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「ストレンジャー」

霜月 酔斗しもつき すいと 高校三年生。二組。文芸部。
如月 誉きさらぎ ほまれ 高校三年生。二組。文芸部。
長月 一織ながつき いおり 高校三年生。三組。演劇部。
水無月 香みなづき かおる 高校三年生。四組。誉、哲治と幼馴染。
卯月 哲治うづき てつじ 高校三年生。四組。誉、香と幼馴染。


とある高校の放課後、空き教室。一織、香、哲治の三人が集まっている。哲治と香はスマホでゲームをしている。

長「...おい」
水&卯「…」
長「作戦。作戦をだな」
水&香「...」
長「…お」
水「うわあああ!!ミスった!!」
卯「ハイ乙ーー」
水「くそ。フルコン手前だったのに」
卯「俺の勝ち」
長「おい!!!」

静まり返る哲治、香。

長「おいおい。おいおいおい。何だよお前ら!ゲームなんかしてよぉ。俺の作戦会議はどうなったん
卯「作戦っつってもよ」
水「勝算がないんだから考える気も起きねぇな」
長「勝算がないなんて言うなよ!それに、はなからそんなこと言ってちゃあお終いだろ?二組の天使、誉さんに明日!告白するって決めたんだ。完璧なプランで誉さんを振り向かせる。その為の作戦会議だ」
水「わざわざ俺らを呼び出してよ」
卯「もう帰っていいか」
長「お前らを呼び出したのは他でもない…」
卯「聞いてねぇな」
長「誉さんと仲が良いからだ!」
水「単純~」
卯「誉は幼馴染なんだよ」
長「そう。それが羨ましすぎる。なんだよ幼馴染って。チートじゃねぇか」
水「付き合いがなげぇだけだ」
卯「何で一織は誉のことが好きなんだ?」
長「何でだって?無粋な質問だな。俺は誉さんの全てを愛してる」
水「話になんねぇ」
長「誉さんの潤しい黒髪。慈愛に満ちた性格。透き通った瞳。鈴のような声…その全てを愛している。一年生の時から惹かれていたんだ。やっと、やっと同じクラスになれたと思ったらもう高校生最後の夏…」

哲治と香、一織が話している途中からゲームを再開。

長「俺と誉さんの出会いはそう、二年前の夏だった。俺が遅刻して校門で清掃と挨拶をさせられていた時、こんな惨めな俺を見て誉さんは」
卯「だあああ爆死したああああ」
水「ハイ乙ーー」
卯「俺の、俺の五千円が水の泡に」
水「五千円は痛いな」
長「だから聞けって!」
卯「長いんだよ」
水「端的に言え」
長「誉さんが好きです」
水「それでいい」
卯「ていうか、なんだ?明日告白すんのか?」
水「は!?マジかよ」
長「さっき言ったぞ」
卯「どこでどんな風に告白するんだよ」
水「5W1H!」
長「それが決まってないからこうして考えてんだろうがよ!」
卯「はぁ?明日告白するんじゃねぇのかよ」
水「こいつあれだろ。詐欺だよ、詐欺。告白するする詐欺」
卯「あー」
水&卯「だっせぇー」
長「うるせぇうるせぇうるせぇ。お前らに俺の何が分かる」
卯「なーんも分からん。そもそも明日一織が告白するビジョンが見えない」
水「だが哲治、どうせこいつが納得いく計画とやらを考えてやらねぇと俺らは帰れねぇんだ」
卯「関係無いね、俺は帰る」
長「卯月哲治。俺は知っている…」
卯「…な、なにをだよ」
長「彼女が居ながらお前、バスケ部のマネージャーに...」
卯「誉のことは全て俺に任せろ絶対お前を幸せにしてやる」
水「(手の平を返すジェスチャー)」
長「俺の情報網をなめんなよ」
卯「早く練ろうぜ、誉を完璧にオトす作戦をよ」
水「お前マネージャーに何したんだよ」
長「哲治の悪行には目を瞑るとして」
卯「悪行っていうな」
長「さっき香が言ったように、5W1Hは決めるべきだ」
水「いつ!」
長「明日だ」
卯「何で明日にこだわるんだ?」
水「あれじゃねぇか、誉文芸部だろ。文芸部は毎週水曜日休みなんだ」
長「そう。誉さんは大体部室にこもってる。放課後呼び出すなら水曜日しかない。且つ誉さんが掃除当番じゃない週が今週だ」
卯「夏休み前最後の、正真正銘誉が暇な放課後が、明日なんだな」
長「その通り」
水「一織がそこまで把握してんのがキショいな」
長「いつ、は明日で決定だ」
水「どこで!」
長「この教室で」
卯「この空き教室か。確かに誰も出入りはしねぇな」
水「いいんじゃね」

すると教室の外から酔斗の声。

霜「果たして本当にそうかな」
長「誰だ!」

酔斗が教室に入って来る。

霜「誰も来ないと思ったら大間違いだ。僕みたいに空き教室を使っている人間はいくらでもいる」
卯「(香に)マジで誰」
水「酔斗!」
卯「知ってんのか」
水「あぁ。去年同じクラスだったんだ」
霜「誉さんに告白するんだって?」
長「そうだ。その、あれだ。とりあえず名乗れ」
霜「二組の霜月酔斗」
長「二組!?誉さんと同じクラスじゃねぇか。羨ましい」
水「そこかよ」
長「俺は長月一織。お前がここで何をするかは知らんが、明日の告白は邪魔すんなよ」
霜「誤解だな。邪魔する気なんてサラサラないぜ、僕はここに下見に来たんだ」
卯「下見?何の」
霜「相談室を開こうと思ってる。ここで。人の話を聞きたくて」
水「へぇ、相談室。どんな」
長「相談室だか何だか知らねぇが、今は大事な会議中だ。今日はお取引き願おうか」
卯「おい一織」
水「ごめんな酔斗、今日は譲ってくれねぇか」
霜「やだね」
長「なっ」
霜「僕も参加するよ、この会議。それでいいだろ」
卯「…お、おい。どうするんだよ」
水「一織」
長「…良かろう。参加を許可する」
霜「どうも」
水「まぁ人は多い方が心強いもんな」
霜「相談室のチュートリアルだと思って頑張るよ。力になる」

酔斗、机と椅子を動かす。

卯「何してんだ」
霜「相談室みたいにしてるんだ。対面でそれっぽくしたくて…出来た。座って」

一織、無言で座る。香と哲治もそれに続いて椅子に座る。

霜「さ。大体聞いてたけど、僕に何を相談する?」
長「二組の誉さんに明日ここで告白するから、その為の作戦を考えてもらいたい」
霜「本当は?」
長「…え?」
霜「それは建前だ。一織君の本当の悩みをここで吐露してこそ、上手くいく」
卯「いや、一織はただ作戦を考えてほしいだけで」
霜「じゃあ誉さんの掃除当番まで把握しといて、作戦を前日まで考えないのはなぜ?わざわざ幼馴染の香君と哲治君まで呼び出して、自分は何も考えてないなんて辻褄が合わない」
水「一織、手段くらいは自分で考えてるよな」
長「...」
卯「図星か」
霜「さ、一織君。君は何に悩んでる」
長「…自信がないんだ。今まで話しかけに行ったり、趣味を共有したり、彼女の作品を読んだりしてきた。だが誉さんにとって自分は友達以上の何でもない。今が壊れるくらいなら、何もしない方がいいのかもしれない」
水「一織...」
卯「作戦以前の問題じゃねぇか」
霜「そうだな…アリストテレスは『技術の中に目的が内在している』と言った。成功する未来を見ていないのに、作戦が考えられるわけがないね」
卯「何かよく分かんねぇけど。作戦どうこう以前に、一織の意識が問題ってことか?」
長「問題...」
霜「問題っていうより、一織君の現状を整理しただけだ。さ、これから一織君を導くのが僕の役目だよ」
長「酔斗さん!」
水&卯「酔斗さん!?」
霜「じゃあそもそも告白をするかどうかだけど。僕は告白賛成派だ」
卯「俺も。絶対成功するって確信はねぇが、相手に意識させることが出来るからな」
長「あぁ、俺もそう言い聞かせてここまで来たんだ。例え自分に自信がなくても、後悔しない為に...」
水「俺は正直反対だね。」

驚く一同。

水「知らなかったかもしれねぇが、告白っつーのはお互い好きなのを確信してからするもんだ」
卯「その見込みがないから、こうして一歩踏み出そうとしてんだろ」
長「見込みがない...」
霜「まぁ実際このままだと進展がないと判断したのは一織君だしね」
水「それにしたって無謀だぜ。俺はまだ様子を見てたほうがいいと思う」
卯「頑なだな」
霜「香君は保守的なのか」
卯「ど、どうすんだよ一織」
長「ああああ!やっと勇気が出てきたと思ったのに、また引っ込んじまった」
卯「香~」
水「本当のことを言ったまでだ。それに、一織のことを思って言ってんだよ。これ以上辛くならないように、より結果を確実にする為にな」
霜「うん、香君は一織君の邪魔をしたいわけじゃない。彼なりの優しさだ」
水「そういうこと」
長「くそ、俺は、俺はどうするのが正解なんだ」
卯「恋愛に正解も不正解もねぇよ。結局なるようにしてそうなるんだから」
霜「じゃあ一織君の前には二つ選択肢があるわけだ。明日ここで告白するのか、まだ様子を見るのか」
卯「決めろ、一織!」
長「…」
霜「一織君」
長「…分かんねぇよ~!!それで決められたら、もうとっくに告白してる!」
水「現状維持を続け早三年...」
卯「やめたれ」
長「酔斗さぁん、貴方が導いてくれるんじゃなかったんですか」
霜「そうだな...」
水「酔斗は賛成派って言ってたよな」
霜「あぁ、ちゃんと理由はあるよ。一織君、君のことだから気づいてると思ったんだけど。誉さん以外は本当に興味ないんだな」
長「な、何のことだ」
霜「誉さんは水曜日以外、どこにこもってるんだったっけ」
卯「そりゃあ、文芸部で何か書いてんだろ。それがどうし…えっお前」
長「お前文芸部か!?」
霜「そう。僕も誉さんと同じ文芸部所属だ」
長「う、羨ましい…!」
水「知らなかったのかよ」
卯「でもそれが何なんだ?」
霜「怒らないでほしいんだけど、やっぱり誉さんと話す機会は多くてね」
長「くそ!!」
水「怒ってる」
霜「大丈夫。一織君にとって有益な情報を提供できるんだ。例えば…好きなタイプとか」
卯「おお!」
長「誉さんの、好きなタイプ…!」
霜「聞きたいだろ」
水「これは聞くしかねぇな」
長「お、教えてくれ!」
霜「そう慌てない。情報はこれだけじゃないんだ」
水「まだあんのかよ」
霜「順番に話す。まず誉さんの好きなタイプ」
長「…」
霜「一言で言えば、『変な人』…だって」
卯「…へ、変な人」
長「変な人…うん、いける。俺は人類を変かそうでないかで分けたときに、間違いなく変の部類に入る」
水「ブツブツ言ってる」
長「最悪そうでなくても誉さんの為に変人を演じるのは容易いことだな。だが誉さんがなにを持って変とするのか、それが問題だ」
卯「演じるっていうのは意味ねぇんじゃねぇか」
長「じゃあお前は演劇に意味がないって言うのか」
卯「それとこれとは違うだろ」
長「少なくとも演劇部に向かって言う言葉じゃない」
水「お前劇すんの」
長「いや、脚本」
卯「じゃあ演じてねぇじゃん」
霜「それに加えて、ストーリーライター」
卯「…え」
水「す、好きなタイプか?」
霜「そう。物語を書く人は親近感が湧くらしい」
卯「それって」

香と哲治、一織を見る。

長「…おれ」
霜「まぁまだ断定は出来ないけどね!」
長「なんだこいつ」
水「綺麗に上げて下げてきた」
霜「そもそも好きなタイプって言っても、小説の登場人物の話だ」
長「先に言え」
卯「いや、そうだとしても侮れないぜ。好きな人を自分の創作に出したがるのは、芸術家の性だろ」
水「偏見だな」
霜「でも哲治君の言うことには一理あるよ」
長「結局分かったことは変な人、物書きがタイプってくらいか」
霜「うーん、あとは今気になってる人がいるとしか」
水「待て待て待て待て。待て」
長「…!」
卯「落ち着け一織!」
霜「楽しーー」
卯「弄ばれてる」
霜「大丈夫だって一織君。思い出して、僕は告白賛成派なんだぜ。僕の言いたいこと、ちょっと考えたら分かるだろ?」
水「酔斗は、告白が成功すると思ってんだな」
長「じゃあ誉さんの気になってる人って」

酔斗以外の三人が顔を見合わせる。

長「うわあああ」
卯「いいぞ一織!後は告白するだけだ」
霜「こうなったら変に作戦なんて考えなくても、明日ここで、素直に伝えるだけでいいんじゃないか」
水「ま、まじか」
長「お、俺。頑張る。誉さんと、最高の夏を過ごすんだ!!」
卯「あ、おい!」

一織、走って教室を出ていく。

水「行っちまった」
霜「じっとしてられないタイプだね」
卯「やっと帰れる。行こうぜ香」
霜「や、ごめん。香君に確認したいことがあって。ちょっと話していい?」
水「え」
卯「あぁ、全然いいぜ」
霜「どうも」
卯「じゃあ俺先帰っとくから」
水「お、おう。またな」

哲治が教室を出ていく。

水「何だよ、俺だけ引き留めて」
霜「気づいてるんだ」
水「…何に」
霜「香君の悩みだよ」
水「言ってみろよ」
霜「言っていいの」
水「…」
霜「ほぼ確認だけど。君も、誉さんに惚れてるんだろ」
水「はぁ~」
霜「図星?」
水「…そうだよ。俺も誉が好きだ。もうずっと片思いだけど」
霜「幼馴染って言ってたもんね」
水「なんでバレたんだ」
霜「去年。僕は香君と同じクラスだっただろ。HRが終わってすぐ教室を出ていくから、いつもどこに行ってるのかと思ってた。そしたらどこに行くわけでもなく、君はただ誉さんのクラスで彼女が出てくるまで待ってたんだ。しかも哲治君とは違って、部活が終わっても誉さんを迎えにきてただろ?」
水「そこまでバレてたのか…」
霜「僕の観察眼が優れているだけだよ。一織君はおろか哲治君でさえ気づいてないんじゃないかな」
水「そうかよ」
霜「…どうしたの」
水「…俺は物語も書かなければ、特段変な奴でもねぇ。脈無しだ。その上、誉は一織が好きなんだろ。もう諦めるしかねぇのかなって」
霜「彼女が一織君を好きだとは一言も言ってないぜ」
水「あ?でも、条件的に」
霜「好きなタイプの話は本当に言ってたことだ。でもここだけの話、気になってる人がいるっていうのはただの僕の推測だよ」
水「何が言いたいんだよ」
霜「君も告白するんだ。明日」
水「はぁ!?」
霜「正直誉さんが想いを寄せている相手は僕だってわからないんだ。一織君かもしれないし、君の可能性だって十分にある」
水「無理だよ、それこそ無謀だ」
霜「じゃないと一織君に先を越されるぜ」
水「…!」
霜「明日の放課後。どうするのかは君に任せるよ」

酔斗が教室を出ていく。


暗転。


一織の声。

長「誉さんへ。突然のお手紙失礼します。貴方に伝えたいことがあるので、今日の放課後、西校舎の空き教室に来てく下さい。」

明転。

放課後の空き教室。教室に誉、手紙を開いている。

誉「…誰だろう」

すると教室に哲治が入って来る。

誉「あ。哲治」
卯「よぉ誉。どうしたんだこんな所で」
誉「なんか、靴箱に手紙が入ってて。ここに呼ばれてる」
卯「誰に呼び出されたの」
誉「分かんない」
卯「えっ?(手紙を覗き込む)…まじか」
誉「なんか知ってるの?」
卯「ん-まぁそうだな。だから隠れて聞いとこうと思って」
誉「盗み聞き」
卯「頼む!」
誉「別に、私はいいけど」
卯「あざす!あ、この机とか良さそう」

哲治、机に隠れる。

卯「誉、見える?」
誉「ううん」
卯「じゃあ俺ここにいるわ。もうすぐ来るんじゃねぇか」

すると教室の外から一織の声。

長「あ!あの。如月誉さんですか」
誉「うん」

一織、教室に入って来る。

長「ごめん。急に呼び出して」
誉「いや全然…」
長「俺、どうしても誉さんに言いたいことがあって」
誉「待って」
長「え?」
誉「それ以上、言わないで下さい」
長「な...なんで」
誉「私、好きな人がいるんです」
長「えっ。そ、それって」
誉「一織君じゃありません」
長「(言葉を失い、膝から崩れ落ちる)」
卯「えっ!」

一織が崩れると同時に哲治が机の下から出てくる。

卯「一織じゃないのかよ」
誉「...うん」
長「…」
卯「そ、そっか。おい、一織」

動かない一織。哲治が一織を抱きしめる。

卯「よくやった!お前は頑張った!自信持て!」

少し引いている誉。すると教室に香が入って来る。

水「うわ」
誉「香」
水「なんだこれ」
卯「駄目だったんだ」
水「あ?」
卯「一織」

一織が完全にその場で倒れてしまう。

卯「いおりー!!」
水「…告白されたの」
誉「うん」
水「断ったのか」
誉「…うん」
水「じゃあ絶対無理じゃねぇか」
誉「え?」
水「いやなんも。いおりー!!」

香も一織に抱きつく。一織、意識を手放している。ドン引きの誉。

卯「ん?待てよ。じゃあ誉、お前の好きな人って誰なんだ?」

急に起き上がる一織。

誉「そ、それは」
長「お、俺が知ってる奴か?」
誉「どうだろう」
卯「変な人?」
誉「うん」
水「物語を書く?」
誉「うん」
長「俺?」
誉「ううん」

膝から崩れ落ちる一織。

水「いおりー!!」
卯「ヒントくれよ。一織の勇気に免じてさ」
水「そうだよ、こいつ、ギリギリまで告白するか悩んでたんだ」
誉「そうなんだ」

ゆっくりと立ち上がる一織。

長「誉さん。はいかいいえだけで答えてくれ」
誉「えっ」
長「いいから」
卯「どうし」

哲治を抑える香。

長「誉さん、貴方の好きな人は...眼鏡をかけていますか」
誉「はい」

目を合わせる哲治と香。

長「そいつは…文芸部ですか」

緊張した空気が流れる。

誉「…はい」
卯「お、お前」
長「そいつの名前は」

教室に酔斗が入って来る。

長「...霜月酔斗」
霜「はい」
誉「酔斗、君」

誉、教室から出て行ってしまう。

卯「…酔斗、てめぇ!!」
霜「なになになになに」
卯「お前、お前!一織を弄びやがって」
霜「ま、まさか告白に失敗したのか」
卯「うるせぇ!もうお前は何も言うな」
霜「か、香君は」
水「(首を横に振る)」
霜「…そうか」
卯「なによそ見してんだよ!」
長「哲治、もういい。もういいんだ」
卯「…」
霜「何があったの」
水「一織が告白して、フラれたんだけど...」
霜「じゃあ誉さんの好きな人は別にいるのか」
卯「しらばっくれんなよ、分かってて一織をそそのかしたんだろ」
霜「そこだ。なにを言っているのか見当がつかない」
水「お前これで分かんねぇのかよ。相当鈍感だぜ」
霜「鈍感…?えっ」

間。

霜「…マジ?」
卯「ホントに知らなかったのか」
長「呆れるぜ、人のことは敏感でも、自分がこれじゃあなぁ」
水「行って来いよ。誉、きっと傷ついてる」
長「あぁ。俺たちじゃねぇからな」
霜「待って。相談室を開きたいのは、創作のネタにしたいからなんだ。また相談室に来て...」
卯&水&長「誰が行くか!!」
霜「酷い」
長「さっさといけ!」

酔斗、走って教室を出ていく。

水「変な奴」
長「あぁ。負けだ負け」
卯「いいのかよ」
長「そうだな。こう見えて諦めは早いほうなんだ。今日は帰るよ。別に彼女がいなくとも、最高の夏は過ごせるんだぜ!」

一織、そう言って大きな溜息をついて教室を出ていく。すると哲治の携帯に着信が入る。

卯「うわ。」
水「誰から」
卯「彼女。一織、あのことバラしたな」
水「例のマネージャーの?マジでなにしたんだよ」
卯「休んでた所のノート見してあげた。学校で」
水「え、それだけ?」
卯「あぁ。嫉妬しやすいんだよ…あ、切れた」
水「びっくりした。何しでかしたのかと」
卯「別にマネージャーだけに見せてないしな。ていうか」
水「なんだよ」
卯「昨日、俺が帰った後酔斗と何話したんだ?」
水「あ、あぁ」
卯「お前が誉のこと好きって話か?」
水「えっ」
卯「気付いてない訳ないだろ」
水「マジかよ、言えよ!」
卯「隠してたのお前だろ。そんでさ」
水「なに」
卯「俺の感だけど。誉ここに戻って来るぜ」
水「なっ」
卯「どうせ酔斗のこと避けて、ここに戻ってくる。じゃあ、俺先帰るから」
水「おい、哲治!」
卯「またな」

哲治、教室を出ていこうとする。すると誉とすれ違う。

誉「ま、まだいたの」
卯「お前もな。俺は帰る。じゃあな」
誉「あ、うん」

哲治が教室を後にする。

誉「香は帰んないの」
水「あ、あぁ...」
誉「...」
水「酔斗は足遅いから、まだこねぇんじゃねぇか」
誉「そっか。ダメだな、どうしても避けちゃうから」
水「誉は、酔斗がその気ならその…付き合ったりすんのか」
誉「えっ!」
水「何だよその顔」
誉「そっちこそ何」
水「いや?」
誉「何!」
水「お前のそんな顔、初めて見た。知らない奴みたいだ」
誉「知らない奴って、何年幼馴染やってんの」
水「何年もやった幼馴染でも、初めて見る顔があるんだって、今知った」
誉「香?」
水「俺お前のこと、なんも知らなかったんだな」
誉「…」
水「ほら、あいつのとこ行って来いよ。多分靴箱辺りでバテてんだろ」
誉「ちょ、ちょっと」

香、誉の背中を押して教室から追いやる。

誉「わ、分かったって。酔斗君のとこ行くから。またね、香」

誉が教室を出ていく。誉の後ろ姿を見送り、一人になる香。

水「俺が一番、知ってると思ってたんだけどな」


終幕。

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