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セツ子の日記 7月8日

「雷雨」

#文披31題

 「なぁなぁ、お父ちゃんはカミナリさんコワないの。セツ子はカミナリさんキライや。おへそとられたらどないしょ。お父ちゃん、セツ子のことまもってな」
 雷の雷鳴を怖がって父のあぐらの上にセツ子が避難してきた。タオルケットを被って震えていたがどうやら寝てしまったらしい。父も脚の痛さと暑さもピークになって来たのでそっとセツ子を持ち上げ畳の上に寝かし腹にタオルケットを掛けてやる。
 父は髪を汗で濡らしてスースーと寝ている我が娘を見て小学生ぐらいまでが一番可愛い時なのだろうと思った。中学に入ったくらいから思春期が始まって親とロクに話もしなくなる。男親はなおさら始末が悪いようだ。周りにいる父娘を見る限り孫が出来るまで隔たりというか近寄りがたいものが有るように見える。孫の世話という、のっぴきならない事態が父娘の関係を改善してくれるのだと思う。セツ子が孫を生むなんて今はまだ考えられないが、頼れる父で有る限りこの子は娘でいてくれるはずだ。
 そういえばセツ子は兄弟が欲しいと言っていた。別に作らない様にしている訳ではないのだが、その兆しは一向に来ていない。もう一人、男の子でも欲しいと思っているのだが、こればっかりはどうしようもない。
 もし、弟が生まれてセツ子が姉として甲斐甲斐しく弟の世話をやくようになったら、それはセツ子が大人になりだす切っ掛けとなり、父の事など見向きもしなくなるのではという不安が頭をよぎる。いつまでも親離れしないでいても困るのだが嫁に行くまでは側に来て甘えて欲しいという願望もある。
 いかん、これでは俺が子離れ出来なくなる。俺がセツ子に甘えている様なものだと、父は一人苦笑いをして幼い娘の寝顔を見ていた。

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