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新しいサプライヤーと、そのメリット・デメリット

前回の記事「ボトラーズの少しだけ深い話」で、ボトラーズの様々な流通経路について書きました。

いずれの流通経路にしても、消費者にお届けする販売価格に繋がる話です。原酒高騰化の昨今、品質と適正価格のバランスを維持することは、従来以上に大きな課題となっています。

そんな中で、ここ数年で新しい流通が見られるようになりました。それはブローカーやボトラーズとインポーターとの間に、二次販社とも言える新しいサプライヤーが現れたことです。

この記事では、新しいサプライヤーがどのような業態なのか、インポーターの立場としてのメリット・デメリットは何か、について書いていきます。

新しいサプライヤーとは

上記でも書いたように、ブローカーやボトラーズなどカスクを供給する業者と、それを仕入れるインポーターとの間を仲介しているサプライヤーのことを指します。

厳密に言うと、20年ほど前にも既に数社存在していましたが、昨今、顕著に台頭してきている存在になってきましたので、便宜上この記事では「新しいサプライヤー」と書いて説明していきます。

▶︎従来のビジネスモデル

さて、新しいサプライヤーの業態に触れる前に、90年代後半〜2000年代初頭を振り返って見ましょう。

従来のブローカーのビジネスモデルは、蒸溜所(またはその親会社)から定期的にカスクを買い付け、自社の熟成庫で熟成・保管し、ボトラーズへ卸販売するものでした。直接カスクを販売(卸)するケースは、そのブローカーと直接取引のコネクションを持っている少数のインポーターとのみがほとんどでした。

一方で、ボトラーズも蒸溜所(またはその親会社)から定期的にカスクを買い付けるのですが、コネクションが無い蒸溜所のカスクを入手する場合には、ブローカー経由で仕入れるのが一般的でした。

逆に、インポーターの立場で見てみると、従来のビジネスモデルには幾つかの閉鎖的と思えるような点がありました。

例えば、あるボトラーズと取引したくても、そのボトラーズが各国に1社とのみエージェント契約をする姿勢であれば新規取引はできませんでした。あるいは、ブローカーと直接取引したくてもボトラーズへの卸売が流通の主流でしたので、結果的にボトラーズと契約しなければいけなくなり新規参入の障壁は大きなものでした。

▶︎変容するビジネスモデル

ところが、世界的なスコッチウイスキー人気と需要増加に伴って、従来のビジネスモデルではない新しい動きが台頭してきます。

ボトラーズは、自社が所有するブランドを切り分けたり、新しいブランドのための子会社を設立したり、別のボトラーズを吸収合併するなどして、例えば日本のインポーターのA社にはAブランドを、B社にはBブランドを…というように、独占契約を止め、複数社と幅広く契約するようになってきました。

また、ブローカーもビジネスモデルを変容していきます。ウイスキーに携わる様々な会社の統廃合によって、ブレンダー会社やブローカーがボトラーズ業を兼業している、あるいはボトラーズを子会社として持っている等、1つの会社が複数の事業形態を所有するようになったことで、従来のビジネスモデルに縛られることなくウイスキーを供給していくようになります。

例えば、自社所有のボトラーズブランドを各国のインポーターに販売しつつ、従来のボトラーズへのカスク卸売ビジネスモデルも維持しつつ、新たな販路開拓のために各国のインポーターへカスク販売をするようになりました。

外的要因としては、ドイツやベルギー、オランダ等のヨーロッパ各国で新興ボトラーズが誕生し、彼らが成功してきたことも挙げられるでしょう。

これらの成功例は、従来のビジネスモデルに縛られない新たな販路として認知されて拡大し、2000年代後半から2010年代初頭〜中頃のシンガポールや香港などアジア圏での新興ボトラーズ誕生の要因の1つとしても繋がっていき、加速度的にカスク需要が高まっていきました。

▶︎新しいサプライヤーの登場

世界的なスコッチウイスキー人気と、ブローカーのビジネスモデルの変容、新興ボトラーズの誕生と成功、それらに起因する加速度的なカスク需要の高まりは、当然そこに新たなビジネスチャンスを見出す人々を生み出すことになります。

新しいサプライヤーの登場です。

彼らの多くは、仲介業者として主にブローカーが所有しているカスクを新興ボトラーズやインポーターへ販売しており、長年の取引実績や強いコネクションを持っていない新興ボトラーズにとっては、カスク供給元として魅力的な存在だと言えるでしょう。

一方で、ブローカーなどカスクを供給する側としても、従来のビジネスモデルで築き得なかった販路・販売チャネルを自社で開拓していくだけではなく、こうした新しいサプライヤーによる販路拡大のメリットがあります。

こうした、ある種ダイナミックとも言えるカスク供給の間口の拡大は、ボトラーズ事業への参入障壁を著しく下げる要因となり、更に新たなビジネスチャンスを見出す新興ボトラーズの誕生をも促していると考えられるのかもしれません。

▶︎様々な業態

新しいサプライヤーも、ブローカーやボトラーズと同様に様々な事業展開をしています。その、いくつかのパターンをご紹介します。

パターン1:自社オリジナルボトルをリリースしつつカスク仲介をしている

ブローカーからカスクを仕入れて、ボトラーズとして自社オリジナルボトルをリリースしている一方で、海外の取引先へカスクの仲介をしているパターンです。

明確な統計や調査をしたわけではないのですが、元々オフィシャル蒸溜所で勤務していたり、老舗ボトラーズ出身者だったりと、長年スコッチウイスキー業界に携わってきた方々が独立しているケースが多いように見受けられます。

元々スコッチウイスキー産業・業界に長く携わっていたので、業界内のコネクションも持っており、ブローカー市場の中でも比較的適正な価格で供給していることが多いように感じます。

パターン2:パターン1が英国以外の会社である

これは、英国以外のボトラーズ会社が、パターン1のように自社オリジナルボトルをリリースしながら、他国の取引先へサンプルを提供し、サプライヤーの役割を担っているパターンです。

少しニュアンスをお伝えするのが難しいところですが、スコットランドのボトラーズやブローカーのエージェントになっている会社が、このスキームでカスクを供給することが多いので、ボトラーズとインポーターの取引形態と似ており、インポーターが酒販店向けPBを仲介して供給するスキームに近いものと言えるでしょう。

パターン3:二次ブローカー

スコットランドのブローカーと、各国のインポーターとの間を仲介しているパターンです。パターン1や2との大きな違いは、自社ボトルをリリースせずにブローカー所有カスクの仲介業のみであることです。

特徴的な点として、これらの会社の中には、インポーター等いわゆる業者向けの卸売だけではなく、一般販売もしている点が挙げられます。

インポーターの立場から見るメリット・デメリット

では、このような新しいサプライヤーからのカスク供給には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。私達DRAMLADはスコットランドから直輸入をしていますので、インポーターとしての立場から、そのメリット・デメリットについて触れてみたいと思います。

▶メリット

一番のメリットは、やはりカスクを購入するチャンスの増加が挙げられるでしょう。前述の通り、従来はボトラーズ事業への参入障壁が高く、余程のコネクションが無い限り、そもそもカスク購入ルートすら見つけることが困難でした。

今では、例えば新しいサプライヤーのウェブサイトのお問合せフォームから簡単にコンタクトすることができ、カスク取引の交渉が可能になっています。これだけでもひと昔前とは大違いです。

その他、カスクのバリエーションが広がるメリットもあります。カスク供給元が1社のみの場合、どうしてもその供給元が保有しているカスクのみからの購入になるため、取引を継続していくうちにバリエーションの幅が狭くなっていく傾向が強くなります。

しかし、供給元が複数あると、バリエーションの幅を維持することができますし、より個性的なカスクを見つけやすくなります。

▶デメリット

一方で、デメリットには慎重になるべき点があります。やはり最も大きなデメリットは価格です。

前述の通り、新しいサプライヤーは主にブローカーのカスクを二次販社として販売しています。こうした中間業者を挟む度に仕入価格が上がっていくのは想像に難くないでしょう。そして、それは当然ながら一般小売価格に反映されます。

更に、昨今のブローカー市場は、単に中間業者の存在だけが要因ではないレベルで価格高騰の一途です。こうしたカスクを実際に仕入れて販売したとしても、市場平均価格よりも高くなってしまう危険性があり、市場での実績が無い新興ボトラーズ(インポーター)にとって競争力の低下を招くことになりかねません。

もう1つのデメリットは、ボトリングにかかるコスト増です。

新しいサプライヤー、特に上記のパターン3の場合、カスク売買の仲介はしますが、ボトリングは取引の範囲外になることが多く、蓋を開けてみたら「樽の所有権を仲介するのみ」というケースも少なくなくありません。その場合は、別のボトリング業者と契約してボトリングしてもらう、ラベル印刷業者に印刷を依頼してボトリング業者にラベルを送付する、といった作業をする必要が出てきます。

ただし、新しいサプライヤーがボトリングに関する様々な提携業者を紹介するケースも少なくないので、これらが一概に煩雑だとは言い難いのですが、時間的・金銭的コストと実売価格のバランスを慎重に検討する必要があると言えるでしょう。

まとめにかえて

以上、新しいサプライヤーによるカスク供給について、その多様な業態と、インポーターの立場から見たメリット・デメリットについて書いてみました。

私達DRAMLADのように複数のカスクサンプルから選定してリリースする身としては、カスク供給の間口が拡がったことで仕入れるカスクの選択肢が増えることは、ウイスキーファンの皆様に多種多彩なシングルカスクの個性を紹介できるチャンスが増えることにつながりますので、歓迎すべきことでしょう。

その一方で、やはり上記のデメリットでも触れたように、ブローカー市場の高騰化でカスクそのものが高額のために、仕入価格の段階で既にほぼ実勢小売価格に近くなってしまっているカスクもありますので、コスト面は慎重に検討しなければいけないと言えるでしょう。

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ウイスキー片手に読んでいただければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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