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セツ子の日記 7月7日

「ラブレター」

#文披31題

 「なぁなぁお母ちゃん、あんなぁ。タカシくんからおてがみ、もろてん。こんどなぁ、タカシくんちでおたんじょうかいするからきてっていうんや。いったほうがええやろか」
 いつになく元気のないセツ子の声に母は振反った。セツ子は手に持った封筒を見つめている。母は珍しく行きたいと言わないセツ子に何でそう思うのと聞いてみた。
 セツ子によると、そのタカシ君の誕生会にセツ子以外誰も呼ばれてないらしい。プレゼントをどうするのと聞いた友だち全員がそんな手紙もらってないし話も聞いてないと言ったそうだ。ということはお誕生会のお客様はセツ子一人ということになる。さすがのセツ子も一人だけ呼ばれて何をどうしたら良いのか分からず、正直行きたく無いと思っている。
 母もなるほどと思いお父ちゃんに相談してみるわねと言ってその場を納めた。父はプロポーズには早すぎるともっと早すぎる心配をしている。母は冗談を言ってないでどうしたら良いのかセツ子に言ってやって下さいねと父にこの件の答えを押し付けている。
 タカシ君の家はこの地に古くから住んでいる家で駐車場やらマンションなんかの大屋さんなのだ。家も屋敷と言ったほうがピッタリくる。俗にいうお金持ちだ。父も仕事絡みで会ったりしているので知らない間柄でもない。だが、子供はまだ小さいので大人のようにはいかない。
 父のだした答えはセツ子に手紙を書かせてタカシ君に渡すというものだ。その内容は『タカシくん、おたんじょうかいによんでくれてありがとう。でもね、おたんじょうかいはみんなでワイワイするものだから、みんなもよんでたのしくしましょう。だからみんなにもおたんじょうかいのおしらせをくばってね。わたしもみんなといっしょにおめでとうっていいます』

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