2021年シーズン交流戦前までの中日ドラゴンズのバントについての考察 ~セイバーメトリクスの常識とあまりにも乖離した貧打~

1.はじめに

 バントという作戦がとても非効率的であり、大抵のシチュエーションでは打たせた方が得点が入りやすいということは少し野球に詳しい人にとってはもはや常識であります。
 私も当然そう思っており、応援する中日ドラゴンズが野手にバントを指示していると「百戦錬磨の伊東勤さんがヘッドコーチに居ながらなぜこのような非合理的な野球をするんだ」とプリプリと怒っていました。

 しかし、考えてみればバントの得点確率や得点期待値に関する計算はNPB全体の平均値で行われており、あくまで普通のプロ野球の場合での話です。
 異常パークファクターのバンテリンドームナゴヤを本拠地とし、まるで違反球時代のような異常な貧打(5/23時点で得点圏打率.204、HR数は巨人の1/3)を誇る我らが中日ドラゴンズであれば、もしかすると違う景色が見えるのではないでしょうか。
 45試合を消化しリーグ内での戦いが一段落し、明日から交流戦が始まるこのタイミングで2021年のドラゴンズの戦いを分析してみましょう。

2.野手にバントのサインが出たケース

犠打状況

 基本的には1点ビハインドまでの状況でノーアウトのランナーが出た時、打席に大島、福田、ビシエド、周平といった相対的に打力の高いメンバー以外が入っていると野手にバントのサインが出る可能性があるようです。
 
 先行研究によると走者2塁や1、2塁の状況での送りバントは期待得点を下げる一方で(バントが成功すれば)得点確率が上がるとされていますので、ひとまずここでは問題としません。

参考:実は手堅くない送りバント 「損益分岐点」は打率1割(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54338470T1C20A1000000/

 一方で、走者1塁を2塁にすすめる送りバントは無死1塁の状況と比較して得点確率を40.2%から39.4%に、期待得点を0.807点から0.639点へ下げてしまうため損をする作戦であるとされており、「バントは愚策」という考えはこの理屈に基づきます。
 実際に前述の2021年の中日ドラゴンズのデータでも、無死1塁を1死2塁にするバントを指示した場合は失敗含め21ケースありますが、うち得点8回(得点確率38.1%)、合計16得点(期待得点0.762点)と前述の無死1塁での40.2%、0.807点と比べて損をしています。

 しかしここで訓練された中日ファンの皆さんはこう思うはずです。「無死一塁での得点確率が4割、期待得点0.8点って高すぎないか?」と。
 調べました。

3.中日ドラゴンズの無死一塁での得点確率

 今シーズン、中日ドラゴンズの無死一塁はここまで99ケース発生しました。以下がその一覧です。

無死1塁ケース

 全99ケース中、得点回数は27回、得点は合計48点でした。得点確率 27.3%、期待得点 0.485点。これは前述の無死一塁時の得点確率 40.2%、期待得点 0.804点という2014~18年のNPB平均を大幅に下回っています。

無死一塁ケース一覧

 次に、バント失敗や追い込まれてヒッティングに切り替えた場面を含めてベンチが犠打を指示しと思しき打席は26ケースありましたが、うち得点回数は9回、得点が18点でした。得点確率 34.6%、期待得点 0.692点と、恐るべきことに、得点確率、得点期待値ともにヒッティング指示を上回っています
注)投手打席も含んでいるので2の数字と異なります。
 つまり、2021年の中日ドラゴンズはここまでの戦いでは無死一塁の場面ではバントをさせた方がなぜか得点が入っていたし、しかもより多くの得点がなぜか入っていたというのです。

4.おわりに

 私はバント多用の采配批判をしようと思いデータを集めたのですが、図らずも送りバントを正当化する数値が出てしまい困惑しています。ただし、このデータをもって安易に「バントは正しい作戦」と考えるのは危険だと考えます。「今のドラゴンズくらいあまりにも打てないとこういう数字も出ることがある」というくらいの数字あそびにとどめておくのが吉だと思います。
 一つ確実に言えるのは、従来の研究と比較して99ケースとサンプル数が明らかに少ないです。例えば「犠打失敗」の項目については4月21日DeNA戦でのバント失敗後の5得点という外れ値が異常な数字を出していることは容易に読み取れます。
 また、このような統計データはあくまで過去の可視化であり、未来予測ではないということは釘を刺しておく必要があるでしょう。

 最後に、明日からは2年ぶりの交流戦が始まりますが、中日打線には「バントなんかもったいない」と思えるような爆発と上昇を期待しております。

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