「貴方レソロジカ」3

白波 ゆい(しらなみ ゆい)劇中:クラゲ 大学一年生。
魚澄 なる(うおずみ なる)劇中:なる 大学一年生。
月水金 社会人。26歳。

とあるSNSのメタバース。アバター達が話している。大きな掲示板のようなものがあり、舞台上にクラゲ。アバターの衣装を着ている。

ク「ログイーン!ばおわ~。さ、過去ログ警察しますか。どれどれ……(掲示板を見る)あ~。今仕事かぁ。でももうすぐ終わるよね」

ク「皆~!皆は何してた?」

クラゲが耳に手を当てると様々な声が聞こえてくる。

ク「ピーマンさんまた追試?留年しない?えっ、浅瀬さん今日ログインしてないじゃん。何してるのかな……あれ?てるぴよ@彼女が可愛すぎる、アイコン真っ黒じゃん。そういう感じ?」

するとどこかで「ログイン」という月水金の声が聞こえる。

ク「あっ、来た!」

舞台上に月水金が現れる。

月「クラゲ、いたんだ」
ク「月水金、今日もお疲れ様!」
月「ありがと。クラゲもバイトお疲れ様」
ク「うん!」
月「配役発表今日だったんだろ?サークル。どうだったの」
ク「うーん。ヒロインじゃなかったけど、主人公の男の子の相談役だった」
月「へぇ。ヒロインじゃないんだ、こんな可愛いのに」
ク「やめてよ照れるって!」
月「えっ。ねぇ、もしかしてなんだけど」
ク「どうしたの?」
月「その主人公って例の男の子だったりする?」
ク「あぁ、クラゲに多分気がある子のこと?そうだよ」
月「そうなんだ。じゃあ良かった、クラゲがそいつと付き合ってる演技なんて嫌だし」
ク「そうだったとしても役だから!なんとも思わないよ」
月「分かってないなぁ」
ク「ていうかさ、もしかして見に来てくれるの?」
月「本番いつ?」
ク「確か再来月だったよ」
月「うーん、まだ分かんないな」
ク「そっか」
月「ごめんね、忙しくて。でもクラゲにはいつか会いたいと思ってるよ」
ク「私も。月水金が忙しいのは分かってるから平気だよ」
月「ありがと。じゃあ今日はゲームでもする?」
ク「あっ、ゲームでもいいんだけど……」
月「うん」
ク「電話。したいな~って……ほら、ずっとしてなかったじゃん」
月「あぁ……ごめん、今は都合悪いかも」
ク「そうなんだ。ごめん。でもクラゲ、出来るまで待てるよ……」
月「今日は無理かな」
ク「あ……そっか」
月「うん」
ク「ごめん……変なこと言っちゃって」

月水金が舞台からはける。

ク「ってあれ?既読つかなくなっちゃった」

一人になるクラゲ。周りで様々な声が聞こえる。

ク「何してるのかな」

すると遠くで「ログイン」というなるの声。舞台になるが現れる。

な「初めまして」
ク「あっ、初めまして!クラゲです。なるさん?DMありがとうございます!」
な「どうも……クラゲさんはここにきて長いんですか」
ク「そうだなぁ。一年くらいはクラゲでやってるよ」
な「そうなんですか」
ク「敬語じゃなくてもいいよ!何歳?」
な「19だけど」
ク「えっ同い年。よろしくね!」
な「うん」
ク「なるさんはどうして声をかけてくれたの?」
な「あぁ、いや。クラゲさんのフレンドのことで」
ク「クラゲの?」
な「月水金さんだ」
ク「……月水金がどうしたの、知り合い?」
な「別に。知らない人だけど」
ク「じゃあなに」
な「クラゲさん、あいつに会おうとしてるよね」
ク「公開チャット見たの」
な「うん。あいつは」
ク「何言ってくるかと思ったら。どうせ止めるんでしょ、やめてよ急に。他人じゃん」
な「いや、でも」
ク「月水金がSNSの女の子とよく会ってるのは私でも知ってるよ」
な「あとシンプルに危ないって。月水金の奴東京だろ?会うとしたら絶対呼んでくる」
ク「私のところに来てくれないのも薄々気付いてる。でも全部なるさんには関係ないじゃないですか」
な「あるよ」

クラゲ、呆れてなるから離れようとする。

な「ゆいだろ」
ク「……えっ?」
な「白波ゆい。演劇サークルの一回生」
ク「まさか、なるって」
な「そう。今度の劇で当て馬役の魚澄」
ク「待って。ホントに?なんでバレたの」
な「ごめん。言わないつもりだったけど、偶然見つけて。観た映画の感想投稿しただろ?これ、ゆいが観るって言ってたから」
ク「最悪」
な「ごめん。俺この話済んだらアプリ消すから……」
ク「でもなんで月水金とのこと止めるの」
な「だってあいつ明らか怪しいぜ?女とばっか会ってさ」
ク「そう見えるだけだよ」
な「けいが悲しむな」
ク「別に付き合ってないから」
な「けいのことは好きじゃないの」
ク「別に。けいくんにはあさりちゃんがいるし」
な「あいつらも付き合ってる訳じゃない」
ク「そうだけど」
な「飲み会で一番ゆいを気遣ってんのはあいつだし、サークルでゆいに演技教えたいって言ってるのもあいつ。一方ゆいはネットの男に夢中か」
ク「本当に最低」
な「ごめん。でもなんで月水金にこだわってんの」
ク「言いたくない」
な「俺がその気になれば脅すことだって出来る」
ク「まさか、あっ、自撮り」
な「俺だってしたくない」
ク「どこまで行っても最低。いうからほんとにアカウントは忘れてよ」
な「そこは守る」
ク「……見ての通り、ここで自撮り載せてる訳だけど。よくあるやつだよ。皆の反応が嬉しかったの。で、続けてたら月水金からDMが来た。月水金は誰よりも可愛いって言ってくれるし、色んな話も聞いてくれた」

ブルー暗転。舞台に月水金が現れる。

月「ごめん急に。自撮りめちゃくちゃセンスあるね」
ク「あ、ありがとうございます。」
月「俺こういう服ちゃんと似合ってる子、初めて見たかも」
ク「いやぁ、そんな」
月「あ~、ホントにごめん。急に怖いよな。また自撮りあげてよ、俺見とくから」

舞台を去る月水金。

ク「あ……行っちゃった」

自撮りを撮るクラゲ。すると再び月水金が現れる。

月「クラゲちゃん。こないだぶり」
ク「はい」
月「今回のもめっちゃ良い。雰囲気作り上手いし、あともうシンプルに顔がいいよね」
ク「そんなこと」
月「自信無いの?」
ク「無い、です」
月「そっか。じゃあクラゲちゃんがちょっとでも自信もって笑えるように、俺はずっと反応しとくね」
ク「ありがとうございます」

舞台を去る月水金。

ク「そうやって月水金と仲良くなっていったけど、月水金は他の女の子とも仲がいいって段々分かってきて」

舞台に月水金が現れる。二人はゲームをしている。

ク「月水金、最近全然構ってくれないね」
月「まじ?ごめん。足りないよな」
ク「別に忙しいんだろうな~って感じだけど」
月「でもこうしてクラゲと過ごすことで癒されてるよ」
ク「褒めるのだけは上手いよね」
月「ゲームは下手くそって?……あ、負けた」
ク「上手くなんないね」
月「クラゲが上手いんでしょ」
ク「大丈夫だって、月水金が上手くなるまで私が付き合ってあげるから」

月水金が舞台からはける。一人でゲームをするクラゲ、どこからか月水金の話し声が聞こえる。

月「前は楽しかったね。まさか同じ区に住んでたとは思わなかったけど。リアルで見ても美人でびっくりした」

クラゲは少し顔を曇らせる。

月「可愛いね」
月「東京住みなの?」
月「俺もこのゲーム知ってる」
月「今度こっち来なよ」
月「そのイベント俺も行くけど、会う?」
月「前はありがとね」

舞台に月水金が現れ、クラゲに近付く。

月「クラゲだけだよ」

そう言って舞台からはけていく月水金。

明転。

ク「私が可愛くないから月水金に飽きられちゃうんだって、そう思って」
な「一つ言えるのは、ゆいは月水金が好きなんじゃなくて、特別扱いをしてくれた存在に縋ってるだけなんじゃねぇのか」
ク「そうだね。そうだよ。分かってる」
な「もう多分、その月水金は居ない」
ク「……」
な「会っても無駄だ。ま、見た感じ成人済みとしか会ってないみたいだから無さそうだけど」
ク「はっきり言ってくれるよね」
な「事実だし月水金と関わっても多分、お前は幸せになれない」
ク「期待しちゃったな」
な「余談だけど。ゆいを特別扱いしてくれるやつは、案外近くに居るんじゃねぇか」
ク「……そうなのかな」
な「うん。じゃあな、俺はアカウントを消す。ゆいのこともなんも知らなかった。また大学で会おうぜ」

なるが舞台からはける。

ク「全部噓でも楽しかった」

アバターの衣装を脱ぐクラゲ。誰かに電話をかけるゆい。

ゆ「……あ、もしもし?ごめんね急に。」


終幕。

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