詠んだものの補足(2023/4/4)

これは、とあるVtuberのラジオを模した定期配信『ラジオガミ』の1コーナーに送ったお便りの補足エピソード。そのコーナーでは視聴者が出した中からランダムにお題を決定し、視聴者はそのお題に沿った俳句や短歌、それに準ずるものをお便りで送る。

それは2023/4/4に配信された、テーマが『梅』だった回で、そのラジオの第82回に相当する。私はいくつかそのテーマにまつわるお便りを送ったが、その中で1つピックアップする。

十前時
一塊の
梅の花

縦横どちらでも読め、それぞれで意味の異なる俳句/川柳だ。
⚫横読み
ここのつどき ひとかたまりの うめのはな
※十前でここのつと読むのは苗字での用例で、本来は九つ時と表記することに注意。
⚫縦読み
ときのはな さき つちくれの といちうめ

意味としては、
⚫横読み
桜は全体を、梅は個々の花を楽しむと言うが、夜九つ時という真夜中では梅の花も全体でしか楽しめない。
⚫縦読み
花札で物凄く勝っていたのも少し前の話で、今の手札は梅の10点札が1つで残りはカスばかりという、泥沼のように酷いものだ。

句の内容はこじつけなので、この句を作った背景について少し語ってみる。
俳句や川柳、短歌などで、折句や沓冠といった技法がある。それならそこから更に踏み込んで、縦横どちらでも読める句を作れないか、と考えたのがきっかけだった。短歌で作ろうと思えば5‪✕‬5ということになるので非常に難しい。そこで、3✕‬3で済む俳句や川柳を作ろうと思い至った。
まずゴールから逆算すると、2行目・2列目はどちらも3文字で7音が必要となる。勿論、字足らずや字余りで6~8音の幅を持たせることも可能だ。そして、ひらがなは小書き文字でなければ1文字で1音であるので、ひらがなを多用すると5・7・5を達成することは難しい。また、漢字1文字で5音以上で読めるものは非常に少ない。常用の読みに限定すれば、政(まつりごと)、志(こころざし)、承る(うけたまわ-る)、詔(みことのり)ぐらいしか無かったはずだ。だから、私は漢字1文字で4音の読みが複数あるものを調べた。それで辿り着いたのが「塊」だ。「塊」には常用だと「かたまり」、常用外だと「つちくれ」という読みをする。そんな経緯で、3✕‬3の川柳の中央に「塊」の字を配置することが決まった。

中央が決まれば後は言葉のパズルだ。ただ、正解は存在するとも限らない。まずは「塊」と熟語になる漢字を調べていき、「一塊の」が決定する。テーマの「梅」も入れたいので、「梅」は角のどこかに配置する。「一」で終わる熟語はあるものの、なかなか綺麗に嵌るものが無く、試行錯誤の末に花札の用語の「十一(といち)」で梅と関連付けた。一番下の行は「梅の花」にすると決める。これなら右の列も「~の花」となり考えやすい。難航したのが十の右、塊の上の文字。十から始まる熟語も良いものが見付からず、結局、苗字での用例も調べてこじつけることになった。縦読みのときに「前」を「さき」と読ませて過去のことを意味させるのもちょっと無理やりなところもある。

新たな技法にチャレンジしようという試みで最初に作ったのがこの句であるが、興味を持った人は是非ともご自身でも作ってみて欲しい。正解が存在するかも分からない言語パズル。様々な辞書を読み、言葉の海に出る楽しさを味わって欲しい。