★国語教師(11)

「銀の匙」ただ一つを教材に使った灘の橋本先生のことは常に意識してますね。先生の本も読みました。

僕と先生の違いはいろいろあります。一つは教える生徒の知能の差ですかね。灘はみなさんご存知のとおり卒業生の大半が医者、官僚、政治家、弁護士、大企業勤務です。一方、僕の学校ですけど一番多いのはなんだと思います?

「本人の連絡先が不明」、なんですよ。

うちの卒業生はどこで何をやっているのか分からない。大企業勤務という生徒はすごく少ないだろう。芸能やスポーツで有名になった子は何人かいますけどね。

学園は最近特進Classを作り受験指導体制を強め、有名大学に進学する生徒を増やそうとしてますが日本全国、同じ戦略を採択している私学がたくさんありますからね、なかなか厳しい戦いだと思うんですよ。受験指導に長けた先生の奪い合いなんです。東京は子供を有名大学に入れたいと強く思う親が日本一多い都市だ、と林マスターが言ってましたね。

スポーツにすごく力を入れている学校もありますしね。学園経営は少ない子供、これからもっと少なくなる子供を奪い合うという、なかなか悲惨な斜陽産業だと思います。

我が校はちょっと前に中学校を閉鎖しましたがこれは正しい戦略だと思います。子供が少なくて先生がたくさんいるというたいへん厳しい状況でしたからね。

いずれ高校も閉鎖、というのは十分有り得ることです。失業した国語教師に新しい仕事はあるのでしょうか。

まあしかし、まだ起こっていないとを心配しても仕方ないですよね。

今週は金子みすゞの詩を使って授業をやりました。短いから50分授業で完結させるのにちょうどいいんですよ。

~・~・~・

『私と小鳥と鈴と』

私が両手をひろげても、

お空はちっとも飛べないが、

飛べる小鳥は私のように、

地面(じべた)を速くは走れない。

私がからだをゆすっても、

きれいな音は出ないけど、

あの鳴る鈴は私のように、

たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、

みんなちがって、みんないい。

~・~・~・

a.b.cを比較してそれぞれの特技を並べる、そして「みんなちがって、みんないい」と結論を出す。実に単純な論法です。そして金子自身は夫の浮気に悩み、最後は自死する。なんとも悲惨な人生なんですよね。それも含めて僕は全部話します。

しかし、みんなちがって、みんないい、という金子の意見については何も言いません。それは生徒自身が考えることですからね。

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