スコッチウイスキーのラベル規定ー【前半】概略と解説
もし、皆さんがオリジナルのラベルでウイスキーをリリースする機会があったら、どのようなラベルを作りますか?
アーティスティックなラベル、スタイリッシュなラベル、トラディッショナルなラベル、和風なラベル、今までに無い新しいラベル…。
形状は長方形なのか、楕円形なのか、セパレートなのか、部分的にくり抜きするのか…。
自分が思い描く理想のラベル。
想像するだけでも楽しいですね。
スコッチウイスキーには厳格なラベル規定がある
スコッチウイスキーの場合、スコットランドでラベルを貼る際には、そのラベルデザインに厳格な規定があり、それを遵守しなければいけません。
それが、スコッチウイスキー協会(Scotch Whisky Association:以下SWA)が定めている"The Scotch Whisky Regulations"です。
どのくらい遵守しなければいけないのかと言うと、守られていないラベルデザインは供給元から修正を求められ、修正しなければ、そもそも輸入することができません。あるいは既に流通している場合、SWAの法務チームから質問状や修正勧告が来ることすらあります。
では、具体的にどういった規定が定められているのか、ラベルデザインに関する規定の中で、いくつか重要な点をピックアップしていきます。
①カテゴリーの正しい記載
ラベルには、定義付けされているスコッチ・ウイスキーのカテゴリーを消費者が正しく視認できるよう記載しなければいけません。
例えば、そのボトルがシングルモルトである場合、ラベルにはSingle Malt Scotch Whiskyと記載します。その他のカテゴリーも同様です。
SWAで定められているスコッチウイスキーのカテゴリーは以下の通りです。
Single Malt Scotch Whisky
Single Grain Scotch Whisky
Blended Malt Scotch Whisky
Blended Grain Scotch Whisky
Blended Scotch Whisky
「スコッチなんだから記載するのは当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、ここで重要なのが、これらの単語間に何も入れてはいけない、という点です。
つまり、Single Speyside Malt Scotch Whiskyでは規定違反となり、地域名を入れるのであればSpeyside Single Malt Scotch Whiskyとしなければいけないということです。
また、単語間に画像を入れるのも不可、単語の一部を太くしたり大きくすることも不可です。さらに、地域名を除く他の単語を組み合わせて使用することもできません。
これに抵触していなければ、
SINGLE MALT
SCOTCH WHISKY
SPEYSIDE SINGLE MALT
SCOTCH WHISKY
などのように、2行で記載しても問題ありません。
②熟成年数・蒸留年・ボトリング年
これはオフィシャルボトルを見ていただけると分かりやすく、同時に、ご存じの方も多いかもしれませんが、熟成年数の表記は、そのボトルのウイスキーの最少年数を記載しなければいけません。記載方法は以下のパターンです。
Aged 10 Years
12 Years Old
Over 10 Years Old
また、熟成期間は年単位で表記します。これは一般的にそうなっているので特に目立つことではありませんが、下記のような例は、優良誤認や、誤解、虚偽を招きやすいものとして禁止されています。
aged five to ten years(5~10年)
minimum age 5 years: maximum age 10 years(最低5年~最高10年)
The average age of the whiskies in the blend is ten years(ブレンドされているウイスキーの平均年数は10年)
Contains whiskies up to 60 years old(60年までのウイスキーが含まれている)
80% 10 year old; 20% 25 year old Scotch Whisky(80%は10年、20%は25年のスコッチウイスキー)
蒸溜された年は、必ず単一の年だけを記載しなければいけません。単一の年が大前提ですので月日の記載は可能です。しかし、下記のように複数年にまたがるような記載、年を特定しない記載はNGです。
This 21 year old whisky contains whiskies distilled in 1960 and 1970(この21年のウイスキーには1960年蒸留と1970年蒸留が含まれている)
Distilled 1991 or earlier(1991年以前に蒸留)
Contains whiskies dating back to the 1950s
(1950年代にさかのぼるウイスキーが含まれる)
ボトリング年の記載についても蒸留年と同じです。また、蒸溜からボトリングまでの全ての期間をスコットランドで熟成させている必要があります。
③数字に関すること
スコッチウイスキーが海外で流通する際、特に、英語が広く理解されていない国や地域で販売される場合、日付や数字が蒸留年や熟成年数などと混同されないように慎重に注意を払う必要があると規定しています。
逆に言うと、英語を理解していない国の人が作成したラベルが規定違反になってしまい修正しなければいけない場合が生じるということです。
日本でラベルを作っていると、ついつい記載事項を記号的にヴィジュアルで考えてしまいますが、「英語は言語であり、それを読んで話している人がいる」という当たり前の事実を考えると、こういった事柄についても規定され、誤認を避けるように規定していることは至極当然のことだと腑に落ちるかと思います。
④ブランド名についての規定
あるスコッチウイスキーのボトルが、その蒸溜所で完全に蒸溜されたものではない場合、そのボトルのブランド名(またはブランド名の一部)としてスコットランドの蒸溜所の名前を使用することは違法であるとしています。そして、これは将来オープンする蒸溜所、再稼働する蒸溜所の全てに適用されます。
これは、スコットランドの蒸溜所以外で、スコッチウイスキーと偽って、あるいは消費者を誤認させる方法を禁止しているためで、範囲はラベル、包装、宣伝すべてに及びます。
同時に、製造業者の社名や商号についても、消費者がスコッチウイスキーの蒸溜所名と混同・誤認してしまうようなラベル記載、包装、宣伝を違法としています。
スコッチウイスキーだと偽る/誤認させるケース・スタディーがSWAにされていますので、そちらをご参照ください。
⑤蒸溜所名の使用について
上記④のブランド名の規定は、ある蒸溜所名を使用して別の商品(ブランド)を宣伝する行為や、あたかもその蒸溜所産であると優良誤認させる行為を禁止していて、その逆もまた然りです。
例えば、DRAMLAD蒸溜所という架空の蒸溜所があったとします。
DRAMLAD蒸溜所のシングルモルトはDRAMLADという名称を使用できますが、ブレンデッドウイスキーやブレンデッドモルトにDRAMLADの名称を使用することはできません。これはオフィシャルだと非常に分かりやすいですね。
では、ボトラーズの場合はどうでしょうか。
ボトラーズのボトルの場合、屋号や会社ロゴ、シリーズ化されているブランドが、そのボトルのブランド名に該当します。ですので、必然的にブランド名に蒸溜所名を記載することができません。
例えば、お客様からプライベートボトル企画の依頼を受ける際、ラベルに蒸溜所名を大きく記載したいと要望をいただいたり、そういったデザインをいただいたりすることがありますが、上記の規定から残念ながら修正しなくてはいけません。
しかし、蒸溜所名をラベルに記載することは、どこの蒸溜所産なのかを明らかにすることで消費者が選びやすくなったり、そのボトルの品質を保証したりと、とても重要な役割であることは間違いありません。
そこで「Distilled at 〇〇〇〇 Distillery」と、"どこの蒸溜所で蒸溜されたか"という説明的な記載をすることになります。さらに、ブランド名はラベルで最も目立つようにすることが求められ、同時にSingle Malt Scotch Whisky等のカテゴリーの視認性も求められる結果、
ブランド名 > カテゴリー名 > 蒸溜所名
の順番で、ラベルに記載する大きさが決まってきます。
「決まってきます」と言いますか、そのようにしなければ修正が入ります。細かい供給元の場合だと、ほんの数ミリ単位で微調整を求めてきます。何とも煩わしい話に聞こえるかもしれませんが、修正しないと出荷できませんので守らなければいけない大事な事柄になっています。
この視点で改めてボトラーズ各社のラベルを見てみると、各社とも自社ブランド名と蒸溜所記載のバランスに非常に配慮していることがお分かりいただけるのではないかと思います。
ある蒸溜所名を使用して別の商品(ブランド)を宣伝する行為を禁止していることは、別の側面も持っています。1つの例として樽の由来(カスクタイプ)に関する記載がそうです。
例えば、A蒸溜所のカスクサンプルを入手したとします。そして、そのカスクがB蒸溜所の空樽で熟成されたものだと判明しているとします。セールスやプロモーションだけを考えると非常に興味深くキャッチーですよね。いかにも"売れそう"です。
しかし、これをラベルに記載することは、上記の規定に厳密に当てはめるとNGということになります。
このように、ある蒸溜所名を使用して別の商品(ブランド)を宣伝する行為は規定上禁止されています。
⑥原産地表示
ラベルに"Product of Scotland"と記載することができるのは、そのウイスキーがスコッチウイスキーであり、スコットランドでボトリングされたウイスキーにのみ許されています。
日本や他国でボトリングされた場合は"Product of Scotland"と記載することはできません。この規定は、過去に海外でスコッチウイスキーと産地偽装した商品があったためです。
ウイスキーに限らず、昨今の産地偽装防止や原産地呼称の厳格化は、製品の品質保証のみならず消費者保護の観点からも、ごく当たり前のことですね。
⑦容量とアルコール度数
ラベルには必ず容量とアルコール度数を記載します。日本にも食品表示法に基づく表示基準があるように、一般消費者が理解しやすい適切な大きさで記載することが求められます。
今まで経験してきたケースだと、フォントサイズは14ptでした。これより小さいと大きくするよう求められます。ただし、これは供給元によって多少違いがあったり、同じ14ptでもフォントスタイルによって小さく見える場合には修正を求められることがあります。
14ptは約4.94mmですが、デザインを重視してギリギリのフォントサイズで攻めると、だいたい修正を求められますので注意しなければいけない事項です。経験上、筆記体や手書き風フォントは特に注意しています。
最後に
スコッチウイスキーのラベル規定について、もしオリジナルラベルを作成するとしたら…と仮定して注意すべき点を挙げてみました。
細かい点にも配慮しなくてはいけないので、少々面倒に感じたり、これでは好きなようにラベルデザインができないのでは…と思われるかもしれません。
後半の記事では、何のための規定なのか、日本でも守らなければいけないのか、これまでのNG事例は何か、規定を遵守しながら新しい価値は創造できるか、といった内容について書いていきます。
****
ウイスキー片手に読んでいただければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?