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危険に向かってハンドルを切る人たち

テニスの大坂なおみ選手が、数年来の「うつ状態」であることが発表された。

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ここのところ、トップアスリートや順風満帆に各界をリードしているように見えるアーティストなどが、心の病気をわずらっていることが増えた気がする。
今までもいたけど、心の症状に名前がつくようになってきたことや、言える社会的状況になってきたので、顕現化するようになっただけで、今までもいたであろうことは想像に難くない。

「スポーツって、ある一定のレベルを超えると、体が危険信号を出している方向へ体を動かさないと、勝ちも記録も得られなくなる」と、ある人が言っていた。

フィギュアスケートや体操など、「演技」に属する競技をイメージするとわかりやすいかもしれないけど、あと1回転回れば勝ちや記録は手に入るが、その1回転のせいで転倒し、怪我や下手すれば死の危険さえあるという状況に身体を晒すことになる。

また、相撲はご存知の通り「土俵の外に身体の一部がついたら負け」「足の裏以外の体の部分が地面についたら負け」とい、極めて単純明快な勝敗の決め方をする。
この場合も、投げの打ち合いになった時、多くの一流力士は、危険を感じても手を先についたりせず顔面から落ちていく。自分の体重と相手の体重(あわせると300kg以上)が顔面にかかるというのに。

もっと単純なことを言えば、ほとんどの一流選手は、辛くて止めたい思った練習も、歯を食いしばってその先まで成し遂げていく。

こうして、身体が本能的に発する「危険」の方向に身体を動かし続ければ、心にも影響が及んで当然だと思う。

これって、身体が心に影響を及ぼすだけでなく、なんなら「心自体」も、危険な方向へあえて差し向けているのが、一流のスポーツ選手でありアーティストなのかもしれない。


「心自体」を危険な方向に差し向けるというのは、ここ数年、第一線で活躍する俳優さんの自殺の報に触れた時も感じたが、役に入り込んだり役を自分に憑依させたり、さらに台本にはない役の背景にまで想像を及ぼして、ひとつしかない自分の体に、複数の人生を背負う行為でもあると思う。
それを、時と場合に応じて出したり引っ込めたりするのだから、俳優という仕事は尋常でない心のすり減りがあるのだろうと思う。

僕の関わっている音楽や文章の世界でも、数学的な「正解」のない深海のような中を、正解めいたものを探しながら、ずっとずっと泳ぎ続けないといけない。
しかも、なんとかして見つけた正解めいたものが、世間に合わなかったりすることも少なくはないだろう。おい笑いで言えばスベる状態であり、音楽で言えば思ったより盛り上がらない状態、文章で言えば誤解されたりスルーされたりする状態。

これは、自分の中に見つけた正解を否定されながら人目に晒されている状態で、どうやったって心がすり減っていく。

僕は、第一線のずっとずっと後方にいるけど、そういう心の危険がやってくる足音みたいなものを遠くに感じたことがある。
と言っても僕自身は、とても小賢しくて小器用で一流の方に比べれば気合も少なく狡猾なので、危険になるずいぶん手前で安全な方にハンドルを切ってしまっている。

しかし、その危険を辞さずというか、あえてそちらの方向へ進んでいく人たちは、当然、心が危険にさらされる。
そうなると鬱やその他の精神疾患にもなるだろうし、隙があれば薬物へ手を出してしまったり、奇行に走ってしまうかもしれない。

(「だからと言って、何かしらの罪が軽減されたりするわけではない」ということは、面倒臭い人が絡んでこないように書いておく)

ちなみに、「スポーツって、ある一定のレベルを超えると、体が危険信号を出している方向へ体を動かさないと、勝ちも記録も得られなくなる」という、めちゃくちゃ腑に落ちる言葉、どこの一流アスリートが言ってたのかと思われるかもしれない。

しかし、これを言っていたのは、トム・ブラウンのみちおさんであることを最後にお伝えしておく。

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あの人なんなん!
狂ったネタばっかりやってると思ったら、唐突にマトモすぎること言ったりして!

おわり。

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