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3rd Bass – The Cactus Cee/D (The Cactus Album) (1989)

 ヒップホップのアルバムは、それが良質であるほど称賛と同時に激烈ないざこざをもたらすものだ。印象的な配色のジャケット写真と同じくらいきらびやかなサンプリング素材に彩られた『The Cactus Album』は、来たるべきニュースクールの青写真を提示し、それまで無名だった3rd Bassの名声を確固たるものにした。実際「Steppin' To The A.M.」が発表された時、多くの人々は彼らが白人ラッパーを擁したグループだったことすら知りえなかったという。
 MC SerchとPete Niceは、ストリートたたき上げのマイク・パフォーマンスで強固なビートの上を縦横無尽に駆け回る。特に「Sons Of 3rd Bass」のリリックで彼らは、自分たちは中流階級生まれのBeastie Boysよりずっとハングリーな存在なのだと訴えかけている。トラックには遊び心があふれ、「Sons Of 3rd Bass」ではロック・クラシックの「Spinning Wheel」を贅沢に使ったのに対し、「Steppin' To The A.M.」ではPink Floydによる「Time」のSEをしれっと据えてみせた。とはいえ、Serchによればこうしたサンプリングの使用が、後に大きな著作権訴訟に繋がってしまったわけだが。
 「The Gas Face」はもともとMC Hammerをからかったディス・ソングだったのだが、そのMVは思わぬ波紋を呼んだ。彼らはビデオの中でPublic EnemyのProfessor GriffことRichard Griffin、さらにGriffinが深く関わっていたS1Wの軍隊パフォーマンスをも揶揄していた。そして、それが引き金となり、ある日デフ・ジャムのオフィス内にて出会った両グループはたちまち乱闘騒ぎを起こしてしまう。溝が決定的になったPublic Enemyと3rd Bassのジョイント・ツアーはその開催が危ぶまれたものの、結果的にGriffinがグループを脱退する形で問題は落ち着いた。