「私コノテーション」2

けい 大学一年生。
あさり 大学一年生。

夜10時。大阪のアパートの一室、あさりの部屋。あさりとけいが話している。けいはドライヤーを持っている。

あ「(自分の髪を触り)なにこれ、なにこれなにこれなにこれ!」
け「なんやねん」
あ「自分の髪ちゃうみたい」
け「なんで」
あ「めっちゃさらさら。同じドライヤーよな?私の髪なんかした?」
け「なんもしてへん。俺のゴッドハンドが火を噴いただけや」
あ「丸焦げなるわ」
け「あさりが乾かすの下手なんちゃう」
あ「そうなんかなぁ」
け「真に受けんなって!いつもさらさらやろ」
あ「当然」
け「なんやねん……まぁいいや。これで一個埋まったな、そこあるやろ取って」
あ「チェックシート?」
け「うん」
あ「まぁまぁ埋まってきたやん」
け「そうか?」
あ「うえから『手をつなぐ』、『デートする』、『寝落ち通話』、『彼シャツ』、『お泊まり』、『手料理を食べる』」
け「ほんで『髪を乾かす』」

けいがチェックシートにチェックを入れる。

あ「てかよく私の家来たな」
け「家でせなあかんこと一気にやろうと思って」
あ「雰囲気もなんもあらへんやん」
け「付き合ってる訳ちゃうからええやろ」
あ「それはそう」
け「あさりこそ良かったん?」
あ「全ては劇の為や」
け「流石」
あ「びっくりしたけどな。彼氏彼女の役するんはええけどさ、組み合わせが。まさかけいとやるとは」
け「ある意味一番やりにくいよな」
あ「ほんまによ。なんで私らなんやろ」
け「そりゃあ仲良く見えたんやろ。実際仲はええし」
あ「まぁそっか」
け「あ、ちゃうで。やりにくいって別にやりたくないとかじゃない」
あ「分かっとうわ」
け「むしろ逆かも」
あ「……はぁ?」
け「いや変な意味ちゃうよ。シンプルにあさりが演技上手いから、やりやすいっていう」
あ「なんや当然やんどしたん急に当たり前のこと言い出して」
け「自信ヤバ」
あ「けいやって上手いよ」
け「えぇ?そうかな」
あ「普通に照れるやん……」
け「まぁ今回の劇も頑張ろや。俺ら先輩から一目置かれてんねんから」
あ「なんか期待されとうよな」
け「実際俺らは演劇やってた訳で」
あ「経験者マウントや」
け「とってへんわ」
あ「やめたほうがええで」
け「とってへんて!」
あ「頑張ろな、彼氏彼女」
け「そうやな。まぁまずは……監督からもらったチェックシート埋めてこ」
あ「変なことするよな監督も」
け「徹底したい言うてたわ。てか次何て書いとる?俺それ見るん怖いわ」
あ「それでは発表しま~す。次のミッションは……」

するとけいの携帯に通知がくる。

あ「どっち?」
け「俺や」
あ「やだ~浮気だ」
け「入ってんなぁ役……いやちょっと待って」
あ「誰からやったん。公式LINEか」
け「ゆいちゃんや」
あ「おぉ……なんて?」
け「いや、後で返すわ」
あ「なんでよ、別にいいよ」
け「ううん、今は彼氏彼女やし」
あ「なんやそれ『役』やろ」
け「で、次は?」
あ「愛してるゲームをする」
け「もはや罰ゲームシートやんけ」
あ「っしゃあ勝つぞ」
け「気合い入れるやつちゃうよ」
あ「結局返さへんの?ええの?」
け「後で返すってば」
あ「じゃあええけど」
け「ほな始めんで、勝ったら先行な」
あ&け「ジャンケンほい」
あ「勝った!愛してるよ(真顔)」
け「早い早い早い」
あ「どうぞ?」
け「愛してる(真顔)」
あ「愛してる(真顔)」
け「愛してる(真顔)」
あ「愛してる(真顔)」
け「愛してる(真顔)」
あ「愛してる(真顔)」
け「辞めよか(真顔)」
あ「そうしよ(真顔)」
け「ルール合ってる?」
あ「こんなおもんない愛してるゲームないよ」
け「向いてなさすぎる、俺らに」
あ「てなわけでチェックを」
け「絶対入れたあかんやろこれ」
あ「事実が大事」
け「何が『全ては劇の為』やねん……」
あ「でもチェックシートの大半こんなんやん」
け「こんなんって?」
あ「デートはただの小道具の買い出しやろ、寝落ち通話は充電切れて終わったやろ、手料理はどっちも料理できひんからほぼインスタントやったし。手を繋ぐに関しては」

二人、固く握手をする。

あ「盟友やん」
け「まぁ、言われてみればな。でもあれやな」
あ「なに?」
け「彼シャツはいい感じやった」
あ「……」
け「かも」
あ「何?いい感じって」
け「あさり、ちっせぇ~って思った」
あ「馬鹿にしてるだけやん」
け「ちゃうよ」
あ「(呆れ)あのさ、ミッション、多分監督が知ったら怒られるレベルの出来やけど」
け「うん」
あ「私らは振り切らなあかんと思うねんな」
け「ほう」
あ「お互い全く恋愛対象外か、超両想いか。私らは多分恋愛対象外、の方や」
け「そうやな」
あ「ないと思うし私もないけど。ちょっと意識してまうとかが一番よくないと思う」
け「うん、俺もそう思う」
あ「だけ」
け「どうしたん急に」
あ「LINE返しぃよ、ゆいちゃん」
け「え?あぁ……じゃあ返すわ」

けいが携帯を手に取り、画面を眺める。

け「ちなみにやけど内容は『今何してる?』なんよ」
あ「えっ。何て返すん」
け「どうしよ」
あ「好きな子に女とおる~はアウトやろ。なんもしてへん~とかが無難なんちゃう?」
け「そうやな。パクるわ」
あ「……」
け「……よし。返した」
あ「はよ付き合えよ」
け「気早いわ。まだデートもしてへんのに」
あ「奥手くんめ」
け「ほんまな。よくこんな役引き受けたよな」
あ「自分で言っとる」
け「てかゆいちゃんと付き合ったらあかんやろ」
あ「なんでよ」
け「あかんっていうか。付き合った後でこの役はゆいちゃん嫌かもしれんやん」
あ「確かにね。じゃあさっさと終わらせよ」
け「愛してるゲームの次はなんですか」
あ「間接キス」
け「コップ回し飲みのこと?」
あ「もうしとんな」
け「次いこ次」
あ「はいはい」

固まるあさり。

け「なに、どうしたん(あさりからチェックシートを奪う)……なるほど」
あ「いや。分かっとったけどな。そういうシーンあるから避けられへんし」
け「照れてんの」
あ「は!?」
け「すみません」
あ「でも実際問題、好きな人と以外しにくいやん」
け「しゃあないよ、どうせ本番はくるんやし」
あ「あっそ。なんか私だけドギマギしてあほみたいやな」
け「俺だってドギマギしてるよ!!」
あ「えぇ」
け「変な感じ」
あ「嫌なら変えてもらおうよ、いやそうしよ。監督に連絡するわ……」
け「嫌ではないんやって」

けいがあさりを抱きしめる。数秒後なるがあさりを離す。

け「チェック入れるな」
あ「……うん」
け「おい、振り切るんじゃなかったんかよ!」
あ「あっ、そうやな!ごめん、最悪や」
け「最悪!?」
あ「いや違う、変に意識して最悪~って」
け「はは、ウブめ」
あ「急すぎんねん下手くそ」
け「下手とかあんの!?」
あ「多少はあるやろ」
け「……まって、俺今危なかった」
あ「は?」
け「聞いてくれ俺の偉業を。今『じゃあ手本見せろや』って言おうとしたけど……やめた」
あ「……」
け「……」
あ「偉い!!!!!!」
け「やろ!!!!!!」
あ「ここで私がじゃあ見とけって言ってもやっても変な感じなるし、私がやらんくてもけいが気まずくなるもんな!」
け「そうやねん」
あ「流石けいやわ、ナイスプレー」
け「やろ?まぁ今のでよく分かったけど、俺らほんまにそういうんじゃないねんな」
あ「いいやん、劇に支障出えへんし」
け「それでかいよな」

するとけいの携帯に着信がかかる。

あ「びっくりした、電話やん」
け「また俺や……えっ」
あ「ゆいちゃんやな」
け「なんで」
あ「さっきなんもしてへんって言ったからやろ。私ベランダ出とくから」
け「ありがとうあさり……いやなんでや。俺が出る」

けいがベランダに出て電話に出る。部屋に残されたあさり。

あ「(ドア越しに聞き耳を立てる)……よし。なんも聞こえへん」

あ「なんや、好きな子と電話しとう割に真顔やな。私と話してるほうがよう笑ってるよ」

つまらなさそうにドア越しのけいを見つめるあさり。

あ「よく分らんけど。ただの買い出しが楽しかったり、ふざけて遅くまで喋って結局寝落ちしたり、料理分からんって言いながらご飯食べたりする方が楽しいんちゃう。なぁ」

けいはそっぽを向いていて電話している。

あ「私最高の役者やろ」


終幕。

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