見出し画像

セツ子の日記 7月9日

「ぱちぱち」

 「なぁなぁ、お母ちゃん。どっちがえーとおもう?マリちゃんかなぁ、メグミちゃんかなぁ。セツ子はどっちもすきやさかい、まようわぁ」
 地域の盆踊りで「チビッ子のど自慢大会」を開催するそうで、セツ子もそれに出たいと歌を覚えようとするのだが、その前に何を歌うか決めなければならない。今、流行っている歌で一番は「マリちゃん」で次が「メグミちゃん」であろう。セツ子もその二人に絞ってはみたが、そこからの選択が進まない。
 一向に進まない歌選びに父が要らんことを言う。セツ子は音痴やから音痴の「ミヨコちゃん」の歌にしとき、などと酷いことを言った。母はなんちゅう事を言うんだと父を睨んだ。当然、セツ子も怒り出すと思っていた母はなにも言わないセツ子を見た。セツ子は黙って考えている。そして、せやなー、そうするわ。と言って「ミヨコちゃん」の歌を覚えだした。じ…自覚が有るんやねと母はコケた。
 当日、女の子の歌はほぼ全員が「マリちゃん」と「メグミちゃん」を歌い「ミヨコちゃん」を選んだのはセツ子ともう一人だけだった。セツ子は一生懸命歌い、同じ歌ばかり聞いて飽きていた会場の人達から大きな拍手を貰い大満足であった。
 そして賞の発表があり、なんとセツ子は『審査員特別賞』に選ばれた。その理由がこうである。
 「ミヨコさんにとても良く似せて歌っていました。音程の外し方など素晴らしかったです」だそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?