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一人で初めて本州を訪れた話

私は生まれも育ちも九州で、本州に足を踏み入れた回数はそう多くない。初めては家族旅行のときだったらしい。関門海峡のトンネルを父の運転する車で移動する際、海中のトンネルを通っていることを知り、息を止めなくても大丈夫なのかを母に訊ねていたらしい。そんな幼い頃の出来事だ。
それからも何度か本州へは足を踏み入れている。中学や高校の修学旅行、大学の頃はセミナーで確か東北へ行ったこともあったと思う。しかし、どれも誰かと共に行動してのこと。一人で行ったことはなかったのだ。

そこで、ある日ふと思い立つ。一人で本州に行ってみたい、と。そして私はネットでアクセス方法を調べ、地図でも確認する。当時私は原付を使っており、関門海峡を原付で越えるには、ある方法を用いるしかなかった。
そして、通る道を何度も確認して、下関を目指す。北九州を一人で訪れたのも初めてで、門司駅近くで写真も撮った。門司港付近のレトロな雰囲気は私の好みだった。
それから下関への道を探す。なかなか見付からず、何度も通り過ぎた。だが、ネットでの地図の見方をその頃には何とか心得ており、やがて辿り着く。そう関門海峡の「人道トンネル」に。

「人道トンネル」、そうだ。関門海峡には、自転車や原付を押し歩き、または人が徒歩で移動するための海底トンネルがある。下関と門司の間にはフェリーも出ているが、原付は乗せられない。故に、これが唯一関門海峡を原付で渡る方法なのだ。800m弱の距離があるが、原付を押し歩く。帰りのことを思うと気が重くなるが、他に方法は無い。

かくして、私は初めて一人で本州の地を訪れた。本州に来ること自体が目的だったため、目的はもう達された。とはいえこのまま帰るのも味気ない。私は初めて自由に巡ることができる下関の街を、原付で気ままに彷徨った。初めての場所で道に迷ったのは言うまでもない。