飲水と腸内環境
こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
水は人の体重の約65%を占め、消化吸収や栄養素・老廃物の運搬、体温調節、化学反応の媒体などの役割を担っていますが、水を十分に飲まないとどうなるか、と言う疑問への回答が新たに報告されました。しかも血液検査上は脱水所見の無い程度の水分制限の影響です。
【水は生きる為に必要なのは古くから知られている】
昔から水分は生きることに欠かせないという事が経験的に知られていますし、脱水症状が進むと身体機能がうまく働かなくなり、熱中症や心筋梗塞などのリスクも増え、10-12%水分を喪失すると、筋ケイレンや失神を来たし、20%喪失すると死に至るリスクが高くなると言われ、全く水を飲まない場合、わずかな朝露や結露水などで多少延命出来た事例も報告されてはいますが、健康な人でも4-5日で亡くなるとされています。
【飲水を積極的にしないとどうなるのか?】
健康や美容の為に、水を意識的に飲むことが推奨されることも多いですが、脱水症になるほどでなくても、飲水量が不足すると、腸の蠕動運動や腸内環境に問題が起きることが、北里大学の研究者が行ったマウスの実験で報告されました。
体に含まれる水は、体内の代謝(化学反応)で生成される代謝水も少しありますが、主に飲水と食事により摂取され吸収された物です。
健康な成人1人が1日に必要な水は、約2.5リットル、経口で水として飲むべき量としてはその8割程度の約2.0L程度と推定されています。
水分摂取量の慢性的な不足は、便秘症など腸の機能低下を引き起こすほか、肥満や糖尿病等の代謝性疾患などとの関連も指摘されていますが、米国では成人の半数以上が水分摂取基準を満たしていないと報告されており、日本人でも似た様な状況だと考えられています。
マウスを3つのグループに分け、
1つ目のグループには通常必要量の水を飲ませ、
2つ目のグループでは25%少ない水、
3つ目のグループでは50%少ない水
を飲ませるという実験を2週間実施すると、
飲水制限群は体重が低下し、さらに50%飲水制限群では、食物が腸内を通過する時間が2倍近くに長くなり、便量が低下し便秘症になりましたが、血液検査上は脱水症状を示す変化は見られませんでした。
飲水制限群で便中の総菌数が増加し、50%制限群では2-3倍に増え、細菌叢の構成も変化していました。飲水制限群では大腸粘膜層の一部が途切れ、50%飲水制限群では細菌が大腸組織内に侵入する、いわゆるリーキーガット(腸管浸漏)症候群の様な所見が見られ、免疫細胞も半分以下になり、免疫機能も落ちていたと言うのです。
体重が減少した理由は未解明ですが、腸内細菌叢の構成が変わり栄養吸収に影響した可能性が指摘されています。免疫細胞の減少については、腸内細菌叢の変化とは関係無さそうなことは分かっていますが、原因や機序は不明です。
【腸内細菌叢も単純ではない】
ヒトの腸内細菌は約1000種類あり、総数も40-300兆個と推測されており、体細胞と同じかそれを上回る数だとも表現されます。
ヒト自身が作り出せない物質を腸内細菌が作り出し、全身に循環し様々な生理機能に影響していることも、近年明らかになりつつあります。
健康な人の便中の腸内細菌叢を、難治性肥満症患者や難治性腸炎患者に移植する治療法が世界的に研究されており、アルツハイマー病やパーキンソン病のような神経変性疾患、アトピー性皮膚炎の様な自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応の抑制、などへの臨床応用が試みられています。
腸内細菌叢の構成についても、約1000種類の腸内細菌の中で、特定の菌が特定の機能を持つということが判明していますが、環境や体質、健康状態などによって、良い腸内細菌の構成は変化することも明らかになってきているので、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」と言う従来の考え方はされなくなってきています。
例えば、栄養吸収を促進させる菌は、肥満の人にとって「悪玉」ですが、低栄養の人にとって「善玉」であると言う様に、それぞれの菌の性質は、環境や体質、健康状態などにより捉え方が変わる、と言うことです。
【腸管の免疫細胞の重要性】
腸内は食べ物や細菌など様々な異物が常に入ってくるので、悪いものは異物として認識し攻撃し排出したり、体に必要な食べ物は適切に消化吸収する必要がある為、腸管の免疫機能は発達していて、体全体の免疫細胞の7割が腸管に存在すると言われます。
また腸管で教育された免疫細胞が全身に移動することで、腸管以外の免疫機能の活性化や抑制に関わっていることも分かって来ています。
飲水量が脱水にならない程度少ないと言うだけで、この様に大切な腸管免疫に異常が起こる可能性がある、と言うのは、かなりの衝撃ですよね。
【まだ「マウス実験」での知見だけ】
今回ご紹介した研究はマウスを対象にしており、ヒトでも同様のことが起こるのかは確認されていませんので、参考程度にとどめてください。
そして、水を十分量飲めば全てうまく行く、という訳でも無いので、その他の生活習慣の見直しも合わせて必要なことは意識しておきましょう。
逆に色々試しても体調が良くならない、と言う場合、水を意識して飲んでない様な場合には、飲水量を意識して2L(運動量や発汗に応じて調節は必要ですが)程度飲む様にすると、変化が出てくる可能性があります。
小麦、エタノール、キトサン、唐辛子成分などの食品、繊維質の少ない食事、火傷のようなストレスにより起こる腸内細菌叢の変化によっても、リーキーガットが起こるとも言われていますが、飲水制限だけでもリーキーガットが起きる可能性が示唆されたと言うのは、興味深いですね。
今回ご紹介した様に、水分摂取が不足すると免疫細胞が減り免疫機能が低下する、と言うことがヒトでも起こるのであれば、血液検査に現れない程度の飲水不足が、易感染性に影響する可能性もある訳です。
点滴による静脈内輸液でこれらの症状が防げるのか?もし経口補水じゃ無ければ防げないとすれば、腸内細菌叢の変化やリーキーガットへの対策として点滴だけでなく経鼻胃管などから水を投与することで対策出来るのか、と言うところも気になりますね。
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