★極道学園(503)

土日、ワンフォイの店は戦場だった。次々来客がありワンフォイは大きな鉄鍋を振り続け、奥さんは料理の提供と会計、俺は皿洗いだ。食洗機の故障が心配でメーカーには電話したらすぐに来るよう予め伝えておいた。

先日、ドラゴンファイトの二戦目が開催された。太田の相手はアメリカから来たマイク・タイソンJr.である。彼は往年のボクサー、タイソンとは全く無関係の選手だが容貌がそっくりで破壊的な戦法も似ているためタイソンJr.を名乗っている。身長180cm、牛のように大きな男だ。前歯は一本もない。筋肉の塊みたいだ。

第一Round早々、タイソンの右パンチが太田の顔を捉え、太田は意外にもあっさりとダウンした。どうした!太田!会場はどよめいた。太田はかなりダメージを受けたようだ。

さらにタイソンが攻め太田はロープを背にして防戦一方だった。右に左にタイソンのパンチが炸裂する。

第二Roundもタイソンが優勢、第三、第四、太田は攻め込まれてかなり苦しい。タイソンに腹を叩かれ吐きそうな顔をしていた。ついに太田は負けるのか。  

第五Round、またもタイソンが太田を攻め込み乱打の連続、太田はいよいよ危ない。ダウン寸前だ。

そのとき太田の、起死回生の右Upperがタイソンの顎を正確に捉えた。すぐさま太田は左右のパンチを繰り出しタイソンを攻めた。10発ぐらい顔に当たりタイソンはマウスピースを吐き出した。

タイソンはついにダウンし、立ち上がれなかった。太田は奇跡的に勝った。
   
タイソンはすぐさまヘリコプターで海上病院に運ばれたが医師たちの必死の治療虚しく、死んでしまった。

まぶたが腫れ上がり顔中血だらけの太田は賞金一億円を手にして会場を去った。そしてすぐに海上病院に入院した。命には別状がないようだが当分格闘技は無理だと主任の医師が言っていた。

それにしても冷静に考えると組長自ら格闘技だのレースだの、命を賭けて戦い、骨折したり入院したり。太田はやりすぎではないか。

でも、これでいいのだ。先代も俺も、切り込み隊長だった。それを見て組員たちが燃えた。それが分かっているから太田はあえてドラゴンファイトだ、レースだ、とやっているのだ。

一般会社の管理職は一日中会社の中にいて、けっこう暇そうにしている人もいると聞いた。しかし我々は極道なのである。知恵もない、学もないから肉体で語るしかないのだ。格闘が俺たちの言語だ。

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