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82DAY ‐奥多摩日記2021フィナーレ編2‐

 朝四時起床、朝飯食べて勉強準備だ。早すぎるかと感じるかもしれないが、小鳥のさえずりが聞こえ、夜の涼しさがいい感じに余韻として残っている早朝の間に数時間机に向かうのがこれまた格別なのである。早起きで寝不足なのではとも思うかもしれないが、昨日の午後8時半には完全消灯なので全然大丈夫である。しばらく机で作業をしていると、先生が驚いたような急いでいるような冷静なような表情で、「すぐそこのワナにシカがかかってる。」と言った。自分はいろいろ混乱していた。そもそも古民家から出て30秒くらいの裏庭にワナがあるのも知らなかったし、なにより野生のシカなどこんな家の近くに出るのは初めてだからである。すぐに付近の猟友会の方々と思われる人がシカの近くに恐る恐る近づき、息の根を止めにかかる。いかにシカに悪気が無くても、付近の畑を荒らす害獣であることに変わりはない。数名の人間がシカを処理すること十数分。なんとも文字では形容しがたいシカの最後の断末魔の叫びが山にこだました。直感で、「今死んだな。」と分かった。

 猟友会の方々がシカの死骸をトラックに載せると、彼らはずっと傍らで一連の出来事を見ていた自分たちになんのためらいもなくクーラーボックスからジュースを取り出し、それをくれた。明らかに自分たちが飲むために用意してあったものではなく、あらかじめ付近の住民に「迷惑を掛けました」「これはそのお詫びです」みたいな感じだったのであろう。だが自分にはこのジュースは、お詫びの意味と他にシカの最後を自分たちと見届けてくれてありがとうという意味も込められていた気がするのだ。

 まだ朝の7時なのに、この日最大かつ、合宿最大のイベントであった。

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