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窓から帰宅した話

これはもう3年以上前になるだろうか、今とは違う職場で働いていた頃の話だ。
その日、私はいつものように地下鉄を使って家の最寄り駅まで移動し、そこから自転車で家へ帰ろうとしていた。確か夏の終わりか秋に入った頃で、自転車置き場に着いた私は額の汗をハンカチで拭っていた。乗っていたのはロードバイク。籠は当然無いので、買い物には不向きだ。だから私は直接家へと向かった。

家へ着き、ポケットの中にあるはずの鍵を探す。が、見当たらない。時刻はもう19時前。街灯はあるが、落とし物を探すには向かない暗さだった。とりあえず、鍵は翌日に探すとして、どうやって家に入るか考える。そうだ、こんな時のための管理会社ではないか!

当時私の勤める会社のグループ会社に、小規模ながら管理会社をしているところがあった。そこは夜間は留守電にしていたが、社員へ直接連絡する緊急連絡先もあった。私の住むアパートの緊急連絡先はどこだったかと携帯の電話帳を確認する。しかし、私は管理会社を電話帳に登録していなかった。家に入ることができれば、玄関にその連絡先はいつも吊るしてある。家に入るためには、家に入る必要がある。これは困った。

もう少し考え、はたと気付く。私は、ドアやベランダの掃き出し窓の鍵は施錠しているが、浴室やキッチンの窓の鍵は開けていた。しかし、1階とはいえどちらも腰より高い位置にある窓であり、そこから入るところを誰かに見られたら通報されかねない。数分悩んだが、他に方法は無い。私はキッチンの窓から帰宅することにした。

そして、キッチンの窓から家に入る。家にはスペアキーがあったので、翌日はこれを持っていけばいいだろう。家に帰るのに少し手間取ったが、簡単に夕飯や翌日の弁当の支度、入浴などを普段通りに済ませた。

夜が明け、私はいつもより少し早めに支度を済ませ、家を出る。もちろん鍵を探すためだ。そしてそれはあっさりと見つかった。そう、自転車置き場の管理人さんに鍵の特徴を伝えると、昨日落ちていたとのことのだ。私は一安心し、通勤する。

そしてあれから、私は鍵屋でスペアキーの予備を作り、そのうち1本は、今回と同じことがあっても家に入れるような場所に置くことにした。その鍵は、その用途には役立っていないが、最低限の荷物でウォーキングをするときに役立っている。汗を拭くためにハンカチを取り出しても、鍵を落とす心配が無いのは安心だ。