主人公

 子どもの頃、映画や漫画を見て、まるで登場人物の一人になったように恍惚とその世界に浸ることが多々あった。次に活躍するのは自分のような気がした。
 でも、知識や経験が蓄積されていくとこれは現実じゃないということをわかった上で、あえてそのことを忘れて作品を観賞するようになる。現実とフィクションの区別のない子ども時代に素晴らしい作品に出会えることはなんて素敵なことだろうと思う。まあ、大人になったらなったで大人なりの楽しみ方はできるけど作品に対する純粋な接し方じゃない。
 大概の大人は、ひょっとしたら全ての大人は子どものころ夢見た世界には生きていない。
 現在の僕は子どもの頃に夢見たように、ロボットを操縦したり、魔法を使ったり、悪の組織と戦ってはいない。子どもの時の僕が現在の僕を見たら失望が9割くらいじゃなかろうか。僕が何をしているかろくに理解できないと思う。
 僕がよく通る道に「人は誰でも一冊の本になれる」というポスターがある。多分、文章の書き方口座とかそういうポスターだと思う。このキャッチコピーは嘘ではないと思う。でも僕はこのあとについ付け足してしまう。「ただし、面白くなるとは限りません」。
 客観的に自分の人生はつまらないもののように見える。でも主観的には僕の人生はなかなか幸せだなと思っていたりする。
 物語の主人公は時に苦難の連続だったりする。主人公の気持ちになったら、全然幸せじゃないかも知れない。
 大人になって僕は世界の主人公でないことには気づいた。でも、自分の人生の主人公であることからは逃れられない。絵になる容貌でもなく、特別な力もなく、目立った活躍もない物語でも。(小川)

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