★国語教師(4)

昨晩は深夜までバーで働いていたので睡眠不足で辛い思いをしましたが、がんばりました。

さて、語彙というのはいろんな言葉の意味、ということだと思います。そして語彙力というのはたくさんの言葉を知っている、そしてそれを効果的に、適切に使えるということなのかな、と。

人間、語彙力がなくても何ら支障なく生きていけます。ヤベェ、超ヤベェ、マジヤベェしか言えなくてもちゃんと生きていけます。(笑)

だから僕の授業は、生徒の語彙力を高める目的は一切ありません。生徒のほとんどは知名度の低い大学に行く、あるいは大学に行かない。詩人になるわけでも作家を目指しているわけでもない。そのような生徒たちに100、1000、一万の言葉の意味を教えて、いったいどんな意味があるのだろう。

僕の授業では唯一、褒め言葉のバリエーションだけを教えます。

一緒にいる誰かを褒める言葉をたくさん覚える。

・君、素敵だね!

・いまの発言、素晴らしい。

・すごく良いポイントです。

・なかなか鋭いご発言ですね、

・今日の服、いいね。とても似合ってるよ。

・あなたの笑顔を見るとホッとします。

・あなたの意見で議論が深まりましたね。

・大変興味深いご意見です。

クラスで一番成績が悪い太郎と学年一成績が良いゆかりを立たせ、向かい合わせにして、さあ太郎、今からゆかりちゃんを五分間、褒め続けろ、と。

太郎は

「やべー、ゆかりちゃん、やべー、」

「ゆかりちゃん、すげー可愛い」

「まじ可愛い」

「やべー、可愛い」

「超可愛い」

クラスは爆笑です。ゆかりちゃんは恥ずかしそうに太郎と向き合っています。

やがてゆかりちゃんの番になります。

「太郎くんってさ、みんな気付いてないけどすごく優しいんだよね」

「縁の下の力持ちっていうけどさ、そんな感じだよね」

「太郎くんのファンだっていう女子、けっこういるんだよ」

太郎は顔を真っ赤にして俯きます。

みなさん、僕の授業、どう思われますか?

僕の授業を受けた生徒は世界一他者を褒める言葉を知っている。

難解な文章を読む力はない。難しい漢字は書けない。でも僕の生徒は世界一、他者を褒める言葉を知っている。

このような授業をひたすらやっていたらある日、阿部校長に呼ばれました。校長は僕の顔を見るなり言いました、君の授業はすばらしい。阿部先生は僕に握手を求めてきました。そして「激励賞」と印字された封筒を渡しました。職員室に戻り封筒を開けたら三万円入っていました。

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