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「私の彼氏」

春咲 乙女(はるさき おとめ)高2。
雨日 まい(ふるひ まい)高2。
2人は幼なじみ。

放課後。女子校の空き教室。
女子高生2人が恋バナ中。

乙「そこでな、あの人が言うてん。
『春咲 乙女、俺のものになってくれ』!
…って。かっっこいい〜〜♡」
ま「…(乙女を見つめる)」
乙「…何。」
ま「おとちゃん、その男やばない…?」
乙「?!なんでよ!!」
ま「そんなセリフ言うん一昔前の少女漫画くらいやで…」
乙「かっこいいやろ!!まいには分からんやろーけど。」
ま「幼なじみから言うても、一生分からんわ…」
乙「それより!まいも最近彼氏できたんやってな。そんなん言うならどんな人か教えてよ」
ま「まぁ、私の彼氏はあんま喋らんのよね。クールっていうか。」
乙「えぇ。クール?」
ま「ていうか、彼氏以上に私が喋らんから…」
乙「沈黙流れるやん。楽しくないん?」
ま「楽しいけど…」
乙「ほんまは2人で行きたいとこくらいあるやろ!」
ま「…あるっちゃあるで、でも相手が行きたくないんじゃって思って、ついどこでもいいよって言ってまうんよ。それで大体駅前で映画とか…」
乙「あのなぁ、言いたいこと言われへん関係なんて、勿体ないやろ!恋人やねんから」
ま「向こうが渋々やったら嫌やんか!」
乙「渋々でも連れ回して、その後に楽しかった!って笑顔見せる方が彼氏は喜ぶと思うで。」
ま「う…まぁ徐々に言ってくわ…」
乙「大体まいは普段の生活でも自分の意見言わなさすぎ…」
ま「(さえぎる)で、でも良いとこもあるねんで!!無愛想やけど、たまに荷物持ってくれたり」
乙「それはええな」
ま「無愛想やけど、絶対車道側歩いてくれたり」
乙「おー」
ま「無愛想やけど、…ちゃんといただきますは言うねん」
乙「終始無愛想やのにいい人やん」
ま「でもカラオケとかやとちゃんと盛り上がってくれるねんで。」
乙「どんな?」
ま「タンバリン鳴らしながら恋するフォーチュンクッキーとか歌ってる」
乙「人変わりすぎやろ」
ま「俺のものになってくれよりかはマシやろ」
乙「いやいや、乙女の彼氏やって荷物持ってくれるし車道側歩いてくれるで!」
ま「はいはい」
乙「〜っ、こないだなんてな!(ぬいぐるみを取り出し)このうさちゃん乙女な。」
ま「うさちゃん」
乙「乙女がこう、『ぴえ〜ん絶対化学赤点や〜』って言うてんな、」
ま「結局赤点やったん」
乙「当たり前やろ。」
ま「逆ギレやん」
乙「そしたらな、
『化学なんて僕がいつでも教えるでしょ』
…って言われてな!!可愛くない?!」
ま「人変わりすぎやろ」
乙「一人称だけや」
ま「キャラもや」
乙「とにかく死ぬほどかっこええの!カラオケでアホみたいにタンバリン鳴らしながらダンシング・ヒーロー歌う人じゃないから」
ま「誰がそこまで言うてん」
乙「これから2人で冬はイルミネーションとか見に行きたいな…あ、思い切って旅行とかも!!」
ま「(呆れて)そーですか。」
乙「一緒にスポーツするのもいいなぁ〜…めっちゃ運動神経良いんよ、彼♡」
ま「あぁ、スポーツやったら私の彼氏もしてるで?」
乙「なになに」
ま「(サッカーのキーホルダーを出して)サッカー」
乙「えっ」
ま「?」
乙「乙女の彼氏もサッカー」
ま「ええ。おとちゃんと被った〜」
乙「いやほんま!こないだなんてサッカーのスマホゲームでレアカード出たーって喜んどったし」
ま「あっ、彼氏もそのゲームやってるかも。わたしもガチャ報告されてさ」
乙「ほんま?!皆やってるんやな。」
ま「サッカー好きなんやろね」
乙「あ、でも昨日足怪我したらしくて」
ま「…ん?」
乙「足痛めたみたいで。試合の心配してたけど」
ま「まって。その怪我したとこってさ、」
乙ま「「左足」」
乙「?!」
ま「…(怪訝な顔)」
乙「もしかして、まいの彼氏も左足痛めてんの?…はは、こんな偶然あるんやなー…」
ま「い、いやほんまにね…!足、心配やわ〜…」
乙「まいはその彼氏と出会ったのってどこなん」
ま「塾で。おとちゃんは確か」
乙「インスタ」
ま「うちの彼氏、インスタはしてへんらしいねんな。」
乙「乙女も塾行ってるっていうのは聞いたことない…」
ま「やっぱ偶然か」
乙「う、うん」
ま「…おとちゃん、これは確認な。彼氏の好きな食べ物」
乙ま「「唐揚げ」」
間。
ま「嫌いな食べ物」
乙ま「「辛いやつ」」
ま「…」
乙「…」
乙「口癖」
乙ま「「『それはえぐいw』」」
乙「よくする仕草」
乙ま「「(頭を振り、髪をかきあげる)」」
ま「最近自慢してきたこと」
乙ま「「(ペットボトル手の平ダンス)」」
ま「彼氏の名前」
乙「ちょっ………と止めよか。」
ま「せ、せやな、休憩!!」
乙「いやなんの休憩やねーん!(笑)」
ま「メンタル」
乙「…」

2人、同時に深呼吸。

乙ま「「一ノ瀬 悠真」」
乙「(立ち上がる)」
ま「そんな…二股、って…」
乙「…」
ま「しかもインスタしてたんや…」
乙「まい、付き合ったん何月何日。」
ま「え?…5月14日やけど」
乙「…乙女の方が、先やった」
ま「…ん?」
乙「乙女は5月10日!!!先に悠真の彼女やった!」
ま「この期に及んで何言うてんの!?」
乙「私まだ悠真の彼女がいい。」
ま「…二股かけるような人やったんやん。2人で別れようよ…」
乙「いや。別れたくない。」
ま「おとちゃん…!」
乙「まいが別れたらいいやん。」
ま「おとちゃん、私はおとちゃんのこと思って」
乙「初めての彼氏やった。初めて乙女を見てくれた…乙女の王子様やったの!!!」
ま「…」
乙「中学からモテてきたまいには分かんないよ。…やからまいが悠真と別れたら良いねん」
ま「…絶対別れへん。」
乙「?!」
ま「私の方が一ノ瀬君好きやから」
乙「何対抗してんの、さっき2人で別れよとか言うてたやん。」
ま「そんなん言うたっけ?」
乙「それはえぐい」
ま「おとちゃんは浮気されたんやで。私の方が愛されてるから。」
乙「なっ…」
ま「何が王子様や、おとちゃんはな、一ノ瀬君の良いとこしか見てへんねん。寒気が強いっていうのを見て
『明日はさむけが強いんやって』って言うくらいにはお茶目な人やねんから」
乙「なんなんよその『私の方が知ってます』アピール!!」
ま「盲目なおとちゃんとはちゃうねん。ちゃんと一ノ瀬君を見てるのは私」
乙「何よそんくらいで。乙女なんかな、最高通話記録24時間いってんねんからな!」
ま「寝ろ!!!!!!!」
乙「大体?私の方が彼女として相応しいと思うけど?まいみたいに地味な服じゃないし」
ま「誰かさんと違って清楚なんです〜。マニキュアは男ウケしんよ。」
乙「悠真は可愛いって言ってくれたんですけど」
ま「お世辞に決まってるやろ」
乙「お世辞じゃないし!…まいは引き下がると思ってたのに、急に強気になっちゃってさ。」
ま「自分の意見をちゃんと言えって言ったんはおとちゃんやろ」
乙「さっきまで言えんかった癖に。やっぱまいには譲れへん。」
ま「意地でも引かんねんな」
乙「当たり前やわ。」
間。
乙「絶対まいより、いっぱい好きって言ってもらってんから…!」
ま「…っ、私だって、おとちゃんなんかより好きでいてもらってたし…!!」

2人泣き始め、まいがハンカチを取り出す。

乙「!なぁ、それ」
ま「?」
乙「(同じハンカチを取り出し)」
ま「!…2人で買ったやつ。持ってきてたん」
乙「…悠真に、子供っぽいって言われてん」
ま「え、これ?」
乙「うん。その時さ、私怒ってもて」
ま「…」
乙「まいとの思い出を貶された気がして、そういう事言うのやめてよ、って」
間。
ま「カラオケ行った時」
乙「?」
ま「私が歌っとる時、ずっとスマホ触ってんねん」
乙「…」
ま「乙女は聴いてくれるのに」
間。
乙「…乙女、悠真の彼女でおりたかったけど、まいともずっと友達でおりたい…」
ま「…おとちゃん」
乙「…」
ま「これって、1番悪いんって、誰?」

2人、顔を見合わせる。

乙ま「「一ノ瀬 悠真」」

乙「ほんまに」
ま「こんな簡単なことやったのに」
乙「まいにこんなに言われたん初めてやわ」
ま「おとちゃんのせいやからね」
乙「もー…」
ま「浮気が下手くそで良かったかも」
乙「下手すぎやわ!…あああ、二股してたからキャラブレしてたんか。」
ま「恋は盲目やな」
乙「お互いな」
ま「否めへんわ」
乙「よしゃ、じゃあちゃんと2人で別れよう」
ま「…いや、私はまだ彼女でいる。」
乙「え、ちょっとまい…?!」
ま「作らなあかんから、あと3日だけ」
乙「?」
ま「あいつのお昼ご飯にタバスコいれるのと、ロシアンルーレットのわさびクッキー、どっちがいいかな」
乙「何言い出すんかと思ったら、何やそれ。…乙女も手伝わせて!」
ま「ええよ、どっちにしよっか」
乙「両方に決まってるやろ」
乙ま「「それはえぐいw」」

二人、楽しそうに一ノ瀬への復讐を考えている。やがて荷物をまとめ、舞台からはける。

終幕。

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