初めての一人フェリー

遠方に行く際の公共交通機関にはいくつか種類がある。飛行機や新幹線、鉄道、バスを利用する人は多いだろうが、フェリーを利用する人は少ないかもしれない。記憶にある中では、修学旅行で一度乗った覚えがある。親の話では、幼い頃に四国に連れていってもらったことがあるらしいので、もしかするとその時が初めてフェリーに乗ったときかもしれないが、覚えてはいない。

成人前のフェリーに乗った記憶なんてそれぐらいしか無かったから、ある時ふと思い立った。フェリーに乗ってみたい、と。それは確か20代前半、お盆休みに差し掛かる頃だったと思う。当時私は原付に乗っていた。九州在住だからフェリーに乗れる場所は多くあるが、その中で私は島原・熊本間のフェリーに目を付けた。

20代前半で体力もある頃。今思い返せばかなり無理のある行程だった。バイトが終わった後に支度をし、夜に出発。そこから80km程運転した所で宿泊地を探すが見付からず、更に60km程強行する。それでも見付からず、周辺を探してようやくネットカフェに泊まった。時刻は朝4時頃になっていた。
昼前に起床して島原へ向かう。道中、開けたところにあるコンビニに立ち寄った。その時、不意に男性から声を掛けられる。私の乗っていた原付は私の父の名義で、ナンバープレートも私の地元の町の名前だったのだ。長崎でその地名のナンバープレートを見たのが珍しく、どこから来たのかと尋ねられたのだ。私は当時住んでいた都市の名前を伝える。そこもそれなりに遠く驚かれたが、道中気を付けてという言葉を掛けてもらえた。
その後、その言葉通りに安全な国道を通ればいいものを、交通量が多いし日差しが強く、それらを避けるために山道を進む。暑いので半袖になった。島原には無事着いたがフェリー乗り場が分からず、少しの間彷徨った。
目的のフェリーに乗り、原付でフェリーに乗るとこんな風になるのか、と初めてのことに内心ドキドキしていた。短距離フェリーで、人もまばら。フェリー内には座席も用意されているし、自販機も置いてあったし、デッキに出ることもできた。私は物珍しさに船内のあちこちを移動していた。そうしているうちにフェリーは目的地へ進む。熊本に着く頃には夕方になっていた。
流石に疲れもあり、元々の予定では阿蘇を経由したかったが、熊本で一泊してからは素直に北上して帰宅した。昼間に半袖で運転していた為、右手首にくっきりと腕時計の部分を残して日焼け跡ができたのは言うまでもない。