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食べる機能の発達❻母乳や哺乳びんでの飲み方とスプーンやコップ、ストローでの水分の飲み方の違いについて

スプーン食べの前に水分を飲む方法についてお伝えしようと思います。
赤ちゃんは、母乳やミルクのような水分を飲んでいるのだから離乳食を食べるようになる前や離乳食を食べるようになれば、スプーンやコップ、ストローで水分を飲むことができるようになると思われるかもしれません。

母乳や哺乳びんからの飲み方

母乳や哺乳びんからミルクを飲むことが苦手のお子さんにカップフィーディングと呼ばれるコップから母乳やミルクを飲む方法を行うこともありますが、❷に書いたように、生まれてしばらくは、生後にみられ発達と共にみられなくなる原始反射のうちの哺乳に関する反射が哺乳動作を担っています。原始反射のうちの探索反射(例えばほっぺを突くとそちらに乳房があるのかと突かれた方に顔を向ける)がはっきりしている時期には、コップが頬に触れると顔を触れた方へ向かって頬を向けますし、大人と同じように口を閉じて飲み込む動作を身につけていないので口の中へ入れるミルクの量を大人が調節しなければなりません。
口を閉じて飲み込む、が水分をスプーンやコップ、ストローで飲むことができるための大切な動作と考えられています。

赤ちゃんがいわゆる哺乳動作をする時は、口を開けて飲んでいます。私たちが口を開けて飲み物を飲むことができるでしょうか。

哺乳動作をしている時、赤ちゃんは口を大きく開けて上くちびる、舌先、下くちびるの3つで乳首をとらえています。舌で乳首を舌先から舌の後ろに向かって上あごへ押し付けていき、舌がもとの位置に戻ると口の後ろの方に隙間(陰圧)ができて母乳やミルクは口の後ろの方、のどの方向へ向かって引き込まれます。赤ちゃんののど(のど仏)の高さは大人に比べると上の方にあることでこのように口を開けたままでも母乳やミルクを飲むことができます。

のどの位置の変化

からだの成長(背が伸びる、口の中が広くなる)に伴って、のど仏の位置が下がっていくと、口を開いたままでは飲み込むことがむずかしくなります。首の背中側には背骨、おなか側には気道、背骨と気道の間に食道があります。気道の入り口は呼吸をするため開いています。食道の入り口は巾着袋を絞ったような形、肛門と同じ種類の筋肉(括約筋)によって閉じています。のど仏は気道の上の方にあります。

私たちはどのように飲み込んでいるのかな

のど仏を軽く触って唾液を飲んでみると、のど仏が上に持ち上がるのが分かります。この時、気道の入り口は閉じ食道の入り口は開きます。口を開けて飲み込むとのど仏が持ち上がりにくく、食道入り口も開きにくくなります。のど仏が持ち上がりにくいため、気道のふたが閉じにくくなります。そうすると飲み物、食べ物、自分の唾液でさえも食道へ入って行きにくく、気道へ入ってしまうことがあります。コンコン、とむせて苦しいです、これを誤嚥(ごえん)と呼びます(お年寄りや疾患のある方の中にはむせない誤嚥っをする方もいらっしゃいます)。
となると、からだが成長(背が伸びる、口の中が広くなる)していくと口を開けたまま飲むことは、誤嚥を招きやすいと言うことがおわかりかと思います。

大人がスプーンやコップから飲み物を飲む時は口は開いているでしょうか?くちびるをふさいでスプーンやコップのふちをしっかり挟んで飲むのではないでしょうか?上くちびるをふさがずに飲むと口の中に入ってくる飲み物の量の調節が難しいです。上くちびるをふさぐことで飲み物の量を調節している、と考えられます。

赤ちゃんの水分の飲み方の発達

スプーンやコップで飲み物を与えると舌が出てきてしまう、口をパクパクしてこぼれてしまう、という時期は、まだ口を閉じて飲み物を飲む動作が未熟と考えられます。水分量を確保することは脱水予防などからだにとって大切なことですから、その時期は母乳や哺乳びんから水分を取る方法がメインと考えて良いのです。口を閉じて舌先と上あごの前の方で潰すことができる絹ごし豆腐くらいの固さの食べ物を食べる力が身につくと口を閉じて飲み物を飲むことも上手になってきます。

ではストローはどうでしょうか?母乳や哺乳びんの次にストローで飲んでいるお子さんを見かけます。ストローの先は口のどのあたりにあるでしょうか?前歯で噛まずに上下のくちびるだけで飲めるといいな、と思います。上下のくちびるでストローを挟めずに口の奥の方までひきこんで飲んでいると、くちびるを閉じることなく飲むことができるので、くちびるを閉じる力を身に付ける機会が減ってしまいます。くちびるを閉じることなくどのようにして飲んでいるかと言うと、ストローを前歯で噛んだり、舌でストローを上あごに向かって押し付けて飲んでいることが多いように思います。

上下のくちびるは生えてきた前歯を外向きにならないように支える(口の内側からは舌が歯を支えている)、歯並びを整える役割を担っていますし、おしゃべりをする時にも上下のくちびるをくっつけて離すマやパなどの音を出すのにも大切です。
ストロー付きマグを持って飲んでくれるとこぼさず飲んで嬉しく思いますが、くちびるを使う機会が減ってしまうので、例えばこぼしても汚れても心配のないお風呂の中でスプーンやコップで口を閉じて飲む練習をしてみるのも一つの方法かしらと思います。

でも、口を閉じて舌先と上あごの前の方で潰すことができる絹ごし豆腐くらいの固さの食べ物を食べる力が身につく前にスプーンで水分を飲ませたいな、と思われる時には、口の奥の方に流し込まず、下くちびるのすぐ内側くらいに少し入れるくらいが赤ちゃんもそのときに持っている食べる力で飲むことができると思います。焦らずに教えてあげてみてください。


金子芳洋編:食べる機能の障害、医歯薬出版

向井美惠編:食べる機能をうながす食事、医歯薬出版

田角勝、向井美惠編:小児の摂食嚥下リハビリテーション、医歯薬出版

向井美惠:お母さんの疑問にこたえる 乳幼児の食べる機能の気付きと支援、医歯薬出版

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