抜け出した公園でダリアと会ったんです。それから一週間に一度深夜に会う仲になった」
叶「じゃあ、私と文通してた時?」
ア「いえ、それより少し前です。僕は入院中ダリアに救われていた。だけどダリアは突然いなくなったんだ…僕は彼女の現状を知る術を何も持っていなかったから、それっきりだ」
レ「お、お前とベリアの繋がりは分かったけどよ、俺と叶はそのダリアってやつと何で繋がってると思ったんだ?」
ア「ダリアの話に君が出てきたことがあるんだ、レックス。しかも何回もね。きっと家が近いんだろう。必然的にベリアさんとも」
レ「確かに、昨日二人で帰った時に家が近いって話はしたな」
ア「泣いてる叶さんを慰めているところだったり、困っている老人を助けているところだったり。ダリアはよく君を見かけて僕に話した。勇敢で優しい、君と同じくらいの少年がいるって」
叶「私も見られてるね…」
ア「実際レックスはダリアと話したことがあるんだ」
レ「いつだよ」
ア「深夜。僕に会いに来る途中、少年に話しかけられた。『こんな時間に出歩いてっと危ねぇぞ』って。少年のほうが危ないのに。その少年はレックスと名乗った。ダリアが確かに言っていたんだ」
レ「あの時の姉ちゃんか。夜が怖いっていう叶に会いに行ってた途中だったんだ」
叶「ちょ、さっきから私の恥ずかしい話がちょくちょく出てるの何なの」
ア「とまぁ、ここまで言いましたが、実は叶さんとダリアの繋がりは分かりません。何か知りませんか、ベリアさん」
べ「…」
レ「…言いたくないのか」
ア「僕はベリアさんの話で、この謎にかなり近づけると思っていますよ」
べ「アリテーはやなやつだね。でもいいよ。もう変に隠すこともないから。私のお姉ちゃん、瀬野ダリアは…私たちが中学三年生の時。トラックにはねられて亡くなったんだ。」
ア「…」
べ「私の目の前で。私の悪夢はそこから始まった。大好きだったお姉ちゃんを、私は目の前で亡くしたんだよ。しかも…貴方を庇ってね」
叶「…え」
べ「お姉ちゃんは体が咄嗟に動いちゃう人だから、放っておけなかったんだろうね。幸い貴方は軽傷で済んだ。でも、お姉ちゃんは…」
レ「…そうだよ。俺達が中学生だった時、叶は事故に巻き込まれて入院したんだ」
ア「もしかして、叶さんは記憶が無いんですか」
べ「頭かどこかを打って、記憶が一部飛んだって聞いたよ。本当だったんだね」
叶「…あ…!」
べ「思い出した?」
叶「私……」
レ「叶、落ち着け!」
叶「…っ」

その場で倒れてしまう叶。

ア「叶さん!」
レ「叶!」
べ「でもまさか、今まで…忘れてたなんて。私は…!…」

ベリアが意識を失う。

レ「おい!ベリアまで…っなんだ…これ」

レックスが意識を失う。

ア「…そうきたか。怒らないでよ、ダリア。君がいないことは薄々分かってたんだ。僕もそっちにいくからさ。」

アリテーが意識を失う。



四場


(エリック・サティ:『ジムノペディ』 CI)

舞台上に倒れている四人。中央に案内人、ダリアが佇む。レックスが起きてくる。

レ「!俺、どうなって」

ダリアを見つけるレックス。

レ「うわぁ!」

横たわる三人を見つけるレックス。

レ「うわぁ!?」

慌てて叶を揺さぶるレックス。

レ「おい!起きろ。叶!...ダメだ。でも、息はある。眠ってんのか。そんで...お前は」

ダリアに近付くレックス。

レ「お...おい」
ダ「…」
レ「駄目か。でも頭が冴えてきたな。叶やベリアが倒れて、俺も意識を失ったんだ。ここは多分、夢だな」

レックスがダリアの方を向く。

レ「で、お前は案内人だ。黒髪のセーラー服。アリテーの言ってた特徴と一致するからな」
ダ「…」
レ「待てよ。ここが夢ってことは、もしかして操れたりできるのか!?」
ダ「出来ないよ」
レ「うわ!?」
ダ「定斗が言ってたでしょ。この夢の持ち主は定斗なの」
レ「喋れるなら最初から喋れよな...」
ダ「初めまして...いや、久しぶりというべきかな。久住怜王君。定斗から色々聞いてるよ」
レ「何話してんだあいつ、俺のことなんて」
ダ「『僕のクラスのレックス。よく課題を見せてくれって頼まれる』」
レ「そ、その節は大変お世話になっております...ていうか、アリテーが案内人と喋ることは無いって言ってた気がするんだが」
ダ「私は喋ってないよ。定斗が一方的に話しかけてくるだけ」
レ「三年間、ずっとか?」
ダ「そうだよ」
レ「すげぇな、アリテーのやつよっぽどお前のこと好きなんじゃねぇか」
ダ「好きだったよ」
レ「えっ。…えっと。仲良かったんだな」
ダ「うん。定斗やベリアを置いて行ってしまったのには後悔してる」
レ「それでアリテーの夢に出てんのか?そもそも、俺らに同じ夢を見させて何がしてぇんだ」
ダ「知りたい?じゃあ言ったげる。あのね」

レックスの耳元で囁くダリア。

ダ「君たちを夢に閉じ込めるためだよ」
レ「…は」
ダ「言っちゃった!」
レ「閉じ込める?夢から醒めれねぇようにするとでも言うのか?」
ダ「そうだよ」
レ「それって、現実世界の俺達は」
ダ「さ、ネタバレも済んだことだし、皆にも起きてもらおっか」
レ「待て!」

ダリアが指を鳴らす。次第に起きてくる三人。

叶「ん…ここ、どこ」
ア「(頬をつねる)...痛くない」
レ「お前ら!」

辺りを見回し、ベリアがダリアを見つける。

ア「…いたのかダリア。僕たちまた同じ夢を見」
ダ「久しぶりだね、ベリア」
ア「…!」
べ「お姉ちゃん!」

ダリアに抱きつくベリア。だが、レックスが引き剝がす。

レ「ベリア離れろ!」
べ「なに!やめてよ!」
ア「ダリアが…」
レ「あぁ喋ったな!アリテー、夢から醒める方法とかないのか!?」
ア「…有り得ない」
レ「アリテー!」
叶「レックス、落ち着いて」
レ「落ち着けねぇよ。早く、早く夢から醒めねぇと」
べ「醒めなくていいよ。もう」
レ「何言ってんだよ!」
叶「レックス、なんか知ってるの」
レ「あぁ。そこの案内人だか瀬野ダリアだか知らねぇが、このままだと…殺されるぞ!」

静まり返る三人。

ア「…状況を、整理しましょう」
ダ「冷静なんだね。ただでさえ私が喋って動揺してるのに」
ア「…」
ダ「皆がパニックにならないように頑張ってる。分かってるよ」
ア「僕も成長したんだ。まず、今僕らはまた夢を共有してるってことでいいですか」
叶「うん。多分ね」
レ「教室でまず叶が倒れた。そんでベリア、俺、今ここにアリテーがいるってことは」
ア「えぇ。僕も意識を失ったんです」
叶「これも、あなたがやったの?」
ダ「そう」
ア「案内人にそんな権限があるのか」
ダ「現実に干渉するのはなかなか大変なんだよ」
叶「どうなってるの…」
ア「何で今まで喋らなかった」
ダ「私と話せるほうが、定斗が辛くなると思ったの」
ア「…」
レ「アリテー、お前が聞きたいことは他にあるか」
ア「…ない」
レ「そうか。俺は最初に目覚めてこいつと話したが、この夢の持ち主はアリテーらしい。だからここにはトラックはこねぇし、アリテー以外が夢を操ることもできねぇ」
ダ「レックス君の方がよっぽど冷静だね」
ア「僕は今ちょっと君のことが嫌いになりそうだ」
レ「そんでこいつは俺達四人を夢に閉じ込めようとしてる」
べ「その、閉じ込めるっていうのはどういう意味なの」
ダ「そのままだよ。この世界にずっと居てもらうってこと」
レ「そんなことが出来るのかよ」
ア「何を言っているのか分からない。いくら何でも僕らに干渉しすぎだ」
ダ「できるったらできるの。夢の世界は現実世界の人智を遥かに超えてるんだから」
べ「お姉ちゃんは何が目的なの。私達を閉じ込めて何がしたいの」
ダ「ずるいんだよ君達はさ。沢山の人と会って、楽しく生きて。定斗が楽しそうに話すから嫉妬しちゃうの。だから君達を呼んだ。私と永遠に夢に居てもらうの」
ア「ダリア…君はそんな人じゃない」
ダ「失望しなよ。そして選んで、夢の世界で生きることを」
ア「…選ぶ?」
べ「私は覚悟できてるよ」
叶「ベリア」
べ「お姉ちゃんは怒ってるんだよ。まだ生きたかったはずなのに生きられなかったことに」
レ「叶のせいだとでも言うのかよ」
べ「そうだよ叶の所為なんだよ!」
叶「…!!私…どうしたら」
レ「叶、お前は悪くない。誰も悪くないんだよ...」
ダ「定斗はどうするの?私と夢にいることを選んでくれるよね」
ア「…」
レ「アリテー駄目だ」
ア「心配しないで、レックス。僕はもう間違えないから」
ダ「間違えない、ね」
ア「あぁ」

アリテーがポケットから手紙を取り出す。

叶「あっ!」
ア「ごめん叶さん。僕から約束したのに」
べ「手紙...?」
ア「そう、僕が叶さんから貰った手紙だ。昨日ドリーマーで叶さんと夢を見た時、最後に叶さんが手紙の一節を思い出させてくれた」
叶「私が?」
ア「ダリアに眠らされた後だよ。君は夢の中で気を失った...その後だ。君が僕に言ったんだ。僕が無事に退院出来たら、二人で会おうって。一人じゃないって思い合おうって。君から手紙が途絶えて忘れてしまっていたけれど、確かに思ったんだ、一人じゃないんだって。僕は...ダリアが居なくても大人になっていくんだって。」
レ「アリテー...」
ア「だから...僕らは帰るべきなんだ。ベリアさん」
べ「私は…」
ダ「ベリア」
べ「お姉ちゃん」
ダ「選ぶの」
べ「!」
ダ「大好きよ、ベリア。貴方は賢いからきっと分かる」
べ「…お姉ちゃん、分かった。覚悟は出来た。私も…目を覚ますから」

ベリアがその場で崩れ落ちる。ベリアを抱きしめるダリア。

ダ「ごめんね、怖いこと言って。でも乗り越えて欲しかったの…泣かないでよ」
レ「ってことは、夢に閉じ込めるっていうのは」
ダ「そんなことしないよ。出来もしないと思う」
レ「なんだ…本気でビビったぜ」
ダ「ごめんなさい」
ア「ベリアさんの悪夢も、これで緩和されればいいんですけど」
レ「トラックはダリアを亡くしたトラウマだったんだ」
ダ「…そうだね」

ベリアの顔に両手を添えるダリア。

ダ「でもベリアはもう、悪夢を見ない。何てったって私の死を乗り越えたんだから。夢の世界の私が保証する。だから…安心していいの」
べ「うん。もう、悪夢を終わらせる」
ダ「そうだね。ベリアなら大丈夫。…あと、叶ちゃん」
叶「はい!」
ダ「ごめんね。私が思うにあなたが夢を見ないのは、見てしまうと思い出してしまうからなんだと思う。事故に遭った時から、記憶を封印して思い出さないようにしてた…とか。でも、何も気負わなくて良い。あなたが無事で良かった」
叶「ダリアさん...」
ダ「で、定斗」
ア「僕は途中から気付いたよ。夢に閉じ込めるなんて君はしない。本当にそのつもりなら選ばせるなんてことさせずに、さっさと閉じ込めればいい。ただ、僕らの背中を押そうとしてたんだろ」
ダ「流石だね」

手紙を広げるアリテー。

ア「『私は存在する。夢じゃない。だから、絶対にいつか会おうね』って…叶さんがそう言ってくれたんだ。僕ももう、夢に逃げない」
ダ「偉いね。やっと安心できそうだよ」
ア「…ダリア。でも君は」
ダ「忘れていいの。私のことを忘れて生きるの。敬語で皆と喋っているのだって、多分あれでしょ、私が『敬語がうまい人が好き』~って…」
ア「そ!…れ以上喋らないでくれ..」
叶「なんだ、理由あんじゃん」
べ「アリテー、あんた...」
レ「アリテー...」
ア「ほら!こうなるだろ」
ダ「ごめん。お詫びに帰してあげるからさ」
べ「帰すって」
レ「お、おい」
ダ「さようなら、大好きだった。もう二度と会わないでね」
叶「待って、まだ」
ア「ダリア!」
ダ「おやすみ」

ダリアが手を鳴らす。その瞬間、ダリア、レックス以外の三人がその場に倒れる。

レ「…あ?」
ダ「さて、と」
レ「え」
ダ「…」
レ「俺は!?」
ダ「あはは。ごめん、後で君も帰すから。安心してよ」
レ「わざと俺を残したのか」
ダ「そう。物分かりがいいね」
レ「アリテーにも言われたな、それ」
ダ「そうなんだ。じゃあレックス君、貴方が残された理由は分かる?」
レ「さっぱり」
ダ「まぁそうだよね。でも思わなかった?私が夢を共有させたのは、私の事故で傷を負った三人に前を向かせる為だった。じゃあ貴方が呼ばれた理由」
レ「それは気になってたぜ。アリテーとベリアはお前を失った、叶は記憶を封印した。俺は事故に何も関与してねぇからな」
ダ「だねぇ。君ならいいと思ったんだ」
レ「何がだよ」
ダ「端的に言えば、私の代わり。あの子たちを救ってしまうところが、私とちょっとだけ似てるの」
レ「はぁ?」
ダ「誰にでも優しくて、皆を正しい方へ導いてくれる。あの子達…特にベリアはずっと塞ぎ込んでたから。後は貴方が救ってほしいの」
レ「救うっつっても...」
ダ「傍にいてくれるだけでいい。叶ちゃんにしてるみたいにね」
レ「叶は付き合いがなげぇからな」
ダ「定斗に取られても知らないよ」
レ「やっぱ、叶、アリテーのこと」
ダ「半分冗談だよ。叶ちゃんがどう思ってるのかは分かんないけど...定斗のこと気になってるように見えた」
レ「ま、そうだったら取り返すだけだ」
ダ「やるじゃん。私はもう消えるみたいだし、余計な事は言わないよ」
レ「消えるのか!?」
ダ「うん。多分ね」
レ「アリテーの案内人なんじゃなかったのかよ」
ダ「定斗が私を案内人にした…っていうほうが適切かもしれない。気付いたらそうだったから。私に会いたい定斗が、明晰夢を使って私を呼んでしまった…ってところかな」
レ「アリテーが、お前を呼んだ...にしても何でお前が消えることになるんだよ」
ダ「分かるの。もう私に案内人の権限が無いことが。あなた達を呼ぶのに頑張りすぎたのかな。直に消えちゃうかも」
レ「本当に、二度と会えないのか」
ダ「そうね。さ、皆のレックス君」
レ「なんだそれ」
ダ「私からのメッセージ。大人になっていく君達は、依然として少年少女である。そのままでいい。でも、終わった夢はもう二度と見れない。縋っちゃだめ…また新しい夢を見るの。だって貴方達、少年少女だから」
レ「あいつらに伝えればいいのか」
ダ「ううん。この話は私達の最初で最後の秘密ってことで」
レ「分かったよ」
ダ「我儘聞いてくれてありがとう、レックス君。じゃあ。いい夢を」

暗転。



五場


明転。

叶「…レックス!」
レ「あ…?]
べ「やっと起きた」
ア「レックス。君は寝起きが悪いんだな」
レ「ここ…」
叶「教室だよ。もう帰らなきゃ」
ア「もしかしてだけど、ダリアと何か話したの」
レ「…いいや。なーんにも」
べ「怪しい」
レ「ほんとだよ。あーよく寝たぜ」
叶「なんか白々しいんだよね」
レ「ベリア、今日は俺らと一緒に帰ろうぜ」
べ「そのつもりだけど。急にどうしたの」
レ「なんもねぇよ」
叶「あ、これ片付けなきゃ」
べ「帰ったら捨てなよ」
叶「高かったのに」
レ「アリテーの明晰夢はどうなるんだろうな」
べ「きっとお姉ちゃんはもう出てこないんじゃないかな」
叶「新しい案内人?」
ア「…いや、僕はもう明晰夢を見ないよ。夢に、ダリアに逃げないって決めたんだ...それより」
レ「何だよ」
ア「いや、ごめん。君に聞きたいことがあるんだ」
叶「私に?」
ア「うん。文通のことだよ。君は途中から手紙を返さなくなっただろ?」
叶「あぁ~…」
レ「…」
べ「なんでレックスがバツの悪そうな顔してんの」
叶「いやぁ、私が文通してるのみて、レックスに止められたんだよね。顔も知らない相手に住所を教えるなんて危ないって」
ア「君のせいか…」
レ「だってよ」
ア「君に叶さんの文通を止める権利はないはずだよ」
レ「怒ってんのかよ!?」
叶「まぁまぁ。もう終わったことだし」
ア「またしてもいいけどね。する?叶さん」
レ「しなくていいだろ!」
ア「怒ってるのか?」
べ「モテモテだね、叶」
叶「反応に困るよ」
ア「待って、足音」

足音が聞こえる。

レ「やべぇ、先生じゃねぇか?」
叶「急いで帰ろ」

レックス、ベリアに続いて叶も教室を出ようとする。だが叶、アリテーに腕を掴まれる。

叶「!」
ア「(腕を離す)叶さん」
叶「ど、どうしたの」
ア「...遅いかもしれないけど。僕は叶さんと会う日を待ってた。また今度、授業をサボって遊んだり、ムカつく奴にいたずらしたりしよう。」
叶「いいね。約束しよ」

二人、小指を結ぼうとする。するとレックスとベリアが駆けつけ、勢い良く教室に入って来る。

レ「何してんだよ!」
べ「何してんの」
叶「怖いって!えっと(アリテーに視線を送る)」
ア「(叶を見つめて)口約束にはしたくなかったんだけど」
叶「え!?」
レ「何の話だよ!」
ア「早く帰ろう」
べ「ホントに何してたんだか」
レ「…(叶を睨む)」
叶「目が怖いって」

四人が舞台からはけていく。すれ違うようにダリアが現れるが、四人は気付かない。

(クロード・ドビュッシー:『夢』 CI)

ダ「恐竜、実現、アリストテレス。同床同夢の少年少女。悲しいくらい良い夢を。怯えないでいいの、ベリア。救ってレックス。夢を見て叶。終わった夢は二度と見れない。そうでしょう、アリテー。呪いの代わりに、消えない愛を。

さようなら、諸君。いい夢を。」

ダリアが舞台からはける。


終幕。

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