★極道学園(460)

結局ね、あなたの小説稼業は組のシノギそのものだったんだよ。この度、組を引退して、

小説を書けば→組に貢献できる、

という単純明快な等式が崩壊しちゃったの。だからやる気が出ないのよ。

あなたは自分のためにはがんばれない人なの。ゆえに今後は、龍神組に代わる、新たな大切な存在を見つけないといけない。

と慶子はセブンスターを吸いながら大学教授みたいに論理的な話を淡々と述べた。

まあ、確かに。全くその通りだ。

創作活動が停滞した原因は龍神組と無関係ではない。今まで俺の多額の印税はほとんど組の金庫に入れていたが、引退を機に印税は全額を俺の口座に入れている。太田が「親分に対する甘えの徹底的排除」を宣言し、今後、印税の入金はご遠慮願いますと。そしたらとたんにやる気が停滞した。

俺は海上病院の精神科に行き、マンチョリゴ・カルマン医師の診断を受けた。カルマン先生は微笑みながら「オヤブン、何も心配は必要ありません。ほんの軽い鬱病ですね。この薬を飲んでください。数ヶ月で必ず治ります。ホントだよ」と言った。鬱病か、でも軽く済んで良かった。

俺は素直に毎日その薬を飲み続けた。そうしたら少しずつ、以前のように小説を書けるようになった。自分の作品に対する嫌悪感も嘘のように消えた。薬の効果というのはすごいものだな、と感じた。

しかし慶子が示した命題「龍神組に代わる、何か大切なものを見つけなさい」というテーマについては何も浮かばない。実は俺は龍神組に強く依存した、一種の薬物中毒患者みたいなものだったのだ。

そしてこれだけは確実に言える。龍神組の組員たちは我が子同然で、これに代わる大切な存在などこの世にない。

俺は太田に内緒でダミーの銀行口座を作り、そこに印税を貯めることに決めた。ポン社長が「どらごん共同組合」という会社を作ってくれたので口座名義はその社名にした。この口座に十億、百億の金を貯めて俺が死んだときは龍神組がその資金を自由に活用できるよう、銀行印を慶子に手渡した。

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