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人工石油「ドリーム燃料」ってどうなの?

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
少し前からSNSやYouTube動画で賛否両論の情報が多々ある「ドリーム燃料」。

自分は生化学や石油産業の専門家ではありませんが、最近ご質問を頂きましたので、専門外ではありますが、科学者の端くれとしてコメントしてみたいと思います。

超純水にCO2とO2を少量添加し、特殊な光触媒を使いながら、種油として軽油や灯油を入れて紫外線照射することで、軽油や灯油が高効率で増殖していくので、低コストで人工石油が出来る「ドリーム燃料」だと言うわけです。

二酸化炭素と水から炭水化物を作り出すと言う反応自体は、植物が光合成という反応系で行っていますし、工業的に作り出すことも可能であることは確認されていますし、理論的には燃焼させても水しか出ない水素燃料を天然ガスなどから作り出す技術も既にあります。

自然界に存在する炭水化物は、植物により炭素が固定されたという言い方をし、植物が成長する過程で根や茎、幹や葉を増やすのに必要なので行っている訳ですが、人工的に炭水化物や水素を作ろうとすると、そこに投入するエネルギー量が産生する炭水化物や水素よりも大きくなるので、収支としてはマイナスになってしまうのが普通です。

京都大学の今中名誉教授が開発した機械は、投入エネルギー量よりも産生する軽油や灯油のエネルギー量が多い様に見え、実際に生産コストも10-14円/L程度で済むと言うことから注目されている物になります。

特許取得をした上で生産機器販売を主体に事業展開をしており、若い投資家やスピリチュアル系の方々が支援を表明されている様ですね。

もしコレが事実であれば、とても素晴らしいことだと思いますし、主張されるている通りの物だとすれば、日本や世界を根本から変える可能性があるとも言えます。

まずは生産用機器を2億ほどで購入して利用する人を日本国内で増やし、国内で確立させた上で世界に広げるのが夢だと今中名誉教授は語られています。素晴らしい志ですよね。

まずこの事業に支援を表明した大阪市が場所を提供し、2023年1月に実証実験が行われ、1週間で合成された人工石油で発電機を稼働させ、電気自動車へ充電可能なことを確認出来た、と言う結果が大阪市公式サイトに掲載されています。

実際に装置が稼働して軽油や灯油の様な物が出来ている、と言うのは動画や実物を見学することで確認出来ますが、個人的にはそう言うことでは無く、確認すべきことはいくつかあるのではと思っています。

・種油と生産人工燃料の比率
当初の発表では、種油の1.1倍程度の生産率という事で、水を混ぜ乳化させたエマルジョン燃料なのでは?と言う疑念の声がありました。
果たして事業や家庭用として十分なほどの高比率で生産できるのか。
種油に大量に再投入しないといけないのであれば、実際に使える人工燃料は多くはないのではないか、と言うところが気になりますね。

・生産人工燃料の質と内燃機関への負担
いわゆるエマルジョン燃料とは違い、乳化剤は一切使っていないと言うのが今中名誉教授の説明です。エマルジョン燃料は燃焼効率は高まりますが、内燃機関の損耗が激しいので広く普及していないと言う現状があります。
ですから実際に内燃機関で長期利用した場合に、加水エマルジョン化していない化石燃料と同等の内燃機関負担であることを中長期的に確認する必要があると思います。

・主張通りの反応が起きているとして、コレまでの常識より遥かに少ないエネルギーで出来る理由を科学的に解明する
多くの科学者の常識は、投入エネルギー量より生産エネルギー量が多い化学反応系はあり得ないです。
コレに相反するフリーエネルギー情報や永久機関情報はコレまでも多々ありましたが、結局のところインチキや詐欺であり、実用化された物は存在しません。
現象として再現性のある事実であれば素晴らしいことですが、科学としてはその反応系がなぜ常識はずれの低エネルギーで成り立つのか、と言う仮説が必要になります。
コレが特殊な光触媒で成り立つのであれば、その触媒には単純な触媒作用以外の未知の作用が秘められている可能性があるので、解明されれば凄いことです。

そう言う意味では大阪市の支援のもとで行われた実証実験は、報告書を読む限りでは期間も短いですし、出てきた生産物が発電機を稼働出来たと言うだけなので、科学的な意義はあまり無いですね。

まずはこの機械を安定的に稼働させ産生したドリーム燃料がエマルジョン燃料とは違い既存の内燃機関を傷めずに連続利用出来、軽油や灯油の代替燃料として問題なく使えることを証明するのが大切です。
そう言う意味ではドリーム燃料自体の燃料としての利用実績を積み重ねながら、燃料の販売益を元に生産機器を改良し、起きている化学反応系で投入エネルギー量が少なくて済む理由の科学的解明をしていくと言うのが、科学者や石油関連の専門家を含む多くの人を納得させながら広められる方法なのでは、と思います。

自分としては「本当であれば素晴らしいですね」とは思いますし、全否定する気もありませんが、何故「生産した安価な人工燃料」を商材にしないで「機器の販売やリース」と言うビジネスにしているのか、と言うところが引っ掛かります。コレに先行投資すべきかと言うと、上記の様な確認がされてからでも遅くはないと思います。

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