★極道学園(501)

今朝はトリトンに乗り、一人海にぷかぷかと浮かぶ。朝日が昇ってきて海を照らし出す。海の色は黒が青に、そして赤へと変わる。波は穏やかで釣りには好都合だ。いわし、鯖、アジが何匹か釣れた。それを塩焼きにして食べる。頭や尻尾を煮て味噌味にし、汁をご飯にかけて食べる。

遠くには龍神組の漁船が見える。port99内でゴミを不当廃棄して逮捕された者たちを30人乗せてマグロを釣りにいくのだ。このシノギは囚人を使って行うため人件費がタダなのでたいへん儲かる。態度が悪い乗組員はさっさと海に落とし警察には「作業中に誤って海中落下。行方不明」という届けを出せば一切お咎めなしだ。

それにしても外で食べるとなぜこんなに美味しいのだろう。開放感が心地好い。壁も天井もない広大な、貸し切りの部屋みたいなものだ。

結局のところ食事というのはたいへんデリケートなもので雰囲気が一種の調味料になるのだ。いろんな要因がせっかくの食事を台無しにすることがある。

最も厄介なのは食事する相手との相性が悪い時である。若い頃、債権回収の仕事で依頼先の社長さんに接待を受け一緒に食事したことがあるのだが、店員に対して文句が多く、たいへん威張る社長で俺はとても腹が立った。先代から予めそのような人物であることを聞いていたからなんとか我慢できたがなかなか辛い食事であった。

俺は店で威張る奴が大嫌いなのである。こちらは客、向こうは店員。弱い立場にある人間に対して威張るというのは非常に卑怯なことである。絶対に殴られない立ち位置にいる人間が弱者を殴ってはいけない。

実るほど、頭(こうべ)を垂れる、稲穂かな。

俺はこの言葉を肝に銘じ、謙虚に、謙虚にと常に自分に言い聞かせる。引退してもなお組員や仕事の関係者に親分、親分と持ち上げられるのだ。それでいい気になるのは良くない。大宇宙から見れば自分は塵みたいな存在であることを忘れてはいけない。

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大学が開発したRZ500のパワーは素晴らしくレースでは連戦連勝である。しかしこのバイクは乗る人を選ぶ。うちの組でこのバイクをちゃんと乗りこなせるのは太田だけである。

そこで太田が講師になり組員たちにバイクの講習を行った。まずは一時間、レース場内の研修室でRZ500に乗っている太田の映像を見せる。コーナリングの時の場面で映像を止めて体重移動のポイント、視線などを解説する。次に実習で、各自がRZに乗りコースを走る。その様子を一人一人撮影し、また研修室に戻る。組員たちが走っている映像を見せて太田が改善ポイントを指摘する。そしてまたレース場に行き実習する。この繰り返しである。

なぜ太田が熱心にこのような教育をやっているかというと次回のレースで一位から三位まで龍神組が独占したいからである。優勝一億、二位が五千万、三位が二千万、合計一億七千万の賞金を狙っているのだ。世界中から一流レーサーが集まるためこれはかなり困難な挑戦なのである。もし我々が三位までを独占したら太田は表彰台で号泣するであろう。

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