「君プロット」1

何必(かひつ)大学一年生。
夜釣(よづり)大学一年生。


何「あのさ」
夜「なに」
何「ずっと言おうと思ってたんだけど」
夜「うん」
何「……好きだった」
夜「……遅いよ」

見つめ合う二人。
夜「……どう?」
何「ナシだね」
夜「(崩れ落ちる)」
何「なんでか聞く?」
夜「勿論聞きますよ。何必先生の有り難~いアドバイスですもんね」
何「まず」
夜「ああ~~~聞きたくないよ~~~」
何「どっちだよ」
夜「聞いたほうがいいのは分かってるの!これを経て成長するんだもんね?でもこのシーンホントに上手く書けたと思ってたの!」
何「上手く書けた、ねぇ」
夜「やな口ぶり」
何「夜釣さんが今のシーンを上手く書けたと思った理由は一つ。見たことがあるから」
夜「どういうことですか」
何「長いこと友達以上恋人未満な二人。やっとの告白で両想い発覚。二人の想いは通じ合い……」

夜釣、首を縦に振って噛み締めている。

何「……そんなの君じゃなくても書けてしまう。何ならもうそんなシーンはこの世界に五万とある」
夜「う……」
何「僕が言いたいのは、今の君が言う『上手く書けた』は、『上手く真似出来た』に過ぎないということ」
夜「真似」
何「どこかで見たシーンを自分の手で真似しただけ。言ってしまえばオリジナリティに欠ける本だ」
夜「う……手厳しい」
何「君が望んだことだろ。僕にシナリオを教わりたいなんて」
夜「何必君の台本に憧れたんだよ」
何「僕も自分の台本は好きだよ。夜釣さんが何をもっていいとしてるのかは分かんないけど」
夜「まず言葉選びでしょ、観客を飽きさせない展開に舞台映えする演出……」
何「分かったよ。ありがとう」
夜「私も何必君みたいな台本を書きたいんだけど」
何「まずは量だ。沢山書いてたら自ずと書き方が分かってくる」
夜「でも一作目がなかなか完成しないんだよね」
何「そのための僕なんじゃないの」
夜「そうなんだけど」
何「夜釣さん。君はどんなシーンを書きたい?」
夜「やっぱり男女の恋愛模様かな。惹かれ合う二人が紆余曲折を経て結ばれる。そんなシーン」
何「なるほどね。じゃあまずは片思いしてる女の子を想像して」
夜「想像?」
何「歳は?性格は?髪型は?」
夜「え?」
何「細かくね。自分に近いような人なら思い浮かべやすいんじゃないかな」
夜「じゃあ高校生で、えーと、優しくて、ポニーテール」
何「いいじゃん。じゃあなんで優しいの?毎朝ポニーテールなの」
夜「ポニーテールは、そうだなぁ、ルーティーン?とか。優しいのは思いやりがあるから」
何「どんなところで思いやりがあるのが分かるの」
夜「えぇ?難しいな……」
何「例えばだけど。皆がやりたがらない委員をするところとか」
夜「委員長とか?」
何「そうだね。委員長にしよう。じゃあ委員長になった彼女は、どんな風に仕事をこなすのかな」
夜「完璧にこなせない!私みたいになっちゃうけど、仕事は引き受けちゃう癖に後々しんどくなるんだよね」
何「じゃあ不器用な委員長だ。そんなキャパ以上の仕事を引き受けてしまう委員長を、男の子が見つけるん」
夜「なんか、ストーリーになってきた」
何「委員長」
夜「え?あ、はい?」
何「今度はなんのスピーチ考えてるの」
夜「えぇっと……」
何「見して。……あぁ、修学旅行の」
夜「う、うん」
何「何話すつもりなの」
夜「そうだなぁ。意気込みとか?よくわかんないな。スピーチだから皆の前で喋んなきゃいけないし。おどおどしちゃって、私そういうの向いてないんだよね」
何「よく委員長なんて立候補したよね」
夜「だって。皆やろうとしなかったし。じゃんけんとかで誰かがしんどい思いするくらいなら、私がやった方がいいじゃん」
何「責任感」
夜「そんな大層なものでもないけどね」
何「委員長のそういうところホント損してる」
夜「酷い!まぁ実際そうなんだけど」
何「俺でよければ頼ってよ」
夜「え?」
何「委員長みたいな、縁の下の力持ちっていうの?そういう陰で苦労してる人だって、頼りたい時あるでしょ」
夜「まぁ、そうだけど」
何「内容は俺も一緒に考えるからさ。委員長はスピーチ頑張ってよ」
夜「ありがとう。」
何「……なんて」
夜「この二人絶対付き合うじゃん!」
何「だね」
夜「膨らんだなぁ。流石」
何「ほぼエチュードだったけど、でもやっぱり夜釣さんから出た委員長の思いは本物だった」
夜「本物って、オリジナリティ的な?」
何「そうだね」
夜「難しい……」
何「こういう背景があるなら、夜釣さんが書いたシーンにも厚みが出るかも。気に入ってるならやっぱり採用しよう」
夜「いいの!?」
何「いいのも何も夜釣さんの本だから」
夜「じゃあそのシーンで早々にくっつけちゃおう」
何「へぇ、ラストにしないのか」
夜「うん……待ってやっぱり冒頭でもいいんじゃない!?」
何「くっつくまでが書きたいんじゃないの」
夜「気が変わったの」
何「気まぐれだな。冒頭に持ってくるってことはセットアップにするんだね」
夜「セットアップ?」
何「物語の前提条件のことだよ。これだったら二人は付き合ってるっていうのがそう」
夜「なるほど。これは前提」
何「付き合ってる二人の物語ね」
夜「待って。私交際経験ない」
何「ほう」
夜「付き合ってる人達って何してるの」
何「まぁ、最悪付き合ってるって事実さえ観客に伝えればストーリーは出来るけど」
夜「いや書きたい。物凄くいい関係だからこそ苦難が降りかかったときに輝くんだよ。役者にも理想的なカップルを演じてもらいたい」
何「いいじゃん演技指導だね」
夜「本当のカップルじゃないならチェックシートでも作るわ、カップルらしさを徹底させる」
何「ちょっと怖いな……しかもなんだって?受難させるつもりなのか。さっきと真反対だな」
夜「受難を越える二人を書きたい」
何「カップルの受難か……」
夜「ライバルの登場?いやありきたりすぎる。遠距離恋愛……は劇にしにくいか?ならどっちかを病気に……だめだリアリティが出ない」

夜釣、ノートにペンを走らせる。

何「スイッチ入っちゃった。」
夜「何必先生」
何「はい」
夜「さっきのエチュードの不器用な委員長はヒロインに採用します。彼氏はそんな委員長に惹かれるが、不器用さは恋愛にも影響を及ぼします。委員長の気持ちは空回る。不器用な彼女にペースを乱される彼氏。だが二人の想いは実は通じ合っていて……」
何「……」
夜「これで書かせて頂きます」
何「あ、はい」
夜「じゃあプロットをまとめたいから。お先に」
何「急すぎる。待ってよ夜釣さん」
夜「なに?」
何「いきなりスイッチ入ったね」
夜「降りてきたの!火をつけたのは何必くんだよ」
何「夜釣さんのそういう衝動的なところ、表現者っぽくていいと思うよ」
夜「ありがとう」
何「夜釣さんの台本に期待してる。今日明日の話じゃなくて、夜釣さんが色んなことを経験しながら書いていくことが楽しみなんだ」
夜「うん」
何「近くで見守ってたいって思った」
夜「うん」
何「夜釣さんは人当たりがいいし綺麗だからきっと引く手数多だろうけど」
夜「うん?」
何「夜釣さんの交際相手になるのは僕がいい。」
夜「……」
何「ホント、何回も言おうと思ってたんだけどね。中々」
夜「ナシだね」
何「えっ」
夜「なんでか聞く?」
何「いや、なんでっていうか、ナシ?」
夜「まず」
何「うわ待って聞きたくない聞きたくない。失恋確定演出じゃんナシって言葉が出てきて告白成功することないよ」
夜「あ、いや付き合うけど」
何「あるんだ」
夜「ナシっていうのは、展開がナシってこと」
何「??」
夜「自分の作品を理解してくれる勉強熱心で素直な教え子に心を惹かれていく……オリジナリティに欠ける」
何「オリジナルなのに」
夜「それで告白のセリフが」
何「えっ何分析されんの?」
夜「『近くで見守ってたいって思った』」
何「あっ死にたい」
夜「まぁ見守りたい理由を事前に提示したのは芯食っててポイント高いね」
何「ありがとうございます」
夜「でも『人気者の君を僕のものにしたい』的な意味を持つセリフは私がもっとモテてから言うべきかな、何必くんにとって魅力的に見えてるってだけかもしれないからね」
何「すみません」
夜「そうそう、あと」
何「何っ、怖い……」
夜「よろしくお願いいたします」
何「あっそうだった、やったー!」
夜「じゃあ私帰って台本書くから……」
何「待って。因みにオチはどうするつもりなの」
夜「夢オチ」
何「……ナシだろ」


終幕。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?