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「スナフキンの枕」

春先 雪芽
灰谷 優巳
緑樹 冬夜
南 有紗
伊村 苺
澄 優利
理崎 未織
榎枝 治
トッフル
ナレーション


ナ「こんな所に、本が落ちています。おや、一人の男の子が通りがかりました。寂しがり屋の彼は、ひとりぼっちのこの本を持って、友達を探す旅に出ることにしました。彼の名前は…」


第一幕

高校の放課後。とある教室。文芸部の部室では高校三年生の春先雪芽と伊村苺、二年生の澄優利が、机の上の封筒と睨み合っている。

雪「もしあかんかったら…何の所為にする?」
澄「雨」
雪「良いやん、シンプル」
苺「私」
雪「伊村は関係ないやろ」
澄「後は何ですかね、…おさむんの力不足」
雪「ああ〜〜良い、顧問の所為にしていく感じね。自分の惨めさが際立ってええやん」
苺「水星逆行の所為」
雪「どういうこと?」
澄「Twitterで見たかも」
雪「え、何」
苺「年に数回、地球から水星が逆行して見える時期があるんよ。それの四回目が丁度十二月頭からやから」
雪「急にスピリチュアル」
澄「そんな影響あります?」
苺「三回目は九月からやった」
雪「九月なぁ。あほみたいに台風来てた記憶しかないわ。…え、それ?」
澄「待って、その、水星逆行?いつまで続くんですか」
苺「前は九月から十月らしい」
澄「俺九月めっちゃ早退したんですよ、なんかずっと体調悪くて」
苺「ほらな」
雪「偶然やろ?」
澄「いやいや、それで俺免疫下がったかな?って思って、栄養ドリンクにも頼ったんです。」
苺「うん」
澄「一日三本飲んでも気持ち悪い時あったから、やっぱり水せ」
雪「原因それやん」

部室に治が入ってくる。

苺「あ、おさむん」
雪「やっぱゆきはおさむんの所為にするんが良いと思う」
治「何かしらの責任転嫁された」
澄「おさむん、今雪芽先輩の人生のターニングポイントなんですよ」
治「その前に一つだけええか?あんな」
苺「何ですか」
治「おさむん呼ぶんはええよ。でも頼むから他の先生の前ではやめてな。ほんまに」
雪「なーんやそんなことか、分かりましたよおさむん先生」
治「何も分かってないやん」
苺「私達おさむん先生困らすのが趣味みたいなとこあるんで」
治「悪趣味すぎん?」
苺「にしても先生、今日部活来るん早いですね。どうしたんですか?」
治「あぁ。理崎探しとって」
澄「未織ちゃんなら図書室やと思いますよ」
治「図書当番か」
雪「そんでさ」
雪「そろそろ開けていい?」
苺「ええよ」
治「え、何を」
澄「いいですよ先輩」
治「それはなん、」
雪「えぇい!!」

雪芽、勢い良く封筒から紙を取り出し、広げて見る。

澄&苺「…」
雪「…貴殿は上記の試験の結果…」
雪「…合格と判定致しました!!」
澄&苺「!!!」
澄「やった!!!」
苺「おめでとう雪芽〜!!!」
澄「おめでとうございます!!」
雪「良かったああ!」
治「おめでとう雪芽、なるほどな、合格通知か!芸大受かったんやなぁ!」
雪「おさむん〜〜おさむんのおかげです」
治「手応えアリ言うてたやん、紛れもない雪芽の実力やわ」
苺「おさむんに責任いかんくて良かった」
治「…なるほどな…」
雪「水星逆行も大したことないな」
澄「え、じゃあ俺の胃の不快感は」
雪「副作用やな」
治「合格通知は家で開けんかったん?」
雪「文芸部の2人とどうしても開けたかったんです、AO対策一緒にしてくれたから」
治「友情やなぁ」
雪「親にはキレられました」
苺「せやろなぁ」
治「ほんじゃこれで、ビブリオバトルにも専念できるな?」
苺「すぐ授業の話する」
澄「ビブリオバトル?」
雪「おさむんが三年の授業で『図書室で見つけた本でビブリオバトルする』って」
苺「一言で言うたら、図書室で見つけた本を紹介して、一番面白そうに紹介した人が勝ち」
澄「めんどくせ〜」
治「発表が楽しみやわ」
雪「な、なぁ」
苺「ん?」
雪「ゆきさ、他にも見せたい人おるんよ。榎枝先生、それで今日はもう」
治「あぁ行ってき行ってき」
雪「ありがとうございます。さようなら」

雪芽、部室から出ていく。

苺「雪芽が先生のこと苗字で呼ぶ時は」
澄「提出物出してない、遅刻した、忘れ物…」
治「まぁ、何らかの隠したいことがある時やな」
澄「怪しい」
苺「あんま詮索したらんとこ」
澄「そうですね。あ、先生俺もちょっと図書室に用事あって」
治「澄が?」
苺「図書室に?」
澄「何すか」
苺「澄、急に偏差値高いフリしてもしんどなるだけやで」
澄「俺を何やと思ってるんですか?」
治「いや伊村、フリから始めるのはいい事やで?」
苺「あぁ〜、志的な」
治「まぁそんなとこや。ほら、行ってこい」
澄「何なんすか…」
治「あぁ、澄。図書室行くんやったらついでに理崎も呼んどいて」
澄「了解です」

澄、部室を出ていく。
二人きりになった治と苺。

苺「最近図書室通ってるんです」
治「そうなん?何しに」
苺「さぁ…」
治「!そうそう」
苺「はい」
治「伊村の本も読んだで」
苺「えっ…もう読んだんですか」
治「あぁ、図書室にあったから」
苺「ああああれを!?あれは書き直そうと思ってて」
治「恋愛ものはよく分からんけど…」
苺「新しいの書くので!!!待ってて下さい!!!」

場面変わり、少し前の図書室。
図書委員の理崎未織が受付にいる。が、寝ている。
三年七組の南有紗、灰谷優巳が本棚の前で話している。

灰「南さんは決まった?」
南「全然。でもやっぱり、文学が好きやから…」
灰「じゃあ、ここら辺の棚かな。夏目漱石。芥川に太宰!俺も知っとる名前ばっかりや」
南「大体読んだことある」
灰「そうなん!すごいな南さん。本好きなんや?」
南「ううん。暇なだけ」
灰「そう?俺からしたら凄いけどな。文学はムズすぎてわからんわ…」
南「でも、灰谷君よく本読んでる」
灰「専らミステリーやで。どんでん返し読むんが一番楽しいんよ」
南「ミステリー!私も好きやで」
灰「ほんま!?俺さ、よく本読みながら思ったこと書き込んでんねんけど…見てこれ!」
南「考察ノート…?」
灰「うん!」
南「あぁ!犯人が誰か考える為の」
灰「いや、俺は犯人最初に知ってから読むで」
南「え?」
灰「え?」

すると図書室の入口の来客カウンターの音が鳴り、緑樹冬夜が入ってくる。

灰「おぉ、冬夜。掃除終わったん?」
冬「うん、割とすぐやった。…あれ?有紗さん。」
南「と、冬夜君」
冬「授業ぶりやな。優巳は…考察ノート持って何話してんの」
灰「冬夜にも見せたよな」
冬「有紗さん聞いてよ。こいつさ、ミステリー最後から読む癖に考察ノート書いてんねん」
南「え!」
冬「びっくりよな」
南「理解できひん」
冬「考察って言葉知らん?」
灰「何よ二人して」
冬「ごめんな有紗さん、変な話に付き合わせて。有紗さんは何しに?今日図書当番やっけ」
灰「さっきの現文で、ビブリオバトルの準備一緒にしよーって話になったんよ」
冬「有紗さんもなんや。僕も居るけどええかな?」
南「あ、全然問題、無いです」
冬「良かった。二人はもう本決まった?」
灰「俺は決まったで」
冬「何なん?…て、お楽しみか。」
灰「ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』」
冬「言うんや。朝読で読んどったやつやんなそれ。」
南「え…」
灰「そうやで」
冬「せこいな?」
灰「何がせこいん?」
冬「榎枝先生言っとったやろ?『図書室で』見つけた本って。ここで見つけた本やないとあかんかったような」
灰「まじで?…(南の方を見る)」
南「(頷く)」
灰「詰んだ」
冬「ちゃんと話聞いとかなな」
南「ミステリーなら、そこの二番目の棚にあるよ」
灰「うそ!」

灰谷が少し離れる。必死で読んだことのあるミステリー小説を探している。

冬「…今日の当番未織さんやっけ。寝とるけど」
南「前の委員会で言っとったけど、やっぱり進んでしてるんやって。この時間が落ち着くみたい」
冬「そうなん?なんか悪いな。僕らが邪魔してもてる」
南「そうやね、ビブリオバトルの準備で三年生来るから…」
未「…あの」
南「ひゃっ!」
未「聞こえてます…私のことは気にしないで下さい。」
南「ごめんね」
未「むしろ堂々と寝てしまって申し訳無いです」
南「いやいや、本来なら未織ちゃんの時間やから。三年生がうるさかったら、図書委員として注意してくれていいからな」
未「ありがとうございます」

未織、言い終わるとどさっ、と倒れる様に机に突っ伏し、すぐ寝てしまう。

冬「(小さい声で)あんま眠れてへんねんな」
南「うん」
冬「じゃ僕らもはよ選んでまおか。ね、有紗さん。」
南「うん。私はもう目星付けてて…えっと…(背伸びをする)ここの…」

冬夜が後ろから、南の届かない本を取る。

冬「やっぱり、文学」
南「あ、ありがとう…えっと」
冬「冬夜でいいよ」
南「冬夜君」
冬「有紗さんの紹介、楽しみやわ」
南「じゃあ私、これだけ借りて家で書いてくる」

南、未織を起こさないように、慣れた手つきで機械を触る。

冬「借りれた?」
南「うん…でも灰谷くん多分本の借り方分からへんと思うから」
冬「俺も一応図書委員やで」
南「そ…そうやった」
冬「生徒会長のイメージ強いからよく忘れられる。優巳のは僕がやっとくわ」
南「ありがとう」
灰「呼んだ?」
冬「んーん?何でもない」
灰「ふーん?せや見てこれ、こないだの『このミス』で一位やったやつ。もう入ってきてた」
冬「このみす」
南「『このミステリーがすごい!』の略なんやけど…」
冬「あぁ、よく帯にあるやつか」
灰「そうそう」
冬「嬉しそうやな優巳、…ところで」

冬夜が窓の外に目をやる。
雨の音が聞こえて、次第に強くなっていく。

冬「傘二本持ってへん?」
灰「あ〜折りたたみ入れとったけな。ちょっと待って…いや無いとは思うんよ…」

灰谷、一応自分のリュックを探してみる。

冬「無さそうやな…しゃあない、南さん。僕のでいい?」
南「え」
冬「さっきから窓の外見て焦ってた。折りたたみとか持っとる?」
南「いや、無い。けど」
冬「じゃあはい。僕は灰谷に入れてもらうわ、返すんいつでも大丈夫やから」
灰「俺の傘狭いけど大丈夫?」
冬「正味帰るだけやし僕らは別に濡れてもええやろ」
灰「それもそうやな。南さんはもう帰るん?」
南「うん。冬夜君傘ありがとう。灰谷君も」
灰「全然ええよ。また明日」

南、図書室から出ていく。

灰「俺も本借りな」
冬「ん、貸して」
灰「ありがとう」

冬夜が灰谷と自分の本の貸出処理をしている。

灰「南さんに馬鹿にされたやん」
冬「え?…あぁ、考察ノートか。そんなふくれんといてよ」
灰「毎朝、朝読の時だけ開いてる俺を見てずっと笑ってたんやろ!」
冬「そんな訳ないやん、後はずっと鞄に入れとるし、そんなに大事にして、よっぽど好きなんやなって思ってる」
灰「ふーんふーん」
冬「ごめんって!」
灰「今回は許したるわ。…で、冬夜は何にするん、本」
冬「無難に名作かなぁ。僕読んだことあるやつ少ないし」
灰「そんな事ないやろ」
冬「ところで昨日雪芽から何かきた?」
灰「なんも。嘘、冬夜も?」
冬「きてへんねんよな」
灰「いやぁ…まさかな。」

雪芽と澄が言い合いをしながら入ってくる。

雪「やっぱりおった。久々!ゆーみん、冬夜。未織もおる…けど寝とるな。」
灰「雪芽」
澄「この人達に会いに来たんですか?」
雪「澄みたいな理由じゃない」
澄「ふ〜ん」

澄、すぐ他の棚の方に行ってしまう。あまり興味は無さそう。

冬「それで、どうしたん?大体見当はついたけど」
灰「あ、まさか…」
雪「そう。大学受かってました!」
灰「〜〜っ!」
冬「おめでとう!勝ち取ったんやな」
雪「えへへ、頑張った!…なんでゆーみんが泣きそうなん」
灰「だって、だって…」
冬「雪芽昨日なんも言ってくれへんかった」
灰「そうそれ!」
雪「ごめんって、伊村に見せたくてさ」
冬「…学校で開けたん!?」
雪「うん。」
灰「おま…お前…俺らが昨日どんな気持ちでっ!!」
雪「ごめんって!な、それより二人とも。今日、やねんけど」
灰「なに?」
雪「二人が、その…勉強忙しかったら別にいいんやけど」
灰「うん」
雪「久しぶりに」
冬「三人で帰る?」
雪「!…うん!」
灰「でも雪芽、外雨降っとんで?傘持っとん」
雪「ゆきが持っとると思う?」
灰「開き直んなや」
雪「冬夜が持ってるんちゃうん?」
冬「それが無いんよな」
雪「えっ珍しい」
灰「違う違う、こいつまた女の子に傘貸してんねん」
雪「あぁ!なるほどね。ちなみにどなたに」
冬「南有紗さん。知らんのちゃうかな」
雪「しらん…」
灰「で、帰りはどうする?流石に三人は入らんやろ」
雪「じゃあゆきこれで(ブレザーを被る)」
灰「お前それ前もやってたな」
雪「これもある(マフラーを被る)」
冬「あかんって、風邪ひく。僕傘買うわ」
雪「やっさし〜。でも傘やったらゆきが買うよ。ゆーみんと冬夜はちゃんと持ってきてたし」
冬「そう?」
雪「うん!」
灰「まぁそれでえっか。じゃ冬夜、相合傘やな!」
冬「肩ずぶ濡れや」
灰「雪芽、荷物は?」
冬「多分文芸部やろ?取りに行き。昇降口で待っとくから」
雪「ありがとう!」

雪芽に続いて灰谷、冬夜が図書室から出ていく。
澄、冬夜が出ていったタイミングで未織に近寄ろうとする。

澄「…」

すると突然、勢いよく南が入ってくる。
澄、驚いて未織から離れる。

南「とっ、と、…冬夜君の傘ぁ…♡!」
澄「…!?」
南「…あ…」
澄「…えっ…と」
南「…あぁ。誰かと思えば」
澄「えっ」
南「緑樹冬夜君」
澄「ちがう…」
南「の幼馴染春先雪芽の文芸部の後輩の澄優利」
澄「ひっ」
南「喋ったら」
澄「喋りません!!!!!」
南「…」

南はある本棚に向かう。

澄「あ、あのー」
南「…」
澄「三年生…先輩、ですよね。一体何しに戻って」
南「…あった」
澄「え?」
南「何でもない、教える義理もない」

南が再び傘に視線を戻し、恍惚とした表情で出ていく。

澄、南が出ていくのを注意深く見送り、南の向かった本棚に行ってみる。そして一つの本を手に取り、再び未織に近付こうとする。

澄「…!」

するとカウンターを鳴らし、治が図書室に入ってくる。

治「失礼しま〜す…お、澄」
澄「おさむん…」
治「え!?なになになに」
澄「…別になんもないです」
治「ご機嫌斜めやな。澄は何しとったん」
澄「特に何もないです。本読もうと思って」
治「どういう風の吹き回しや」
澄「先生、直接来たんですね」
治「せやな、理崎は中々部活来んから。あと、作品確認しようと思って」
澄「あぁ、伊村先輩の」
治「澄は本書かんのか」
澄「物語考えるんはちょっと。イラストで十分です」
治「そうか」
澄「そういや俺まだ先輩の本読んでない」
治「恋愛ものみたいやで。タイトルが」
澄「『ねぇ、先生』。」
治「先生と生徒の禁断の…ってやつやな。よく相談に乗ってくれる担任の先生。気付いたら、先生のこと…みたいな感じか。上手く書けとるわ」
澄「これ…」
治「ん?どうした」
澄「…いや、何もないです」
治「これもおもろいけどな、すぐ回収するらしい。別の書くんやって」
澄「そうなんですか?」
治「そう。あいつは絵本作家になりたい言うてるから」
澄「…よく相談乗るんですか」
治「そうやなぁ。聞いとったら…伊村は、皆とバラバラになるんが怖いんやって。それも、信頼できる大人が先生くらいしかいないんですって言うてた。高校生じゃなくなるのが怖いんやろうな」
澄「そうですか…おさむんにだけなんですか?」
治「俺やと喋りやすいらしい」
澄「先生…」
治「ん?」
澄「…いや、何もないです…」
治「まぁ他の作品待っていくわ。…理崎は」
澄「あ」
治「また寝とんか、あいつ…人来んのをいいことに」
澄「いや、今日はそっとしてあげて下さいよ、ほら…夜遅くまで作品を書いてたみたいですよ!?」
治「そうなん?んん、でも次見つけたら指導やな」
澄「てことは」
治「今日だけやで」
澄「…!」
治「じゃあ俺はそろそろ行くわ。理崎にちょっと言うといてな、部活も来るねんでって」
澄「了解です」

治が図書室を出ていく。
澄、未織の元へ。

未「…」
澄「やって。部活来てよ」
未「…」
澄「あとさ、あの三年生の…あの人図書委員やったよな。怖かった…未織ちゃんも黙っときよ」
未「…」
澄「未織ちゃん」
未「…」
澄「俺さ、寝とるフリ見分けるの得意やねん」

未織、不機嫌そうに顔を上げる。

未「何の用なん。本を借りる時だけ話しかけ」
澄「これ」
未「…」

未織、澄の持ってきた本を貸出処理しようとする。

未「…何これ、おちょくらんといてよ」
澄「どういうこと?」
未「こういうの、世間一般で『だる絡み』って言うらしいで」
澄「だからどういうことって!俺、ほんまに読むから」
未「読むも何もこの本、澄が持ってきた本やろ。」
澄「どっから」
未「図書室以外のどっか。貸出バーコードが無い」
澄「他の本にはあるん?」
未「ほんま何も知らんねんな…これが普通の本。貸出処理する為にバーコードがついてるやろ?これが無い本は図書室の本じゃない」
澄「そんな!でも確かにここから…」
未「どこよ」
澄「…あの棚から」
未「その本は持って帰って下さい」
澄「ほんまに俺のやないのに」

澄、カウンターの前の席に座り、仕方なく本を読み始める。未織がまた突っ伏して寝始める。が、また澄が話しかけにいく。

澄「眠られへんの?いつもは熟睡やのに」
未「…最近は三年生がよく来るから」
澄「それでご機嫌斜めなんか。」
未「澄の所為でもある」
澄「文芸部で寝たらいいやん」
未「どちらにせよ澄がおる」
澄「俺はただ未織ちゃんにゆっくり寝て欲しくて」
未「余計なお世話です。本を借りたなら早く文芸部に戻ったらどうですか」
澄「…未織ちゃんも当番終わったら来てよ。」

澄、仕方なく図書室を出て行く。
未織が呟く。

未「…ごめん、今日も眠れんかった。」

暗転。


第二幕

放課後の図書室。
未織が受付におり、南が雪芽と話している。

雪「有紗ちゃん、ほんまにほとんど読んどうやん」
南「暇なだけやで」
雪「でも本読んでる人って文化レベル高そうでかっこよく見えへん?」
南「それは分かる!…かも」
雪「よね。憧れるなぁ、生粋の文学少女。なんで文芸部入らんかったん?」
南「部活は友達と入ったから」
雪「なるほどね。でもあれやな、文学少女っていったらうちにもおるよ。な、未織」
未「まだ名作しか読めてません」
南「私もそうやで!未織ちゃん、ごめんな当番代わってもらって」
未「大丈夫ですよ」
雪「未織は文芸部、行きたくない?」
未「そういう訳じゃ…ただ、私がここにいたくて」

すると澄が勢い良く図書室に入ってくる。
その後続いて苺も図書室に。

澄「え!雪芽先輩!」
雪「やっぱこいつか」
未「それはそうです」
澄「何の話すか。あ」

南がにこやかに会釈。

澄「こんにちは〜…」

澄、未織の元へ行く。

雪「どうしたん伊村」
苺「いや、ノー部活暇すぎて。」
雪「ゆきもやわ、OBやのに通いすぎてるんよな」
苺「おさむんも会議やし。有紗ちゃん久々、雪芽と仲良くなったん?」
南「伊村さん」
雪「恋バナした!」
苺「ほぼ初対面で!?距離感間違ってるで」
雪「流れやもん」
澄「見てよ未織ちゃん、この本の挿絵」
未「何、この本物語やったん」
南「…!」

突然、澄の出した本を見た南が立ち上がる。

雪「わ!…どうしたん」
南「その本…!貸して!(澄から奪う)」
澄「うわっ」
苺「昨日、澄が借りた本…?」
南「これは…この本は」
未「あの…南さん?」
南「…!」

南、我に返ったように自分への視線に気付く。

雪「その本、知ってるん?」
南「い…いや…何やろ…本違い、やった。ごめん、これ」
澄「あ、ありがとうございます…」
苺「人違いならぬ、本違いか。文学少女って感じ」
澄「でもこの本確か、先輩が見てた本棚に」
南「…何、文学の棚にあったの?」
雪「まぁ有紗ちゃんが見る棚って言ったらそうやな」
澄「…いや、まぁ…覚えてません。図書室詳しくないんで」
苺「澄はなんか言おうとしてなかった?挿絵がどうやとか」
澄「あ、そうです。あった!この女の子…未織ちゃんにそっくり」
未「…」
雪「どれ?」
南「…!」
雪「わ、…ほんまに似とる」
未「…似てる」
澄「な!しかも」
未「この男の子」
澄「え?」
未「この、一緒に描いてある」
雪「カップル?」
澄「いや、確かこの2人は小さい子供です」
南「誰に似てるん?」
未「私の、夢に出てくる子」
雪「夢に」
未「いや…それだけなんですけど」
澄「未織ちゃん、これ読む?」
未「でもそれ澄のやろ」
苺「え、そうなん?」
澄「いや違くて」
南「貸出バーコードが無いね」
澄「そうなんです!でも間違いなく図書室にあったんですよ」
雪「じゃあ外部から持ち出されたとか、誰かの忘れ物か」
苺「途中まで読んだけど面白かったよ、雪芽も暇やったら読んだら?」
雪「うん、ちょっと貸して」

雪芽、本を読み始める。
未織は寝る体制に入る。

苺「ごめん、一個気になっとってんけどさ」
澄「どうしたんすか」
苺「有紗ちゃんも恋バナするんやな」
南「い、いや、聞いてただけで」
苺「あぁ雪芽の」
澄「雪芽先輩の好きな人ですか?」
南「名前は聞いてへんねんけど、好きなタイプとかで盛り上がって」
苺「誰かは知らんのね。雪芽、もうその人に片思いして何年も経つらしいで」
雪「(本で顔を隠す)」
南「そうなんや」
澄「一途なんですね」
雪「…」
苺「今読んでんねんから邪魔しんの」
南「でも同い年やんな。受験とか」
苺「うん、やっぱ忙しいらしい」
澄「なるほど。自分が受かったからってすぐ想いを伝えるのは確かに微妙すね」
苺「正直私はいいと思うけどな。返事まではいかんくても伝えるだけ伝えるっていう」
南「受験が忙しいってことは、六組とか七組?」
苺「どうやろなぁ」
雪「もう全っ然集中できひん。言うよ、もう」
苺「ええん?」
雪「うん。ここだけの話やで。私伊村以外に言ってへんから」
澄「やっぱり後半クラスみたいすね」
雪「うん。有紗ちゃんと同じクラス」
南「七組!の…」
雪「あのー…有紗ちゃんが昨日傘借りた人」
南「…とう」
澄「冬夜先輩のことですか?」
苺「え!?」
澄「正解してもたよ…(南を見る)」
南「え!そうなんや!」
澄「!」
雪「なんで澄が知っとん…!?」
澄「あぁ、いや…同じサッカークラブに入ってました」
南「(澄を睨む)」
雪「えええええ」
南「冬夜君」
澄「確かに先輩はかっこ良かったです、高校でサッカー辞めちゃったけど」
雪「言わんかったら良かった」
南「でも、冬夜君確かにかっこいいよね」
雪「よね。あ、ゆーみんも七組やろ?」
南「ゆーみん?」
苺「灰谷優巳」
南「あぁ、灰谷君」
雪「二人、ゆきの幼馴染なんよ。ずっと三人で小中高一緒」
澄「なんで片方だけムーミンみたいなあだ名なんですか」
苺「好きよなぁ、ほんま」
雪「うん!二人には何でも話せるんよ、ずっと支えてきてくれたから」
苺「冬夜を好きになったんはいつからやっけ」
雪「んー…自覚したんは中学の時かな。いつの間にかってやつ」
澄「長いですね」
雪「憧れとかも、色々あったんよ…それより!有紗ちゃんの話せん!?」
南「えっ」
苺「ほんまや、気になる」
南「わ、私は…特に…」

南、昨日借りた本を見つめる。

澄「本が恋人っていうあれすか」
南「いや!違くて。…私、そういう人はおらんかな」
雪「そうなん?」
南「うん。…あの、ごめん。私そろそろ帰るね」
雪「えぇ!なんで」
苺「七組は私らと違って忙しいねん。課題とか色々あるよな?」
南「そんなところかな」
雪「そっか…残念。また話そね」
南「うん!ありがとう雪芽ちゃん」

南が荷物をまとめて図書室を出ていく。

澄「行ったな」
雪「何、澄は有紗ちゃん知ってんの」
澄「あ、いや初対面デス…昨日見かけたくらいで…」
雪「ふーん」
澄「で!でも先輩、あの…」
雪「何よ」
澄「あんまり冬夜先輩のことは、人に言わない方が良いかもしれないです」
雪「今知っとんは伊村、あと今日で澄と有紗ちゃんにしか言ってへん。何でよ急に」
澄「いやほら…冬夜先輩モテますし…」
苺「じゃあ取られへんようにしななぁ」
雪「そもそもゆきのでもないし」
苺「雪芽告白大作戦でも練るか」
澄「なんでそうなるんですか」
雪「いや…でも」
澄「えっ」
雪「冬夜、大学関東の方なんよ。もう前みたいに会われへん。」
苺「じゃあ、ついに」
雪「…でーもなぁー!やっぱ受験の邪魔になるんよなー!」
苺「まぁそうなるよな」
澄「でもこのまま冬夜先輩が合格したら、もう」
雪「あーあ…」
苺「脈はあるん?」
雪「あるよ」
澄「おぉ自信!」
雪「あぁそっち?ないよ」
澄「死人」
雪「なりたいん?」
澄「返し怖…」
苺「澄、一緒のクラブやったんやろ?何か知らんの」
澄「あぁ、冬夜先輩しょっちゅう告白されてたみたいで」
苺「ほう」
澄「でも全部『今は彼女を作る気がない』って」
雪「ほーらね。中学からそれやからな」
澄「あの。俺の今の役目ってポジティブに考えることやと思うんですけど」
苺「急に何」
澄「ずっと雪芽先輩のことが好きだった…とか」
一同「…」
雪「…無い無」
苺「それだ!!!!!!」
雪「えぇ!?!?!」

すると図書室に治と灰谷が入ってくる。

治「やっぱりここにおったか、理崎」
未「…榎枝先生」
苺「!」
澄「おさむん今大事なところやのに!!」
治「俺ってタイミング悪いんかな」
灰「雪芽〜?おった。…南さんはおらんか」
雪「南さんはさっき出てったで」
灰「まじか…まぁそれは後でええか」
雪「どうしたん優巳」
灰「いや、冬夜が」
苺&澄&雪「え!?!?」
灰「うわ何」
苺「緑樹冬夜がどうしたん」
灰「あ、いや…雪芽の合格祝い渡したいらしくて」
苺&澄「キャ〜〜〜!!!!!!」
雪「一回黙ろか」
苺&澄「すみません」
灰「校門の方で待ってるみたいやで」
雪「おっけ!行ってくる。皆また明日!」

雪芽、走って出ていく。

灰「…」
苺「灰谷君は行かへんの?」
灰「うん。」
治「灰谷もビブリオバトルの準備か?」
灰「そんなとこです。」

灰谷、雪芽が置いていった本を手に取り、パラパラと読み始める。

治「あぁ、理崎。ちょっとええ?」
未「はい」

治と未織が少し離れた場所で話している。

澄「その本雪芽先輩のじゃないですよ」
灰「えっ?あ、…図書室のじゃないんや。じゃあ誰の」
澄「それが、図書室にあって」
灰「でもバーコードついてへんよ」
澄「図書室にあったけど、図書室の本じゃないんです」
灰「ど、どういう」
苺「面白かったで。灰谷くんも読んだら?」
灰「じゃあ有難く借りよかな」
澄「よっっしゃ」
灰「はい押し付けた」
澄「あ〜…これはですね…」
灰「これは図書委員の人に」

治「不眠症?」

三人が治と未織の方に目をやる。
未織が受付に置いていたリュックの中からファイルを取り出し、中にある一枚の紙を見せる。

未「図書室で寝ていたのはすみません。けど、心療内科で診断されました。入眠障害みたいです」
治「そうか。しかもこれ、九月頭のやつやな」
苺「未織の不眠症の話ですか?」
治「そう…って俺だけ知らんかったんか」
澄「原因は分からへんの?」
未「夏休み明けてからしばらくしてだったので、疲れとか…」
澄「でもそれからずっと寝られへんのやろ?」
未「はっきりとは分かってへん」
治「夏休み明け、…もしかして、図書委員なってから?」
澄「前まで文化でしたもんね」
苺「二学期なってからってこと?」
治「図書委員なって、不眠症」
苺「あんま、関係は無さそうですけど」
灰「へぇ、この女の子も眠れへんみたいやな」
苺「灰谷君、今大事な話…その女の子」
澄「そうなんです!ほら先生見て下さいよ、似てませんか?」
治「ほんまに似とる」
未「…やっぱりあの子」
苺「どうしたん」
澄「例の夢に出てくる男の子?」
未「うん…」
灰「夢?」
治「理崎、その夢の話ちょっと聞かしてくれへん」

暗転。

スポット。未織が一人きりで佇んでいる。
未織の元にトッフルがやってくる。

未「図書室で眠った時にしか、夢を見ないんです。その夢はいつも同じで、一人の男の子と遊ぶ夢」

二人はキャッチボールや鬼ごっこをして遊んでいる。

未「普通の男の子です。ほんとにただ遊ぶだけなんですけど。…キャッチボールとか鬼ごっことか」

だが、未織が突然帰ってしまう。

未「一回だけ、図書当番を忘れて帰った日があって。次の日はいつもに増して眠かったです。図書当番でも、我慢する間もなく眠ってしまいました」

つまらなさそうにするトッフル。

未「その日の夢は…長かった」

再び未織が現れる。未織の手を取って踊るトッフル。

未「お絵描き、かくれんぼ、ヒーローごっこ、積み木遊びシャボン玉砂遊び水風船ブロック折り紙粘土かるた絵本パズル」

スポットが消える。トッフルの笑い声。

澄「…未織ちゃん?未織ちゃん!!」

明かりが戻る。

未「…信じなくてもいいです」
治「その日は澄に起こされたんか」
未「いや、起こしてくれたんです。ほぼ無理矢理。あの日起こしてくれんかったら…」
澄「俺死んだかと思ったんですよ」
苺「で、その男の子が…この本の子そっくりと」
未「そっくりっていうか、ほぼ同じです」
澄「一緒に描かれとる女の子も、未織ちゃんに似てるんよね」
治「非科学的な匂いがしてきた」
苺「それもオカルトな感じの」
治「本と理崎の不眠症が関係してるなら、図書委員なってからっていうのも納得いくかもしれん」
澄「そんなことありますかね」
未「この本…そもそも誰が持ち込んで…」
灰「…それはあかんな」

一同、本を読んでいた灰谷に注目する。

灰「俺ミステリーでも最後のページ見てから読むんやけどさ。

…この眠れへん女の子、最後目覚めへんみたいやで」

暗転。


第三幕

放課後の図書室。南が一人きりで座っている。
すると冬夜が入ってくる。南は席を立つ。

南「…冬夜君」
冬「有紗さん。どうしたん?」
南「ごめんね急に。これ」
冬「あぁ、傘か。急に呼ばれたから何かと思った」
南「返すの、遅れてごめん」
冬「それは全然ええよ。…(図書室を見渡して)でもなんで」
南「教室で返さんかったん、よね」
冬「うん」
南「冬夜君。未織ちゃんの話、聞いた?」
冬「未織ってあの?」
南「うん」
冬「聞いたけど…」
南「誰から?」
冬「灰谷。あれ、南さんもなの?」
南「私は雪芽ちゃんから聞いて。それでね、冬夜君」
冬「…」
南「私達の本さ、見つかっちゃったね」
冬「なんの事」
南「と…冬夜君は知ってるでしょ。わ、私が…一年生の時に、冬夜君に渡した」
冬「ごめん有紗さん。なんの事か」
南「冬夜君が!!私に声を掛けてくれて、それで」
冬「有紗さん。」
南「!」
冬「よく聞いて。とにかく本のことは」

冬夜が南に近付く。

冬「僕らだけの秘密な」

すると図書室に雪芽、灰谷が入ってくる。

雪「冬夜早いね…あれ?有紗ちゃん」
南「…」
雪「…?」
灰「冬夜、掃除は?」
冬「今日は特別教室無いらしいわ」
灰「そうなん、ラッキーやな」
雪「未織はまだなんや」
冬「何人くらいで会議するん?」
灰「ここにおる四人と、あと理崎さん、伊村、澄君、榎枝先生も後で来てくれるらしい」
雪「ごめんな冬夜、来てもらって」
冬「ええよ、雪芽の大事な部員やもんな」
雪「うん…でもさぁ…全然分からんよやっぱり」
灰「俺も。分からんことだらけや…まず状況整理しな」

図書室に伊村が入ってくる。

苺「おまたせ、結構おるね」
雪「澄と未織が来てへん」
苺「ふーん」
灰「伊村、榎枝先生は?担任やろ」
苺「図書室の先生に会いに行ってる。あと雑務」
冬「時間かかるかもしれへんな」
苺「かも。あのさ…有紗ちゃん、体調悪いん?」
南「え…」
冬「大丈夫?保健室とか」
南「だ、大丈夫。」
雪「しんどなったら言ってな」
南「うん…」

澄「すみません!!誰か扉!!開けてー!!」

苺「!?なに」
雪「澄の声や」

灰谷、雪芽、伊村が扉を開けに行く。すると、勢い良く未織を支えた澄が入ってくる。

冬「未織さん」
雪「どうしたん!?」
澄「未織ちゃんが!」
苺「未織が!?」
澄「図書室に近付くにつれて…めちゃくちゃ眠いって!」
一同「…」
雪「大変や!?」
灰「それはやばい、起きろ理崎さん!」
未「んん…す、すみません…」
苺「澄、アレ!」
澄「はい!(栄養ドリンクを取り出す)」
未「いらん!!」
冬「あ、起きた」
灰「そんなに眠いんか」
苺「昨日寝れんかったんや」
未「図書室でも、眠れてないんで…」
雪「ごめんな、三年が」
灰「大丈夫、俺今日三年の対策は取ってきた」
雪「何!?」
灰「後で見せるわ」
澄「冬夜先輩…お久しぶりです」
冬「うん、久しぶり優利。」
灰「…全員揃ったな」
苺「ほんまや」
澄「未織ちゃん、立てる?」
灰「作戦会議しようと思ってんけど…」
澄「でもここにおったら、未織ちゃん寝てまう」
冬「未織さんは今日図書当番や。外におらすにも先生に見つかったら面倒かも」
苺「外で会議…って思ったけど…」
雪「三年と二年二人が、部活でもないのに外で溜まってる、っていう」
灰「理崎さんには辛抱して起きとってもらおう。さっと作戦考えてまうで」
雪「おっけー」
灰「じゃあ皆。まず…見ての通りやけど、理崎未織さんの現状は把握しとるな?」
雪「うん、ゆきは昨日伊村から聞いた。有紗ちゃんにはゆきが伝えたよ」
南「雪芽ちゃんから、ラインで」
冬「僕は優巳から」
灰「よし。皆大体聞いとるな。理崎さんは九月上旬から主に入眠障害による不眠症に悩まされてる。それと同時期、図書室で異常な睡魔に襲われるようになった」
苺「図書委員になってからやから、不眠症と関係あるかなって思ってんけど」
灰「昨日澄君が見せてくれた…この本」
冬「…」
南「…」
雪「この物語に出てくる男の子が、未織が図書室で見る夢に出てくる男の子と同じ」
冬「未織さん、ほんまに同じなん?」
未「はい、見た目は全く一緒です」
澄「女の子もどことなく未織ちゃんに似てるんよな」
灰「こっから、雪芽達には伝えてへんと思うねんけど。俺らは昨日本を読み進めた」
苺「内容は未織によく似た女の子と、未織の夢に出てくる男の子、名前は…」
灰「『トッフル』。」
冬「未織さんは夢で聞いたことないん?」
未「いや、夢の中は意識がはっきりしてなくて…初めて聞きました」
雪「女の子の名前は?もしかして未織…?」
苺「ううん。ミッフルって言うみたい」
灰「ミッフルの特徴はほぼ理崎さんと合致した。内容はその二人が出会って、トッフルがミッフルを守ったり一緒に遊んだりして、最後は二人で眠りにつく」
苺「『トッフルとミッフル、二人はずっと夢の中。』って一文で終わってる」
雪「こっわ…」
苺「夢でトッフルと遊んだ内容、トッフル自体もこの本の内容とほぼ一致してる」
灰「しかもトッフルと遊ばんかった日、理崎さんはなかなか目覚めへん」
雪「てことは…最近は三年生のせいで眠れてへん未織が、次に眠った時」
南「ずっと、夢の中…」
灰「この夢の中っていうのが実際にどうなるんかは分からん。死ぬとか、植物状態、とか…でも理崎さんが危ないかもしれんってのは確かやと思う…って」

一同、未織を見る。動かない未織。

一同「未織!!!!!(灰谷:理崎さん)(澄:未織ちゃん)」

未「!!」
澄「なんとか起こしとかんと」
雪「ここではこんなんやのに、授業とかは普通なんやろ?」
澄「まぁ、起きてはいましたよ。集中できてるかまでは分かりませんけど…」
冬「明らかに睡眠時間が足りてない」
澄「でも今の未織ちゃんの睡魔はここにしかおらん」
苺「しっかり睡眠を取れるんは図書室だけってことやな」
灰「榎枝先生どんくらいに来るやろ」
苺「おさむんは図書室とか図書委員の先生にこの本のこと聞いてくれてるみたい」
澄「思ったんですけど、この本が原因やったら本をどうにかしなきゃだめなんじゃないですか?」
苺「なるほど」
灰「待てよ…ちょっと実験せん?」
雪「実験って?」
灰「もしほんまにこの本がどうにかなって理崎さんの睡魔に繋がってるんやったら、本を図書室から離してみて、理崎さんの状態をみる」
冬「やってみる価値はありそうやな」
灰「俺行ってくるわ」
雪「行ってらっしゃい」

灰谷が本を持って出ていく。

苺「灰谷どこまでいくんやろ」
雪「ゆーみんのことやからなぁ。一番向こうとか行きそうやね」
澄「どう?未織ちゃん」
未「…分かんないです…眠い」
冬「もうちょっと待った方がいい」
苺「私らはトッフルをどうするか考えよか」
雪「どうするも何も、夢の中でしか会えへんのやろ?…あ、誰か眠ったらええんちゃう!?」
澄「あぁー、トッフルに会えるかもしれないと」
苺「でもさ、あんま現実的な話じゃないから、的外れなこと言ってたら申し訳ないんやけど…トッフルが会いたい人を故意に眠らしてたら会えへんと思うんよ。現に未織ちゃんだけが眠いんやし」
雪「そっかー…」
冬「図書室はトッフルの条件じゃないな。やっぱり未織さんしか会えへん」
南「未織ちゃんは、トッフルと話したりはしんの?」
未「話はあんまり…彼かなり幼いです」
雪「じゃあ話し合い、とかは無理なんか」
冬「きっと未織さんとただ遊びたいだけなんやろうね。相当気に入られてる」
澄「未織ちゃんが、トッフルを説得するしかない…」
苺「偏見な、未織ちゃんはできなさそう」
雪「わかる」
未「どういう意味ですか」
雪「断れなさそうってこと」
苺「あのさ、本を攻撃したらどうなるんやろ」
南「攻撃…?」
苺「うん。例えば燃やしたり」
南「!それは」
澄「それはちょっと危なくないですか?それこそ、トッフルが何をするか分からんから」
苺「うーん」
雪「伊村、図書委員二人の前で『本燃やす』は許される訳がないと思うで」
苺「確かに」
冬「それはそうやねんけど…あと、この本はそもそも誰かの物かもしれへん。誰かが忘れていったか、持ち込んだかは知らんけど」
雪「確かにね…」
苺「でも未織が九月に図書委員なってからやから、少なくとも三ヶ月くらいは経ってるで」
冬「まぁ、確かに」
雪「あの本の居場所はここじゃなくて、忘れ物コーナーかもしれんかったな…」
苺「有紗ちゃんはなんかある?」
南「あ…えっと。今日中に眠らせてあげなあかんと思う。このままやと未織ちゃんの体力が持つかどうか」
澄「確かにそうすね…」
未「…」
澄「うわ!未織ちゃん!!あかんって」
冬「灰谷、多分もう図書室からは大分遠いと思うねんけど」
雪「あかんかったかー…ゆーみん無駄足やん」
冬「無駄足じゃないで。変わらんってことがわかってんから」
雪「…そっか」

すると灰谷が図書室に戻ってくる。

灰「ただいま。どうやった?」
雪「変わらんっぽい…未織ずっと眠そうやった」
灰「そっか…残念。皆は何話しとったん?」
冬「色々考えててんけど…未織さんが直接トッフルに会うしか無さそうやわ」
灰「まぁ、そうやろうな…確実に分かってることがそれだけやし」
苺「誰かの本かもしれへんから迂闊に扱われへんし…」
灰「あぁ、それやったら榎枝先生が帰ってきたらちょっとは分かるかも。図書室の先生に聞いて、最後に書架整理した日を聞けばいい」
澄「書架整理?」
冬「図書室にあるはずの本を確認していくんよ。入ってきた本はデータに入ってるはずやから」
澄「なるほど」
雪「おさむん、そろそろ来てもいいと思うねんけどなあ」
灰「じゃあ文芸部員は榎枝先生呼びに行ってもらおうかな」
南「私、最後に書架整理したデータ探してみる」
灰「おっけー。頼むわ、図書委員さん」
澄「俺未織ちゃん起こしときますよ」
冬「いや、僕に任してくれへん?身内が朝早くてさ、起こすのには慣れてるんよ」
灰「らしいわ。澄君は榎枝先生探しとって」
冬「優巳はどうするん」
灰「俺はここで作戦をまとめ…あれ」
雪「どうしたん?」
灰「無い、考察ノート」
苺「考察ノート?」
灰「俺がミステリー読んどる時に考察するノート…あれ使おうと思ったのに、どこいったんやろ」
雪「あれか…じゃあ別のノートに」
灰「…ほんまにどこいったんや?俺今日使ってへんのに」
雪「教室に忘れたとかじゃないん?」
灰「無い…俺の…俺のノート。…探さな…」
雪「あ、ゆーみん!?」

灰谷、フラフラと図書室を出ていく。

苺「まーた行ってもたやん」
雪「ゆーみんのことやからなぁ、…一番向こうまで探しに行きそうやな…」
苺「そんな大事なノートなん」
雪「うん。まぁ、内容とかはあんま知らんけど…冬夜とか有紗ちゃんは知らんの?同じクラスよな」
冬「僕は見てないなぁ。」
南「一昨日、ビブリオバトルの準備の時に見せてもらったくらい…見てないよ」
雪「そっか…」
苺「可哀想に、ゾンビみたいに出ていったで」
雪「ま、じゃあ文芸部一行も出発しよか」
澄「はい。冬夜先輩、未織ちゃん任せましたよ」
冬「うん。行ってらっしゃい」

伊村、雪芽、澄が図書室を出ていく。
残ったのは冬夜と南と未織。

冬「はぁ…有紗さん、」
南「!」
冬「トッフルに会ったことは?」
未「…え」
南「あ、いや、えっ…と」
冬「まぁいいや。どうしようかな…理崎未織が今眠ってどうなるかは僕も分からへんしな…」

冬夜、本を手に取る。

冬「あー。本当に僕の時と内容が違う。随分安っぽい内容になった。なんでわからんのかなぁ…こんなの…僕を救ってくれた本じゃない…早く戻ってくればいいだけやのになぁ」
未「緑樹…先輩、」
冬「あぁ、もうえっか。限界やもんな」

未織、睡魔に襲われている。冬夜が未織に近付いてゆく。

冬「『トッフルとミッフル、二人はずっと夢の中』?あほらしいなぁそんな訳ない。だって、約束したから」
南「冬夜君…?」
冬「ほんまに死んだりはせんやろう」

冬夜が未織の視界を隠す。

冬「おやすみ」

かざした手を離すと、未織はそのまま倒れるように眠る。

南「あっ…!!」

南、未織に駆け寄る。

冬「あぁそんな感じ。灰谷達が来たら、うっかり寝てもたって…」
南「う…」
冬「…う?」
南「羨ましい…っ!」
冬「…」
南「私も『おやすみ』されたい…」
冬「…」

冬夜、図書室の扉に向かっていく。図書室の鍵をかける。

南「えっ、え!!」
冬「なに」
南「鍵、」
冬「一応。他の人が入ってこんように…」
南「密室…!?」
冬「…有紗さん、君は…この本について何を知ってるん」
南「…」
冬「確かに一年生の時、声を掛けた記憶がある。この本を持った女の子…有紗さんやったんやな。本は、拾ったんやっけ」
南「う、うん。わ私、本好き、やから。本落ちとって、拾って」
冬「ほんまに何も知らんの?」
南「う…ん」
冬「ふーん…まぁ、僕の行動は内緒にしてくれるよな?」
南「も、勿論…!」
冬「…良かった、君がトッフルと会ってなくて」

冬夜が本を抱きしめる。

冬「あぁ、なんで。なんで僕じゃないんトッフル。約束したやんか。あの日から僕…ずっと待っとったのに!」

暗転。

泣いている冬夜。
絵本の読み聞かせのようなナレーションが聞こえる。

ナ「寂しがり屋のトッフル、そんなトッフルに親友が出来ました。おや?親友が泣いています。」
冬「またお父さんに怒られた。うん、今日は『あかん日』やったらしい。そう…いっつもやったら怒らへんのに。なぁトッフル、同じ点やのにお父さんが怒る時と怒らん時があるんよ。なんでなん?」

トッフルは話を親身に聞いている。

ナ「トッフルは親友を慰めたくて、言いました。『大丈夫。僕はいつでも君の傍にいるよ。』」
冬「ありがとうトッフル。僕夜嫌いやったけど、うん。夜はお父さんだけやから。でも今はトッフルがおるから大丈夫。トッフルと会うんが楽しみで、僕早く寝るようになったんよ。…え、もう起きなあかんの?分かった。じゃあまたな、トッフル。」

冬夜が舞台からはける。
またトッフルの前に現れる冬夜。

ナ「随分オトナみたいになった親友が、トッフルの前に現れました。」
冬「トッフル、僕高校生になったで。早いなぁ。小四の時にトッフルと会ったから…もう六年くらいか。懐かしいなぁ、おとんに本が捨てられた時、僕生きてる意味無かった。ずっと独りやってんで?でもようやく見つけた。トッフル も僕を探しとったんやろ?すごいなぁ、一人旅やん」

ナ「トッフルには考えていたことがありました。」

冬「…どうしたんトッフル」

ナ「そう。トッフルは」

冬「…新しい友達を作りたい…?」

ナ「沢山のお友達と仲良く遊ぶのが夢だったのです。」

冬「…なんでよ、僕だけで十分やんか。…そうや!分かった。外に出したるよ、僕が行く学校に持っていったる。約束な。」

トッフルは嬉しそうにどこかへ行ってしまう。
冬夜が舞台からはけ、また現れる。

ナ「やった!やっぱり親友は優しいのでした。トッフルは色んな想像をします。何をして遊ぼうかな?」
冬「待ってよ、トッフル。なぁ…なんで来てくれへんの?僕、生徒会長になるんやって。親と先生と友達から勧められて、選挙で勝ってもた。しばらく図書委員にはなれへん。トッフル、おるんやろ?図書室で寝とるやつなんて知れとるよ、そんな奴と友達になる必要ない。親友の僕だけでいいやんか。なぁ!」

トッフルがとぼとぼと現れる。

ナ「しかしトッフルには、お友達がなかなかできませんでした。」
冬「…ほらな。うん。驚かれた?やっぱり僕の言った通りやん。すぐ皆起きてまうやろ?トッフルの親友は僕だけ。トッフルの孤独が分かるんも僕だけ。分かった?…え?一人になりたい…?なんでよ、昔みたいに遊ばへんの?…分かった。じゃあいつ会える?僕が生徒会長終わったらにしようよ!」
ナ「トッフルはいいます。『冬になったら遊ぼうよ』」
冬「…冬がいいん?冬って?何月何日?」
ナ「いつになったら冬かは、分かりますね?」
冬「…そっか。息が白くなったらか。」

舞台に明かりが戻る。すると雪芽の声。

雪「あれ!?」

ガチャガチャと扉を開こうとする音が聞こえる。

雪「ちょっと!冬夜ー!有紗ちゃん!開けて!!皆もうすぐ来るから!」
冬「雪芽…だけ先に来たんか」
南「待って!」
冬「何、早く開けんと」
南「冬夜君は…雪芽ちゃんのこと、好き?」
冬「は?…あぁ、そういう…ううん。僕は…」
南「…」
冬「…有紗さんのこと、魅力的に感じてたよ」
南「!」
冬「だから開けに行って、早く」
南「うんっ!」

南が扉に向かっていくと、鍵の開く音。図書室の鍵を持った灰谷。

冬「優巳!?ごめん、もう未織さんは限界で…!」
雪「未織!」
灰「何で鍵なんか閉めとってん」
冬「それは他の人が入らんように…特に三年生は図書室を出入りするかもしれんやろ」
灰「…」
雪「未織」
冬「優巳こそ、図書室の鍵よく持っとったな」
灰「言ったやろ、三年の対策はしてきたって。それより冬夜、お前」
冬「ほんまにごめん…起こそうとはしてんけど」

灰谷が考察ノートを見せる。

冬「あぁ…見つかったんや、良かったな」
灰「よう言えるわ自分で隠しといて」
雪「…え?」
冬「何言っとんよ、それが大事なノートってことくらい僕知って」
灰「そう、お前しか知らんはずなんよな。」
冬「は!?」
灰「どこかと思えば俺のロッカーに置いてあった」
冬「置き勉と一緒に置いてもたんやろ」
灰「このノートは朝開いたきり鞄から出さへん。で、冬夜も知ってるやろ」
冬「優巳、何が言いたいんか全然」
灰「そのノートが、なんでロッカーにあったんか」
雪「…落として、拾った人が置いてくれたとか」
灰「かもなぁ、でも俺はこのノートは冬夜と南さんにしか見せてへん。ましてやずっと鞄に入れとることは冬夜しか知らん」
冬「…」
灰「俺がおらん間に置いたとしたら、言ってくれると思ってた。俺はな、冬夜。帰りのショートでノートが無いんは気付いてたんよ。ほんで本を持ってここから出ていった時に…ノートはもう見つけとった」
冬「…とんだ芝居やな」
灰「でもお前は知らんかった。知らん振りをしたな」
雪「冬夜…」

図書室に治、伊村、澄が入ってくる。

治「遅なった!皆おる…って、あれ」
澄「…未織ちゃん!!」

澄が未織に駆け寄る。続いて伊村も。

澄「未織ちゃん!起きて!!」
苺「未織!!」
澄「先輩…任せるって言いましたよね」
治「落ち着け澄」
苺「あかん、起きへん」
灰「先生、この本は図書室の本ですか」
治「いや…違う。最後に書架整理したんは夏休み、バーコードが無い本なんて無かった」
灰「冬夜、お前はずっと、俺らがおらんくなるのを見計らってたんやな。ノートまで隠して」
苺「え、隠した?」
冬「…」
雪「有紗ちゃん、冬夜はゆきらがおらんかった間、何してたん…?」
南「…未織ちゃんを、起こして」
灰「あかんわ雪芽、多分こいつらグルや」
雪「冬夜!有紗ちゃん!!」
灰「冬夜、お前何か知っとんな?」
冬「…知ってるも何も…」
雪「二人共、未織を危険に晒して何がしたいんよ!」
治「落ち着け春先」
冬「理崎未織は死なへんよ」
澄「…は?」
冬「雪芽、優巳。小学校の時三人でよく探検行ったよな」
雪「…!?」
灰「探検って言っても近所うろつくだけやったけど。それがどうしたん」
冬「そん時に本見つけたん、覚えてない?」
雪「本…?」
灰「…」
冬「ほら、覚えてへんやん。題名も書いてない本でさ、結局僕が持って帰ったやつ」
苺「何、その本が…これって言いたいん」
冬「そう。その日から…トッフルはいつでも、夢で僕と遊んでくれた」
灰「トッフルと会ってたんか」
冬「夜は…あの父親しかおらん。でもトッフルのおかげで夜が楽しみになったんよ…一回本拾ってきたことがバレてどっか捨てられたけど、高校生なってから再会した」
治「…旅する本、か」
苺「何ですかそれ」
治「稀に、失くした本と巡り巡って再会する事があるらしい」
冬「トッフルも僕と会いたかったんですよ。…でも、折角また会えたのにトッフルは夢に出てきてくれんくなった。出てきたと思ったら、『冬に会おう』って。だから僕待ってたんです。図書室にもトッフルを連れて行ってあげたのに」
治「連れて行ったって」
灰「やっぱりお前が持ち込んだんか」
冬「生徒会長の任期が終わってから、冬になるまでずっと待っとったけど…やめた。僕の親友を奪った方からどうにかしんと」
澄「こいつ、未織ちゃんのこと」
雪「…」
冬「大丈夫やって…トッフルは人を殺めたりしんから」

治が冬夜の元へ近付こうとするが、雪芽が止める。

冬「トッフルは極度の怖がりなんよ。同時に、寂しがり屋でもある…優しくされたらしばらく離さへん、起きひん理由はそれだけや。にしても、理崎未織をこんなに気に入るなんて思わな」

雪芽が冬夜の頬を叩く。

雪「…大事な部員って、言ったやんか」
冬「驚いた。…君は僕を好きなんかと思ってた」
雪「!」
灰「お前…!」
雪「いい、もういいよゆーみん」
澄「未織ちゃんはほんまに無事なんやろうな」
冬「やからそうやって。僕が何年トッフルとおったか知ら」
治「緑樹。未織は無事かもしれへんけど…皆を騙しとったことには変わりないやろ」
冬「黙っとっただけで騙した扱いですか」
苺「雪芽はな!!幼馴染の三人が大好きやった。二人には何でも話せるってずっと言っとった。やのに…お前は何も言わんかった!」
冬「…幼馴染やからって何でも言えって?」
雪「…!」
冬「別に雪芽の好意を利用した訳でもない」
灰「雪芽、しっかり」
雪「…冬夜、知らん人みたいや」
冬「実際なんも知らんやろ」
灰「いい加減にしろよ」
冬「は、なぁ見ろよトッフル!!誰も僕の話を理解してくれへん。誰かを大切にする気持ちは僕と何も変わらへんのに。…トッフル、聞いてるんやろ?ほんまにこいつらと友達になりたいなんて思うん?もう息やって白くなったこんな奴らいらんやん親友の僕だけおったらいい、そうやろ?また前みたいに遊んでよ!!

トッフル!!」

暗転。暗闇の中で全員倒れる。


第四幕

明かりが戻ると図書室ではないどこか。
トッフルと未織だけが起きている。

未「…あれ?」
ト「…」
トッフルが皆を揺さぶっている。治が目を覚ます。

治「…!ここは?…未織…?」
未「先生…」

灰谷も起き上がる。

灰「…なんや、これ」
治「灰谷!皆起こすぞ」
灰「分かりました。…おい、雪芽!」
雪「んん…え!?どこ!?」
灰「伊村も!起きろ」
苺「ん…うわっなにここ。私死んだ?」
治「恐らく…夢の中や」
苺「わぁ、おさむんだ…」
治「ちょ、伊村!皆もおるから」
雪「もー何言うてるん…有紗ちゃん、起きて」
南「これ…夢の中」
澄「未織ちゃん!」
未「澄…!」
澄「良かった、無事で」
未「まだ分からへん」
冬「なんやねんこれ…なんで全員ここに…?」
ト「…!」
南「…トッフル」

一同、トッフルに注目する。トッフルは未織の後ろに隠れる。

冬「…久しぶりやなぁ。ほら、僕やんか。トーヤやで」
ト「…」
未「この人と、お友達?」
ト「…(頷く)」
未「そっか」
冬「懐かれてるなぁ理崎未織。でもトッフルの親友は僕だけや、そこを」
未「…」
冬「…何なん、僕は親友やのに」
未「名前、トッフルっていうん?」
ト「(頷く)」
冬「名前も知らんのにようトッフルと…」
治「緑樹」
冬「…」
未「トッフルが皆を連れてきてくれたん?」
ト「(頷く)」
未「そっか。お友達が欲しくなったんやね」
冬「呼ぶなら僕だけで良かったやろ…?」
灰「トッフルはこんな事が可能やったんか」
苺「でも、この子が全員呼んだ意味は…?」

トッフル、ちらちらと一同を見ている。

雪「怖くないで〜…」
南「久しぶり、トッフル」
冬「…は?」
雪「…今、なんて」

トッフルが未織に隠れたまま頷く。

南「ありがとうねトッフル」
苺「待って…どういうことや」
澄「皆知り合いかよ!」
灰「南さん、トッフルと知り合いなん」
未「南先輩…?」
冬「お前…いつから」
南「中学生の時」
冬「僕が本を失くしてた間か、どこで本を」
南「近くの古本屋!棚の本は全部読んでもたから、在庫処分のカートを見てみた。それで出会ってん、題名もないこの本に惹かれて」
苺「有紗ちゃんも秘密にしてたん…」
南「あの時、トッフルに会えてほんまに良かった。感謝してる。だってこうして…冬夜君に会えたから…」
灰「は…」
冬「…」
南「ねっ、トッフル!」
ト「!」
未「あっ」

南がトッフルの手を取る。

雪「お、怯えてへん…?」
治「南、お前は何を知ってるんや」
南「う〜ん、トッフルが皆をここに呼んだ理由…とかですかね」
冬「!」
南「冬夜君、聞きたい?聞きたいよな!でも待って、私冬夜君に話そうと思ってたの。聞いてね、私の話。いずれ彼女にしてくれるもんね」
雪「は!?」
冬「…」
南「嬉しい」
雪「着いていかれへん」
灰「いかんくていい、とりあえず南さんの気が済むまで喋らせよう」
南「あのね。…本の虫やった私は、中学の時上手く友達が出来んかった。本屋に入り浸って一人で過ごすんが日課やって、でもほんとは…友達が欲しかった。そんな時にトッフルと会った」

南、トッフルを見つめる。
少し怯えているトッフル。

南「トッフルは一人ぼっちの私とずっと遊んでくれて…一緒に本も読んだりした。でも友達は出来んまま。高校生になったら変わろうと思って、トッフルと相談してん。そしたらトッフル、教えてくれたよね。物語の中で」
僕「あぁ…また変わっとる」
治「本の内容が違うんか。持ち主で変わる…?」
灰「どうでしょう、持ち主というよりその時の『友達』かもしれません」
南「私もそう思うな、私はその時トッフルの『友達』やったんやと思う。ね」
ト「…(頷く)」
冬「じゃあ僕は親友やな」
治「お前もう黙れ」
南「冬夜君が知ってるかどうかわからんけど、トッフルは…旅をしてたんやって。友達を探す旅。私と同じで、怖がりで寂しがりだけど…友達を作ろうとしてた。やから私達一緒だね、って。高校生になっても、トッフルが居れば大丈夫って思った」
冬「もしかして、それで持ち歩いてたん」
苺「え、本を?」
南「そう。トッフルはね、たくさんの友達と遊ぶのが夢やったんやって。私、その夢叶えてあげたくて」
治「全員を呼んだ理由はそれか」
南「そうやんな?」
ト「…(頷く)」
南「それでなそれでな、トッフルと一緒に学校に行ったら…冬夜君が話しかけてくれてん。『僕も本好きなんだ』」
冬「『本返せ』。」
灰「全然ちゃうやん」
南「運命やと思った…トッフルが私と冬夜君を会わせてくれた。三年に上がって同じクラスにもなれた。同じ委員に入った。冬夜君をもっと近くで見れるようになった。そしたらね、冬夜君は図書室に本を持ってきてん。私が渡した本!トッフル!ふふ、冬夜君もほんとはずっと私の事好きやったんや。私との思い出をあんな所に持って行って、ずっと確認しとったやん。可愛いけど皆にバレたらどうするん?…でも、もうえっか。もう私達恋人同士やもんな。冬夜君は人気者だから、皆に優しいのはしょうがないよ。やから私のものってアピールせなあかんよね、ね、冬夜君!」
冬「ずっと見てたんか」
南「照れんでもいいのに。しかもさ!!冬夜君が元々本持ってて、私に巡ってきてたんやろ!ありがとう、トッフル。私達を繋いでくれて。冬夜君にとっても、私にとっても大事な友達」
雪「有紗ちゃん」
灰「おい、雪芽」
南「あ…そうやった。雪芽ちゃん、冬夜君好きなんやっけ。ごめんな…冬夜君の運命の人が私で」
雪「有紗ちゃん!」
南「…何」
雪「トッフルは、有紗ちゃんが寂しくないように、もう一人で抱え込まへんように、友達を作る手伝いをしてくれたんやと思う」
南「…そう。やから冬夜君と」
雪「冬夜だけじゃなくて!本が好きな自分を否定しんようにしてくれた。やから、有紗ちゃんは今寂しくないんやろ。友達もおるやん」
南「…」
雪「それに…冬夜がいっつも優しいんは、どんな時でもにこにこしてるんは、ほんまは一人で抱え込んでたからなんやと思う。トッフルの力を借りて、理想の自分を演じてたんかもしれへん」
冬「…」
灰「お前が自分を隠すんは勝手やで。けど…勝手に隠しといて『誰も分かってくれへん』って言われたら、こっちも思うところはあるやろ」
澄「…俺も言わせて貰いますけど、二人共未織ちゃんのことを全然考えてなかったと思います。周りも、見れてなかったんじゃないですか」

重たい雰囲気。トッフルが雪芽の手を取る。

雪「…え?」

雪芽の手と南と手を繋ぐ。

南「…?」

トッフルが皆の手を繋がせていく。一列になる。右から澄、未織、冬夜、灰谷、雪芽、南、苺、治。

治「ごめんな」
苺「これは、どういう…」
治「南が言っとったやろ。今の状況は、トッフルの夢やったんや」
澄「『沢山の友達と遊ぶ』…」

トッフルが皆を見つめている。

苺「そっか。一番の被害者かもしれへんな」
冬「被害者?」
苺「うん。寂しい子に寄り添ってさ、友達になったと思ったら、皆自分のことしか考えてへんかった」
澄「可哀想…」
苺「トッフルには相談する友達もおらん。図書室で新しい友達に出会うしか無かったんやろ」

トッフルは思い出したように未織の元へ。
未織の前で頭を下げる。

ト「…」
雪「あ…謝ってるんかな」
未「大丈夫。トッフルも寂しかったんよな。(しゃがむ)」
澄「うわ、急にしゃがまんといて!?」
未「ごめん」

トッフルが俯く。

雪「あ…」
灰「どうしたんやろ」
苺「たくさんの人に、慣れてないんかな」
治「今度は俺らがトッフルに寄り添ってあげる番やろ。いざこざはこの場では無しやで」
南「…」
未「澄!何で遊ぶか決めてよ」
澄「俺!?」
未「うん。私も…慣れてへんから。本の虫やったから」
南「…未織ちゃん」
未「おいでよ、トッフル」
澄「俺の左手空いてるで」
ト「!」
灰「理崎さん、元気やな」
苺「あんな未織見た事ない」
澄「うーん…勿論全員参加すよね」
冬「…あぁ」
治「あんま激しいのはちょっと」
苺「おじさん」
治「うるさいな」
澄「じゃ、無難に鬼ごっことかどうすか」
雪「普通!」
澄「他に何があるんですか!!」
南「鬼ごっこ、わかる?」
ト「!(頷く)」
苺「分かりやすく代わり鬼でええかな」
灰「よっしゃ。早速ジャンケンやろか」
雪「あ、ジャンケン出来る?」
ト「(頷く)」
冬「出来る。僕の親友的推理によるとトッフルは五歳に近いから」
灰「なんやねん親友的推理て。推理を舐めんなよ」
澄「はいはい、いきますよ」
一同「ジャンケンぽん!」
雪「うわぁ」
澄「…」
苺「こんな綺麗に言い出しっぺがなることあるんや」
澄「速攻捕まえるからな。十数えたら行きますよ、いぃ〜ち…」
未「逃げよ、トッフル!」
灰「ちょっと鬼なりたかったのに」
冬「優巳」
灰「あ、何」
冬「ノート、ごめん」
灰「…子供かよ」
冬「…」
灰「そんなんよりお前は…これ終わったら。雪芽と話さなあかんことがいっぱいあるからな」

澄が数え終わって鬼ごっこが始まる。楽しそうなトッフル。
全員時間を忘れて遊んでいる。

暗転。


第五幕

元の図書室。全員眠っている。辺りは暗くなっている。
暗闇の中で治が目を覚ます。

治「…今何時や…やばい!!おい、起きろ!伊村、春咲!」
未「ん〜…あれ、」
冬「戻ってきたみたいやな」
灰「つ…疲れた…」
澄「…はっ!!未織ちゃん!?」
雪「未織!!」
苺「良かったぁ…」
南「待って、本が…」
冬「!」
澄「無くなっとる」
冬「トッフル」
治「はいはい、本も気になるけど。とりあえず注目」
一同「?」
治「今日あったことはきっと忘れられへんと思う。トッフルのこと、仲間のこと、抱えてたこと。沢山話したいこともあるやろう。でもな」
苺「でも?」
治「下校時刻を…ちょっと過ぎとるんや」
灰「急いで帰らな」
治「三年生。お前らは明日ビブリオバトルの発表もあるから。原稿とスピーチ仕上げてこいよ」
雪「あー!!忘れとったのに…」
澄「トッフルの本でビブリオバトルしましょうよ」
雪「できるかい」
灰「いや、一時間喋れる」
冬「ていうか、そもそも本が無い」
苺「ビブリオバトルが終わっても、図書館で勉強するのはええかもね」
雪「忘れられへん場所になったな」
治「喋るんはもう全部後にして。今はとりあえず帰り。はい、解散!」
南「でも、本が」
雪「有紗ちゃん、もう全部明日や」
治「全員こっそり帰れよ!靴はあるな。じゃ、また明日!」
冬「…」
灰「行くぞ」
冬「あぁ」

図書室に治と伊村。

治「何しとん、伊村もはよ帰る準備!」
苺「榎枝先生」
治「…どうした」
苺「私、やっぱり作品書き直します」
治「…分かった。また読むわ。」
苺「前のやつは忘れて下さい…」
治「良かったのに!特に、生徒が先生に言った、あの」
苺「忘れてください」
治「ごめん」
苺「あと」
治「ん?」
苺「相談、もう大丈夫です」
治「そうなん?」
苺「はい」
治「もう寂しくないか」
苺「はい。ほんまは…皆寂しかったから」
治「そうやな」
苺「でも、先生」
治「何や」
苺「『ずっと私の先生で居て下さい』。…さようなら」

伊村が退場。

治「…小説の台詞やん」

舞台に明かりが戻る。未織と澄の帰り道。

澄「いやぁ…大変やったなあ」
未「…澄」
澄「ん?」
未「ありがとう、色々」
澄「全然ええよ」
未「私のこと、ずっと気にかけてくれてた」
澄「まぁね」
未「お礼しきれへん」
澄「んん、じゃあさ」
未「?」
澄「また文芸部きてな。俺、未織ちゃんの書く小説が好きやったから」
未「分かった」
澄「ん!」

南と苺の帰り道。

苺「はぁ…はぁ、間に合った!!」
南「!!」
苺「一緒に帰ろ」
南「…うん」
苺「あのさ」
南「…
苺「未織が大変やった時に、黙っとったことは許さへんよ」
南「…」
苺「でも。好きな本の話したかったら…文芸部きてくれたらおるから。未織にも謝って」
南「…ごめんなさい」
苺「ん。…友達やったら、私がなってあげるから」
南「優しいな、伊村さんは」
苺「ほんまな。やからさ、悩みも…恋バナも、いつでも話してよ。ストーカーは全力で止めるけど」
南「してない!」
苺「あらそう」
南「でもじゃあ…一個だけいい?」
苺「なになに?」
南「伊村さんの小説、図書室にあるから読んでんけど…」
苺「ちょっと待って」
南「あの『先生』って」
苺「あー!とりあえず帰ろっか!な!遅いから!」
南「でもいつでもって」
苺「分かったLINEしてくれたら答えるから!」
南「…うん」

幼馴染組の帰り道。

三人「…」
冬「…ごめん」
灰「何が」
冬「…色々…」
灰「色々ぉ?」
冬「…」
灰「お前は演じすぎた、もう元に戻られへんくらいにな」
冬「…そうやな」
雪「三人で過ごした思い出はさ、全部嘘やったん?」
冬「いや…僕が勝手に塞ぎ込んどっただけやから。二人には…謝ることしかできひん」
灰「ふーん。雪芽はどうしたい」
雪「ゆきは…また前みたいに、三人で楽しく過ごしたいよ。今回の件で冬夜を軽蔑したりはしいひん、できひん」
冬「…」
灰「冬夜君はどうですかね」
冬「僕も…二人のことが好きやった。二人がおらんくなったら、僕はほんまに一人になる」
灰「じゃあ謝れよ」
冬「ごめん」
灰「もっと」
冬「ごめん!」
灰「まだ!」
冬「ごめん!!」
灰「無理!」
雪「え!?」
灰「一生許さへん」
冬「…」
灰「やから、一生謝り続けろよ」
冬「!」
雪「そうやな、じゃあゆきにも一生謝ってな」
冬「…うん」
雪「一生やで。絶対許してあげへんから」
冬「ありがとう」
灰「なんやコイツ喜びやがって」
冬「ごめん」
雪「じゃあそろそろ帰ろっか。…またね、冬夜」
冬「ありがとう…また」

冬夜が帰っていく。

雪「…いっつもここの分かれ道でさ。三人でずっと喋っとったな」
灰「そうやな」
雪「うん…」
灰「…なぁ」
雪「ん?」
灰「冬夜にさ、何貰ったん。合格祝い」
雪「あぁ、これ」

雪芽がリュックからペンを取り出す。

灰「…っまじか」
雪「どうしたん?」
灰「しかもあいつセンス良すぎやろ」
雪「なになになに」
灰「俺も用意したんよ」
雪「えっ」
灰「でも…」
雪「でも?」
灰「改めて渡すわ。終業式の次の日空いとる?」
雪「終業式、二十三やっけ。ああ、空いとるよ!…って」
灰「良かった。じゃ…その日俺に使ってな」

灰谷が帰っていく。
しゃがみ込む雪芽。

雪「え…ええぇ…」

やがて雪芽が帰る。誰も居なくなった舞台に、本を抱いたトッフルが現れる。スポット。

ナ「トッフルの夢は叶いました。沢山のお友達ができて、幸せな一日でした。お空の水星は順行しています。寂しがり屋のトッフルは、もうどこにもいません。自由になったトッフルに、もうこの本は必要ないのです。…おや?トッフルの前に、自由な旅人が現れました。なるほど?トッフルの本が丁度いいらしいのです。トッフルは本をあげることにしました。

でも、旅人さん。これじゃ固くて、眠れないんじゃないですか?」

終幕。

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