★極道学園(499)

建設部門で働くシゲは38歳、中学中退の元暴走族だがうちに入門してからは真面目に働いており太田、赤坂たちからも信頼されている。そのシゲがチバギンで居酒屋をやりたいという。太田は少し迷ったようだ。建設部門でちゃんと現場を管理できる人間は少ない。その中の一人であるシゲが抜けるとこなせる工事の量が少なくなってしまう。つまり建設部門の売上が減る。五個あるエンジンの一つが壊れた、という話に等しい。シゲは建設部門の手足ではなく、頭脳なのである。

太田は言った、「チバギンで三年やって結果が出なかったら建設に戻れよ」と。シゲはチバギンで店をやることになった。

もともと板前の経験もあり料理は問題なくできるだろう。しかしチバギン一万軒の居酒屋の中でどうやって目立つのか。けっこう厳しい戦いになるのではないだろうか。最初は俺たちが応援するから問題ない。しかしいつまでも身内に助けて貰っていてはダメだ。利害関係の全くない一般利用客を惹きつけ、リピーターにしないといけない。

シゲはサンチョウさんから物件を借り、自分で図面を描いて店舗を設計し、居酒屋商売をやることになった。家賃は通常15万円のところサンチョウさんの計らいで98000円になった。

「居酒屋シゲ」の開店日にはご祝儀100万を持って店に行った。料理は刺身、鶏の塩焼き、揚げだし豆腐、ホタルイカの沖漬けなどである。

店に入ると右側がカウンター五席。左側が四人掛けのテーブル三つ。20人くらいで満席かな。客はすべて龍神組だった。(笑)

その日のルールは絶対シゲを褒めないということで各席から「ビール、遅いぞ」「焼き鳥、焦げが目立つ」「もっとニコニコして接客しろ」などと怒号が飛び交う。まあ、一種の愛の鞭だ。

でもはっきり言って銀座の和食屋で三年、毎日親方に殴られて仕事を覚えただけあって料理はまともである。銀座では調理を任された経験がないだろうから独学で覚えたのだろう。モツの煮込みなどは微かにカレー粉の味がして、それが良いアクセントとなり美味かった。慶子はルールに反して「シゲさん、美味しいよ」と声をかけていた。先輩たちに攻め込まれ汗だくで調理をしていたシゲは救われたようにニッコリと笑った。

翌日から一週間連続で九十九里新聞にシゲの店の話が掲載された。紅林編集長自らがシゲにインタビューするという内容で前職については「某有名企業」と紹介されていた。(笑)

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