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Buju Banton – 'Til Shiloh (1995)

 歯に衣を着せないスタイルゆえにたびたび物議を醸してきたBuju Bantonだが、1992年に同性愛者を侮辱する「Boom Bye Bye」を歌って以降、彼のキャリアは明らかに行き詰っていった。その後、友人であるPan Headが銃撃により命を落とした事件をきっかけに、生まれ変わったBantonは神への信仰に真正面から対峙するようになる。
 ラスタファリアンとしての宣言となった「'Til I'm Laid To Rest」の神々しい歌声からスタートする『'Til Shiloh』は、Bantonの最初の転機を示すアルバムだ。サウンド全体を見渡すとダンスホールを基調としつつルーツを視野に入れていることが分かるのだが、「Untold Stories」に見られる素朴な音作りにも同様の新たな魅力がある。Wayne Wonderをフィーチャーした「What Ya Gonna Do?」では堅実なソング・ライティングを見せ、「Rampage」ではハイパワーでまくしたてるボーカルを駆使して、レゲエDJとしての実力を叩きつけている。「Murderer」はPan Headの鎮魂と同時に殺人者への糾弾を歌う、本作で最も感動的なハイライトだ。深い悲しみが流れている中で、Bantonの歌は毅然とした態度を崩すことなく、暴力に立ち向かう意志と篤い信仰心を表明している。
 ひとつの作風やスタイルに固執しないBantonにとって、『'Til Shiloh』はまさに起死回生の一枚だった。とはいえ、この後もキャリアの中でさらなる浮き沈みを経験することにはなるのだが……。とにかく確かなのは、Bantonはチャンスをモノにし、何度でも立ち上がってみせる男だということだ。