見出し画像

アラバマ物語 / To Kill A Mockingbird (1962)

 1930年代のアメリカ南部の人間模様を描くHarper Leeの小説を映画化した『アラバマ物語』は、監督Robert MulliganとプロデューサーAlan J. Pakulaの黄金タッグによる初めての作品となった。Elmer Bernsteinの美しいスコアがたまらない郷愁をかきたてながらも、南部の風土に染みつく忌まわしい人種差別の姿も描かれている本作は、公民権運動に沸く時代へ大きな問題提起を投げかけた。
 白人女性への暴行容疑をかけられた黒人青年を弁護するアティカス(Gregory Peck)の社会的闘争を中心に物語は動くが、本作は純粋な法廷劇ではなく、作中のさまざまな出来事は常にアティカスの子供の視点によって見つめられている。子供たちは無垢であるがゆえに変わり者の隣人に残酷な好奇心を向け、また暴徒化しかけるレイシストの醜さをその無邪気さによって暴いたりもする。
 人種や年齢を問わない徹底した平等主義者のアティカス(子供にも自身を名前で呼ばせるほど)は、気骨溢れる新しい形のヒーローだ。両人種の板挟みや子育てに奮闘するこのキャラクターは、それまでオスカーに無縁の役者だったPeckに念願の主演男優賞をもたらした。また、本作は心優しい隣人ブーを怪演したRobert Duvallのデビュー作でもある。