セツ子の日記 7月14日
「さやかな」
「なぁなぁ、お婆ちゃん。おぶつだんて、ほとけさまがいてはるんか? ほかにもだれかいてるんか?」
近所の父の実家に来ているセツ子はお婆さんがお祈りを終えた仏壇の中を覗き込んでそう言った。この家の仏壇の中には正面に仏様、両脇にお坊さんの絵が掛けてある。そして板に字の書いてある物が幾つか置いてある。
お婆さんは難しい事を言ってもセツ子にはまだ分からないだろうと思い、この中には仏様とお坊さんとご先祖様がいてはるんよ。ご先祖様ってわかるか。お爺ちゃんのお父さんやお母さん、お爺ちゃんやお婆ちゃんのことだよ。その人たちがこの中にいてはるんや。そのうち、お爺ちゃんやお婆ちゃんもこの中にはいるんや。そう言うとセツ子は驚いて、こんな小っさいとこに、そないぎょうさんはいってもしんどないのと真顔で言う。お婆さんは笑って、そらこのまんま入ったらしんどいやろうけど、体はのうなって魂だけになるんやから狭くても大丈夫だと言った。セツ子はフーンと言ってから、でもと言ったと思ったら急に泣き始めたのでお婆さんは驚いた。
どうしたんや、お腹でも痛いんかとセツ子に聞くと首を降って違うと言った。お婆ちゃんやお爺ちゃんが死んでしもたらセツ子は悲しくて泣いてしまうと思ったら涙が出てきたという。それを聞いてお婆さんはセツ子を抱きしめ大丈夫や、まだまだ先の話や。セツ子が大人になるまで死んだりせぇへんとセツ子の頭を撫でた。
隣の部屋ではお爺さんがテレビの野球中継を見ながら泣いていた。
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