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小林製薬事件のプベルル酸、現時点で

こんにちは。

いつものみんなへ、日本腎臓学会の中間アンケートの記事をわかりやすく翻訳した記事を週末までにupできると思います (4月3日2024年)

現在の流れは、問題となった紅麹コレステヘルプにプベルル酸の混入を確認した。このプベルル酸は紅麹の製造工程で入り込んだ青カビ (X) が産生したのではないか

福島先生が大切なことを言われていました。ある薬を服用や接種して異常が出たらとにかく中断するのが先で、原因の解明や機序の証明はその後で行う

原則

小林製薬事件 Q & A

心配で病院に行ってみたいのですけど保険診療対応しますか? 厚生労働省からコレステヘルプの喫食後、無症状でも検査を含む保険診療を認めるという事務連絡が出ました。 事 務 連 絡  令和6年3月 29 日 疑義解釈資料の送付について(その 65) >無症状の患者に対する診療であっても、喫食歴等から医師が必要と判 断し、実施した場合は算定できる。保険診療可です。小林製薬の対応はわからないのでご確認ください。ソース (医療事務)

青カビ混入なのか?
もし青カビが混入したなら、青カビが産生するプベルル酸以外の物質も混入しているでしょう。同社は他にも2、3種の物質を特定しているようなので続報を待ちます

混入した青カビが腎毒性の原因であるなら?体質に関係しない用量依存性の毒性である可能性があります。服用された方は体調に気をつけて。腎臓は尿検査と血液検査でわかることが多いので信頼のおける医療機関にご相談ください。
体質に関係しないと言っても、腎機能は腎臓に存在する全糸球体および尿細管などの総合力になります。既往の腎疾患や、高血圧・糖尿病などあるいはmRNAワクチンの作用による潜在的な腎機能低下状態によって問題のサプリによる影響を強く受けている場合も想定されます

シトリニンは関係しますか?  関係しません。小林製薬は明確に製品にシトリニンが含まれていなかったとしています。また、食品添加物公定書 2024 にシトリニンは食品の紅麹色素でも混入量の基準 (0.2μg/g以下) があります。公開されている測定方法です↓ 

プベルル酸が今回の腎障害の原因ですか? プベルル酸が原因の可能性もありますが、事実は、プベルル酸は問題の紅麹コレステヘルプに混入していることが判明した最初の物質である、それ以上ではありません。北里大学で20年以上にわたり抗マラリア薬としてプベルル酸を研究しているので、標準物質として同定しやすかったのかもしれません

プベルル酸は何に入っていますか? 2023年製造の紅麹原料のおよそ3割のロットから青カビが作る「プベルル酸」とみられる物質が検出された。小林製薬が含まれる物質の量を専用の装置で解析したところ、製品や原料が製造された時期によって「プベルル酸」とみられる物質が検出される量が異なった。2023年9月に製造された製品に使用されていた紅麹原料のロットで物質が最も多く、この前後の時期の製品の原料のロットからも物質は検出されたが、一部、検出されていない時期もあった。
製造工程は、主に「培養」と「調合」の2つに分かれている。大阪工場で製造した「紅麹原料」について、「培養」の工程でも一定量のロットごとに製造途中のサンプルを保管している2023年1年間に製造した88ロットのうち10ロットのサンプルからプベルル酸とみられる想定しない成分が見つかった。どの工程で成分が混じったのかは分かっていない (4月8日)。

プベルル酸 puberulic acid 概要 3月30日2024年ver


トロポイド (七員環有機化合物) です
Penicillium puberulum Bainier, P. aurantio-virens Biourge, P. johannioli Zaleski, P. cyclopium-viridicatum を人工培地で培養した際その培地中に存在する
古典的分離精製法: ツァペック-ドックス培地で24°、12〜42日間培養後、菌体をロ別しその培養母液を2N水酸化ナトリウムで中和、硫酸ニッケルの水溶液を加えると赤色の沈澱を生ずる。この沈澱をとり2N塩酸で分解してエーテルで抽出すればプベルリン酸とプベルロン酸の混合物が得られるので、無水酢酸と酢酸ナトリウムでアセチル化してから、水で処理して水に不溶のプベルロン酸ナトリウムを除いた液を硫酸酸性としてプベルリン酸アセタートを得る。これを再結晶で精製後加水分解し、昇華再結晶によって精製する
HPLCによる分離精製法 (2010, Iwatsuki M, 大村智):下記資料3. の説明を見てください
性質: 微黄色微細結晶 (メタノールから再結晶)。融点 316° (分解)、高度減圧下 220°で昇華する。水に難溶、エタノール溶液は塩化鉄(III)で赤褐色を呈する (出典:化学大辞典 太田明広著)
生理活性:(1) 抗生物質 グラム陽性菌、(グラム陰性菌へは弱い) (資料2)、(2) 抗マラリア活性 IC50 = 0.050 μM (クロロキン抵抗性マラリア原虫に有効) (資料2)、(3) マウスに毒性 

プベルル酸 PubChem
プベルル酸 ChemSpider
プベルル酸 J-GLOBAL

資料1. 有機化学合成の論文:A concise total synthesis of puberulic acid, a potent antimalarial agent


著者:Goh Sennari 他。北里大学
Chemical Communications (Cambridge, England), 25 Jun 2014, 50(63):8715-8718. https://doi.org/10.1039/c4cc03134b
要旨:抗マラリア薬候補としてのプベルル酸の簡潔な全合成方法の開発。D-(+)-ガラクトースを出発物質とし、標的化合物のC-CおよびC-O骨格をバルビエ型付加反応およびRCMに供し、脂肪族トリオールを得た。このトリオールは、Parikh-Doering酸化による互変異性化を通じてマルチタンデム酸化を受け、目的の官能基化トロポロン骨格を得た。この方法による収量は54%です
*プベベル酸は毒物ということなので、全訳ありますが開示を控えます。必要な方はコメントください

資料2. 抗マラリア活性、抗マウス毒性:Antimalarial troponoids, puberulic acid and viticolins; divergent synthesis and structure-activity relationship studies


著者:Goh Sennari 他。北里大学
Sci Rep. 2017 Aug 3;7(1):7259. doi: 10.1038/s41598-017-07718-3.
DOI: 10.1038/s41598-017-07718-3
要旨:新規天然物としてプベルル酸、スチピタチン酸、ビチコリン A および B、および化合物のトロポン 2種類、ヒノキチオール 、7-ヒドロキシトロポロン等 (初合成を含む) の熱帯熱マラリア原虫 K1 (クロロキン耐性) 寄生虫株に対する in vitro 抗マラリア活性と、ヒト肺線維芽細胞株 MRC-5 に対する細胞毒性の評価

1 がプベルル酸。1、2、3、4は天然物

結果:7 員環上の遊離ヒドロキシル基が効力を与えているようであった
C-4 位の置換基が細胞毒性に重大な影響を与える可能性がありそう
カルボキシル基は活性に必須ではない
置換されていない 3 つの連続した酸素原子が抗寄生虫活性を高める
トロポロン環上の連続した 4 つの酸素原子が抗寄生虫特性に重要である
結論:プベルル酸から抗マラリア活性の高い同時にマウス成体およびヒト細胞毒性も高い化合物の合成に成功した
プベルル酸に関係する記載の抜粋
プベルル酸は、熱帯熱マラリア原虫K1(クロロキン耐性)寄生虫株に対してin vitroで最も強力な抗マラリア活性(IC50 = 0.050 μM)を示したが、マウス生体内 ( 用量は5 mg/kg × 2(0日目と1日目))で毒性を示し、皮下注射後 3 日目までに 5 匹中 4 匹が死亡した

表1. 熱帯熱マラリア原虫 K1 株に対する in vitro 抗マラリア活性、および全合成中間体、7-ヒドロキシトロポロンおよびメチル化誘導体の MRC-5 細胞に対する細胞毒性

資料3. 抗マラリア活性:In vitro and in vivo antimalarial activity of puberulic acid and its new analogs, viticolins A–C, produced by Penicillium sp. FKI-4410

著者:Masato Iwatsuki 他。北里大学、大村智先生の研究チーム
J Antibiot (Tikyo). 2011 Feb;64(2):183-8. DOI: 10.1038/ja.2010.124
要旨:Penicillium sp. FKI-4410の培養ブロスから既知のプベルリン酸とスティピタット酸、および新規にビチコリンA〜Cの合計5つの化合物を単離した。これらのうち、プベルル酸はin vitroでクロロキン感受性および耐性マラリア原虫株に対して0.01μg ml(-1)のIC(50)値を示し、強力な抗マラリア阻害作用を示した。さらに、プベルル酸はヒトMRC-5細胞に対して弱い細胞毒性を示し、IC(50)値は57.2μg ml(-1)であった。また、この化合物はクロロキン感受性および耐性マラリア原虫株を感染させたマウスに治療効果を示し、現在使用されている抗マラリア薬と比較して良好であった
単離法:


プベルル酸についての記事

【プベルル酸】専門家の見解「毒性が強いと言い切るのは難しい」4月1日2024MBSニュース
プベルル酸、「紅麹サプリ」から検出 抗菌作用も毒性強く 3月29日日本経済新聞
紅麹問題に進展。混入物質を「プベルル酸」と特定か!? 3月29日
「プベルル酸」とは……珍しい化学構造・危険な毒性のある物質





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