2015.11.10 続 ドイツの上でピアノを

(前回までのあらすじ)早熟だった僕は、14歳の頃ある女の子と電車通学をしていた。恋の予感のしない相手との通学だ。そんな時、一通の封筒が僕の家に届いた。



郵便受けにはオレンジと黄色のかわいらしい模様の封筒が入っていた。母が見つけ、僕が部活から帰ってくるとにやにやしながら渡してきた。

「はい、ラブレターよ」「そんなんじゃねえよ」

顔をトマトみたいに真っ赤にして母からひったくると、自室にこもって封筒を見た。裏に差出人はなかった。僕は大慌てでそれをちぎり開けた。

いったい誰からの手紙だろう。

「拝啓」

ずいぶん硬い書き出しだな。お母さんにでも指導してもらったのか。それにしても美しい字だ。習字をやっているんだろう。

読んでいくと、僕は途中から髪の毛が全部抜けて呼吸困難になるくらいびっくりした。

「私は、あなたのことが好き。あの子と一緒に通学してるのも知っている、けどあなたのことが好き。お返事、待ってます。ちづる」

なんと、愛の告白に続き綴られた差出人は、僕が毎朝一緒に登校している子の親友の三つ編みメガネの子だったのだ。

こ、これは・・・。

僕はパニックになった。

もしかして、二人して僕をからかっているのだろうか?

いや、字からみてこれは本気だ。

よくわからないけど、僕には確信があった。いたずらでやる人の字じゃない。そう思える筆致だった。

じゃあ、本気なのだろうか?

僕はあたまを抱えた。どうしよう。

あの二人は小学校からの親友。毎日会っているはずだ。僕の返事次第では、あの二人の仲はぶっ壊れる、それはまずい・・・。なんとかしなければ。

僕はその時、不思議なことにどちらにもいい顔をしようとしていた。なんとかしてこの関係が壊れませんように、と。この関係とはつまり僕と色白の子の関係であり、女の子二人の関係であり、手紙をくれたちづるちゃんと僕の関係だった。

まてよ?ちづるちゃんがコクってきた時点で、game overじゃないか?どう答えたって、ダメだよ。あたまの中の悪魔がこんな風に僕にささやく。

いいや、考えるんだ。なんとかしてうまく立ち回れ。かならず打開策はどこかにあるはず。天使がそう励ます。

どうしよう。どうしよう。まさか14歳にしてこんなピンチに遭遇してしまうとは。


つづく

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