見出し画像

117回医師国家試験をメック講師目線から見た感想

はじめに

2023年2月5~6日に117回医師国家試験が行われ、はや2週間が経過しようとしてます。受験された方々、本当にお疲れ様です。各々いろいろと思うこともあるかと思います。が、結果発表までの間はじたばたしてもしょうがないので、一年間の自分の努力を褒め、そしてゆっくりと休んでください。

今回の記事は117回医師国家試験に対する個人的な感想を書いていきます。対象は医師~医学生まで。あくまで医学教育を受け、情報の批判的吟味ができる人が対象です。

全体の印象

国試は難化したのか否か

今後医師国家試験受験を控える学生の方々が気になる部分はこれではないかと。この点に関しては各予備校・先生方も見解をいろいろと述べていますが、どれが絶対的な正解ということはない。ひとつの参考意見としていろんな意見を照らし合わせて、各々が自分なりに解釈してもらえればと思います。

結論:問題は易化傾向、合格に関しては『大変』化傾向

が、個人的な見解です。
国試の問題に関しては「易化」と表現せざるを得ないかと考えます。なぜかというと単純な話、合格点が108~111回の約65%から112~116回では約70%へと上昇しているから(下図参照)。ひとつひとつの問題としても、深い思考を必要としない問題が増えている印象です。

107~116回医師国家試験の合格最低点の推移
引用:医師国家試験予備校メック( https://www.gomec.co.jp/mec/kokushi/back_data/

「じゃあ国試合格は楽勝なんですね!」というと、それについては同意できない。問題は簡単だが、合格は『大変』になったと捉えている。
「問題が簡単なのに、合格するのは大変というのは矛盾しないか?」と思うかもしれませんが、しません。国試は過去の傾向から言えば約90%が受かる試験であり、逆に言えば約10%(少なくとも約8%)は残念ながら不合格になる試験です(下図参照)。

107~116回医師国家試験の合格者数・率の推移
引用:医師国家試験予備校メック( https://www.gomec.co.jp/mec/kokushi/back_data/ )

ここ最近の傾向でいえば「点数が良ければ全員合格!」となることはない。つまり問題が簡単になればなるほど『たまたま1問ど忘れ』というミスの重みが強くなり、1問に対して感じるプレッシャーが増えていきます。
医学はいうまでもなく範囲が非常に広い。ひとつひとつは簡単な知識であったとしても、膨大な知識を試験までに保持し、強いプレッシャーの中で高い精度で正しくアウトプットしなければならない。これを大変と呼ばない道理はないでしょう。

個々の問題でいえば平易と難解が両極端

問題個別で言えば、上記にもあるように簡単な問題は非常に簡単。臨床問題でも10秒あれば答えが出るみたいな問題も少なくない。

117回医師国家試験A-5
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117a-5/
117回医師国家試験A-18
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117a-18/ )

一方で難解な問題は正直受験生レベルであれば手も足も出ないだろうというものも少なくない。特に産婦人科・公衆衛生は難問揃いであったという印象を持った。(講師として解く分にはこのぐらいの難易度の問題の方が面白いのだが、受験生としてはお目にかかりたくない)

117回医師国家試験C-33
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117c-33/
117回医師国家試験E-30
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117e-30/ )

しかし平易な問題であっても「即答レベル」は減少

上には「10秒で解ける」という問題を例に挙げているが、そのような問題がほとんどというわけではない。講師レベルの目線で言えば即答できる問題は多いが、受験生レベルでは一瞬答えに詰まる問題が作られていた。
これまでの国試ではキーワードが固定されていて、要点さえ抑えていれば悩みようがないという問題が多かった。しかし今年はこれらの「即答できるキーワード」をうまく外しながら、きちんと学生が解ける形にまとめている。なので幅広い(※深いとは言っていない)知識がある講師としては解けるが、受験生としては「なんとなくわかる気がするが、自信を持ち切れなかった」という問題は増えたのではないだろうか?

極端に難しい問題は増えたが、全体で言えば得点は稼げる

難しい問題が出題される数が増えると「難化した!」と言われることが多い気がする。しかし増えたといってもせいぜい数問であり、各論総論300問+必修100問という全体数から言えば微々たるもの。
正答率が高い問題の割合は増加している(と思う)。難しい問題に気を取られず、簡単な問題を取りこぼさないという強いメンタルで試験に臨めたかがカギなのではないかなと思います。
(本当は正答率ごとの問題数をグラフにしたかったんだけど、民法上の不法行為に該当しそうな気がするため割愛)

各科目別の印象

メジャー内科系

メジャー内科の10科目は出題が実に工夫されていた。受験生が飛びついてきそうなキーワードはうまく隠しつつ、しかし全体的な病態・検査所見・治療がわかっていれば解ける形に直している。内科に関しては単なる過去問演習だけでは対応がきつくなってきた印象
個人的には高齢者の潰瘍性大腸炎が印象に残っている。潰瘍性大腸炎は主としては若年者の疾患であるため、年齢を見た瞬間に答えの候補から外してしまった。実は最近、高齢患者も増えているみたいである種のトピックだったのかもですね。
ただ単に重箱の隅をついた役に立たないような細かい知識でごまかすのではなく、トピックを踏まえつつ問題に落とし込む出題者のセンスに感動!

117回医師国家試験A-42
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117a-42/

小児科

比較的平易だった印象。泣いてる赤ちゃんが多めだった。診察中に泣いている赤ちゃんには優しくしてあげましょう。

産婦人科

毎年産婦人科は問題の難易度が非常に高い。病歴・検査所見から状況を適切に判断し、治療適応順序と根拠を問う、実に論理性に満ちた問題を量産してくれる。
そして今年も例に漏れず非常に難解な問題が多く出題された。分娩対応は得意とする講義内容の一つなのだが、それでも悩んだ。受験生として出会いたくない問題セットだったと思う。
記憶に残るのは「人工授精後に確認できる所見」を挙げたい。妊娠週数と受精週数の違い、そして人工授精という手技が何をしているのか?という、ひとつひとつの内容は決して難しくないが、組み合わせることによって学生の本質的な理解を問う問題となっている。

117回医師国家試験C-48
引用:医師国家試験予備校メック( https://bbs.icrip.jp/forums/topic/117c-48/ )

マイナー

比較的平易だった印象。とは言いつつも過去問ではない部分が多かった気がする。

公衆衛生

116回の問題を解いたときは「かなりぶっこんできたな」という難易度に感じた。と思ったら今年も高難易度は継続でした。はっきりと言えば、並みの受験生では解けないレベルの問題が多く、むしろ難易度としては卒業試験に近い。(僕は公衆衛生大好きおじさんなので、これぐらいの方が好きだが)
このレベルの問題を出されると、正直どのような対策を進めていけばよいのか指導に迷う…。

結び:来年以降に向けた対策で重要なこと

何より大切なのは卒業試験・国家試験対策を舐めないこと。卒業試験・国家試験で合格点を取るために必要な勉強時間は膨大です。ひとつひとつの考え方が難しいことばっかりというわけではないけど、膨大過ぎる知識量を定着させるためには大量の時間が必要です。「ゆうてなんやかんやいけるやろ」の精神で勉強開始するタイミングが遅れると泣きをみることに…(´;ω;`)

「まだ全然勉強してないよ~」という人の発言は信じないようにしましょう。みなさん、医学生は「コソ勉集団」であることを忘れずに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?