★国語教師(71)
阿部校長、湯川先生に呼ばれたので校長室に行きました。話題は新しい教科のことで科目名は「知能開発」です。これを全学年を対象に実施したいと。そしてこの科目の主任教員になってもらいたいと阿部先生は言いました。僕が担当する国語の授業は大幅に減らし、新規に教員を採用する、だから極端な話、リュウ君は100%知能開発の授業をやっても良いと。
なんでまた急に?と聞いたら阿部校長は厳かな顔を作り「神のお告げだ」と述べました。その瞬間、湯川先生がお茶を吹き出しました。僕たち三人はしばらくの間、笑い続けました。
「まあこれは一種の実験だ。失敗覚悟で自由にやってみてよ」
阿部校長は微笑みながらそのように言いました。
一学年二百名。三学年で六百名。クラスは十五。体育館に全校生徒を集めて一気にやっちゃうか。いずれにしても大変なことになった。僕は過労で病気になるのではないだろうか。
知能開発って、一体何をやればいいんですかね。Logicalシンキングの授業だけにする方法もあるだろう。読書も知能開発に役立つ。そもそも、なぜ知能開発は善なのか。
いつか太陽系は消滅し、星は小粒になり宇宙に溶け、新しい星の材料になる。そのとき人類は火星に移住しているかもしれないが太陽系が消滅すれば火星もアウトである。もし、あらゆる知恵を用いて人類が現在の太陽系以外に属する新しい星に移住することができれば人類は存続する。そのためにはかなり高度な知能、テクノロジーが必要だ。そうだ、知能開発は人類存続に役立つんだ!
僕は急にやる気が湧いてきて、Excelを使って指導計画を作りはじめました。
さて、祖父母の家に下宿している中学一年の長太郎は望遠鏡に夢中でしょっちゅう二階建ての家の屋根に登り、天体を観察するようになりました。それを見たおじいちゃんが転落を心配し、屋根を改造して小さな天文台を作ってくれました。夜中でも寒くないよう、ちゃんと防寒仕様になっています。
長太郎は様々な天体を観察し、家族だけが閲覧可能なグループウェア「睦美ネット(略称、M-book)」に観察結果を投稿します。弟たちはたいへん喜び、新しい天体を発見すると言い出して頻繁に長太郎の天文台に行くようになりました。
じゃあ、みんな、一緒に住もうよと祖母が言い出して、家が三階建てになり、息子全員が祖父母の家に引っ越ししました。(笑)
睦美と僕はずいぶん久しぶりに二人きりの生活をするようになりました。睦美は週三回実家に行き祖母の家事を手伝います。人口密度が大幅に緩和された我が家は喪失感がハンパないですよ。
長太郎は数学の知識を駆使して星と星の距離を計算したりしています。そしてその数式を弟たちに解説します。弟四人はグングン算数の成績が上がり学校の先生たちが驚いていました。長次郎は算数を教える先生に「その説明、イマイチですよ」と指摘したため、その先生にたいへん嫌われました。(笑)