好きな人と嫌いなタバコ

これは私が大学2年生の頃の話。私は学科の後輩の一人をいたく気に入っていた。その男の後輩も私を慕っており、それでご飯をおごったり勉強の面倒をみたりと可愛がっていたのだ。
とある講義と講義の間の休み時間。私は彼を見掛ける。彼はタバコを吸っていた。

私は頭が真っ白になる。私はタバコが嫌いだった。家族では父だけがタバコを吸っており、父がタバコを吸うと、母はいつも怒っていた。臭いし、子どもにも悪影響だから、外や風下で吸ってくれ、と。その様子を見て、私や他の姉弟もタバコは嫌いだ。そんな嫌いなタバコを、私が気に入っている人が吸っている。好きと嫌い、相反する感情がせめぎあい、その後受けていた講義は全く身に入らなかった。先生が言っていたことなど何も頭に入ってこない。

しかし、講義を1時間半も受けると流石に頭も落ち着いてきた。講義を終え、彼に会いに行く。
彼は、私がタバコ嫌いだと知っていたので、彼なりには見られたことを気にしていたようだった。そして私は、半ば詰問するようにタバコを吸うようになった経緯を訊き出す。意外な答えが帰ってきた。
実は彼は中学生の頃からタバコを吸っていたらしい。だが、彼女から言われ高校の頃は禁煙していた。それが、大学に入り、サークルの先輩の影響でまた吸い出したのだという。私は絶句した。どう返していいのか分からないし、気持ちの整理もつかない。私の動揺が目に見えて分かったのだろう、その日はとりあえず彼と距離を置いて私の頭を冷やすことにした。

そして、私は当時住んでいた寮に帰り、考えを整理する。私が嫌いなのは「タバコ」そのものなのか?それとも「タバコ」にまつわる両親の諍いなのか?暫く考え、思い至る。私はきっと、「マナーの悪い喫煙者」が嫌いなのだと。

タバコの臭いは今でも好きではない。好んで吸おうとは到底思えないし、タバコの臭いが充満した場所は避ける。でも、飲み会などでタバコを吸っている人が居ても咎めるようなことは無くなった。なぜならそこは喫煙可の場所なのだから。
歩きタバコや、吸殻のポイ捨て、禁煙の場所で喫煙をするようなマナーの悪い人であれば関わりを断ちたいが、携帯灰皿を使ったり分煙に理解があったりといった良識のある喫煙者には目くじらを立てる必要など無いのだ。そして彼も、そんな良識のある喫煙者だった。

今となっては、昔の私が何故あんなにも喫煙者自体を忌み嫌っていたのか、理解できない。



(補足) 歩きタバコは何故ダメなの?→手に持ったタバコはちょうど子どもの目線の高さであり、歩きタバコが原因で、子どもが危うく失明しそうになった事例もある。
(補足2) 前を走る車の助手席側からタバコをポイ捨てされ、原付で走行中の私に当たりそうになったことがある。ゴミはちゃんと持ち帰ろう。