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方向音痴は治らない

私はバイクで出掛けるのが好きだ。休みの日に唐突に思い立ってバイクで遠出することもある。これは、そんな私が原付に乗っていた頃の話だ。

地元を離れて3年程経った頃だっただろうか、最初の1年は買い物程度しか出掛けていなかったが、3年もすると隣県まで出掛けることも増えていた。県を跨ぐような移動はまだ不慣れだった状態だ。
そんな頃、有明海沿いに出掛けたくなり、訪れたことがある。確か理由は、「藺草(いぐさ)の生産を福岡県の有明海近くの地域で行っているらしいから」、という何とも常人には理解し難いものだ。
藺草は、朝露に濡れない夜中に収穫されるので、タイミングが違えば既に刈り取られてしまった状態しか見ることができない。そして、藺草の畑の特徴すら知らずに出掛けた私は、どれが目的の畑か分からず帰ることになったのだった。
そして、その帰り道。辺りは茜色に染まりつつある。適当に原付を走らせ、細い道を通る。突き当たりに案内標識があった。そこには鳥栖(とす)と久留米の地名がある。
(確か、鳥栖は佐賀県、久留米は福岡県だったな……目指すは福岡だから、こっちか!!)
そうして、私は久留米へ向かう。
特に疑問を持たずに原付を走らせると、やがて太陽を後ろに背負うようになった。そこでふと気づく。
(あれ?今東に向かってね??なんで???)
そう、福岡市を目指しているはずで、現在地は久留米の辺り。となれば北を向いているはずだ。ここでガラケーを使い地図を見る。
「えっ!?鳥栖の方が久留米より北!?嘘だろ!??」
嘘な訳がない。高速バスで福岡へ向かう時も、熊本県から福岡県に一度入った後、一度佐賀県に入るのだ。そこが鳥栖だった。

それから、地図を頼りになんとか方向を修正し、何度か道に迷いつつ帰宅する。「鳥栖の方が久留米より北。」これはもう絶対忘れない。

夜の道や曇り空で、方角が分からずにまた道に迷うことをこの時の私は知る由は無かった。