YOASOBI『THE BOOK』総評

こんにちは棒付きドラゴンです。ゴンゴン!

今回はYOASOBIの2021年のアルバム『てぇ ぼおk』…あ失礼、キーボードが日本語でした。『THE BOOK』を聴いて、思ったことを書こうという記事になっています。思いつきで初めて見た企画なのですが果たしてゴールできるのでしょうか!

YOASOBIについてどれくらい知っているかと考えると、夜に駆けるのMVをMaison Book Girlの闇色の朝も手掛けたアニメーション作家の藍にいなさんが制作したことをくらいには知っている。ボーカルの幾田りらさんが細田守監督の竜とそばかすの姫に出演したことも記憶に新しい。


今回なぜYOASOBIを選んだかというと、みんなが関心を持っているからが一番大きな理由で、ここで知らないバンド、知らないアイドルを選んでも誰もリンクを押してくれないと考えたからだ。本当はDMBQというバンドでやろうと最初は思っていたのですが、そんな感じでYOASOBIになりました。

本題に入る前に、読む前にお時間あれば是非アルバムを通して聞いてみてください。歌詞ももちろんですが、音楽の作りこみに言及したりもするので最初に聞いて気付いたこと、気づかなかったがこれを読んで気づいたことを楽しみながら読んでいただければ幸いです。


Epilogue

ピアノやスネアの音のほかに、レコードを聴いているかのような針の擦れる音、歯車が回転するような音、電気仕掛けの機械がショートを起こしそうなビーという音が聞こえる。聞いてまず思ったのは、タイトルに反して何かが始まりそうな予感。単調なメロディーの繰り返しだが、最後の小節だけメロディーが違う。この外し方が、これからの予感を表しているような気がした。タイトルがどんな意味でつけられたのか、何故アルバムの一曲目なのかを考えながら聞いてみたが、わからなかった。

アンコール  

夜のない世界というワードはYOASOBIというグループ名と掛かっていて、遊ぶこともできない憂鬱な世界を言っているとしたら、それはありふれたあの日々の幸せをより感じさせてくれるのだろう。
終わる世界は何にでも当てはめられることだと感じた(Epilogueとも関係がある?)。いままでを辞める、その日に思い出されるメロディー、そして『あなた』。それを明日終わるのを待つ今日、思い奏でるアンコール。それはもし明日が来るならなんて希望も、くれたりするのだろう。
サビの歌のメロディーを聞くと、三つ高音を繰り返した後に、さらに高い音で上書きしている。これはYOASOBIあるあるなので印象的だ。

ハルジオン 

朝を感じさせる軽快なギターが心地いい。サビでテロリテロリと弾むスチームパンのような音も気分を盛り上げてくれる。
 対称的に、歌詞は手に入らなかった二人の未来を語っている。理想を理想として、自分と線を引くことで見えなくなる鮮烈な花たち。
 しかしあの日の景色に戻って、自分のことを好きでいてくれたあなたがいれば私はもう一度描き出すことができる。こうして人は、思い出がくれる新しい一歩を踏み出す。
 ハルジオンというのは摘んだものを貧乏にさせるという逸話があるらしい。この曲と直接の関係があるかはわからないが、繋がることで思い描いた未来は、繋がらなければ失ったことにも気づかなかったのかもしれない。あの春の眩しさはそういうことなのかも。

あの夢をなぞって 

伴奏のない冒頭の歌を聴いて強烈に感じたことは、これまでの歌と違って、メロディラインが非常になだらかなこと。前述した高音の山が多いYOASOBIだが、この歌はスムーズに音が流れていく。とても歌いやすい曲だなということだった。
 好きだよといわれたその先の話をしていて、その思いが自分の思い描くもうすこし先の夢まで変わっていないことを願っているという歌詞には、今の好きが未来まで続けばいいのにという願望がストレートに書き出されている。また裏を返せば続いてほしい未来に今がつながったことも言えるので、二つの未来が重なる今の星空はそういうことを言っているのだろう。
 この曲でピアノがもらった役割は思い出(過去)、今、夢(未来)への行き来を手伝うことだ。初めて聴いたYOASOBIの曲がこれなら、正直無理にピアノを入れる必要はないのではないだろうかと思っていただろう。誰も知らない~のあたりはピアノが無くても聞けるとまで思った。YOASOBIは鍵盤を捨てるつもりが無いのは、そういう役割を必要だと感じているからなのだろう。

たぶん 

ベースが前に出てくるのんびりした曲で、たぶんというタイトルに見合ったぼんやりとした音の作りになっている。サビで多々登場するきっとというワードも、違うなという締めの言葉もその雰囲気にピッタリで、答えが出たような、それでもまだわからない、納得できない心情を想起させる。以上を踏まえてもう一度この曲を聴いてみると、最初にズウゥゥという音が入っていて、これが何かに近づいていることを表現している気がした。
 別れた原因、上手くいかなかった理由に決着をつけたような、つけられてないような、そんな『たぶん』の曲で、最後にくる少し冷えた朝という光景が、また良いんだ。良いのよ。たぶん。

群青 

コーラスが入る曲。手拍子も手法としてはこれまでにないものだ。コーラスの部分では重なる声とは対照的に伴奏の音の数が非常に少なく、人の歌が伝えられるものに対しての挑戦的な姿勢が汲み取られた。水のポチャンという音も散りばめられている。
 群青、青さ。歌で最初に登場する群青は、渋谷の街の朝だが、自分の心に真っすぐ生きる青臭さという意味が全体のテーマだ。この曲はずっと感情の話をしていて、登場する風景や人物が他の楽曲と比べて少ない。そういうのも青臭さだと思うが、感じたままに書いた結果なのだろう。コーラスはその青い自分をスクいだしてくれるようにやさしく語りかけてくる。優しい声。
 あー、とサビの前に入る高音はそんな真っすぐなこの曲にピッタリで、これもYOASOBIあるあるだが、意味のあるものとして捉えなおせた気がして嬉しかった。
 直線的な作品なので楽器の数も少ないが、シンプルだと感じないのはYOASOBIの作曲家Ayaseのセンスなのだろう。どうやら幼少の頃からピアノと縁があったそうで、作曲もかなり早い時期から始めている。音楽を軸にした生活を送り、貧乏ながらもバンドを続けた彼の来歴を思うと、楽器の音が少ないのに、退屈しない音楽は象徴といってもいいくらいだ。

ハルカ 

木琴鉄琴が使われている。鍵盤打楽器、そういうこと。
他の曲との違いとして、君を勇気づけるための曲であるということ。歌詞に登場する、落ち込んだり寂しそうな君に少しでも幸せになってほしい気持ちが歌われていて、与える側の立ち位置は今まで無かったので新鮮だった。
ピアノはベースの役割を担っていて、低い音で綺麗に和音を出すことで、力強さを感じさせてくれる。木琴とのバランスもよくできていて、楽曲としての完成度が毎回高いことに驚かされる。
この曲がアルバムの中で最もエンディングっぽい曲だと思ったことにも触れておきたい。メッセージがハッキリしていて、ピアノのベースでゆったりとした印象を受けるほかにも、サビや転調後のコードは映画のエンディングで流れているところを想像するに易い。ハルカというタイトルは春の音を含んでいるもやはり遥かということなのだろう。つまりこの曲を聴いた後もずっと響いていてほしいということで、それがエンディング感を生んでいるのではないか。

夜に駆ける 

様々なサイトでいろんな考察がされていそうなので少し緊張しますね。(不要な一文)
 ダムダム言い続けるベースと暴れまわるピアノが天才的に組み合わさっていて、そこにギターがこんなにオシャレに入ってきてるのはもう人の作ったものじゃないだろというツッコミをいれたくなる。歌のメロディも超絶技巧で、あの夢をなぞってでも登場したなだらかなところと高音の山を作るところの配置が素晴らしい。この曲が一番歌を楽器として使用しているような気がするのもそこに起因する。さよならだけ~やありきたりな~の部分では非常に綺麗なラインができていて、それがありながら信じていたい~の部分では覚えるのが大変なくらい複雑なラインが刻まれる。別の曲じゃないのコレ?
 別れをテーマにしていて、それが夜明けと重なった歌詞になっている。好きも嫌いもいろんな伝え方がされていて、その分歌詞が多い。曲を聴いていてそれに気づかないほどきれいに収まっているのが不思議だが。二人の関係を理想に近づけたかったり、どこかこの世とは一線を画している彼を嫌いであったりだとか、様々な感情に襲われている自分が駆ける夜にいったいどのくらいの人間が心を添わせているのだろう。不安、希望が入り混じった人の複雑な感情を丁寧に描写している。
 冒頭でMVの話をしたが、夕焼けをピンクで表現した藍にいなさんのセンスにも脱帽だ。また彼が笑うシーンや目元が見えない人物も重要な要素なので意識しながら見るといいと思います。

Prologue 

町の雑踏の音が僅かに聞こえた後ピアノが流れる。YOASOBIのテクニックが詰まっているような気がするピアノは一曲目のEpilogueと比べると激しい。ここに来てようやくあのEpilogueに合点がいった。アルバムを聴く中でアルバムの終わりには向かっているが、それはアルバムを聴いた未来の始まりへとも向かっている。これが僕が出したこのカラクリへの結論だ。



ながらくお付き合いいただきありがとうございました。意外と体力を使いましたが楽しかったです。YOASOBIの曲には原作の小説が存在するのですが、それらはまだ手にしたことが無いです。読めばより、歌の世界が広がるのかもしれませんね。


TwitterでYOASOBI 倉岡水巴で検索したら(なんで?)、アンコールで倉岡さんに想いを馳せている人がいました。

終わり

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