産後骨盤矯正の話(以前の骨盤矯正の話の再編集)

 整体、整骨院などの施術院の多くで「産後骨盤矯正」という言葉をよく目にします。「産後の開いた骨盤を元に戻す」「産後に歪んだ骨を矯正する」などと宣伝しています。さらには骨盤矯正のダイエット効果を宣伝しているお店もあります。 ところで「骨盤矯正」って何でしょう?「骨盤矯正」は医学用語でも医学処置でもありません。というか、某施術院が商標登録している登録商標(商売の言葉)なのです。「骨盤矯正」という医学用語っぽい言葉をお店の宣伝に利用しているわけです。
 
さて、出産すると骨盤は「開く」んでしょうか?「骨盤が開く」って何でしょうか?出産の時、骨盤が本を開くように大きく開いて広がって子供が生まれる、という意味でしたら、全ての出産で「骨盤が開く」わけではありません。詳しく解説すると、妊娠中はホルモンの影響で骨盤の靭帯や筋肉が「ゆるく」なります。出産時、多少骨盤の靭帯結合は動きますが、開いているわけではありません。この骨盤の「ゆるみ」は何もしなくても数か月で戻ります(結合が固くなります)。一方、数百例に1例くらいの頻度でごく稀に「恥骨結合離開」といって、出産時に骨盤の前面の恥骨結合が広がってしまうことがあります。靭帯結合が切れてしまいます。これは出産後にかなりの痛みを伴い、うちのクリニックでも数年に1例くらいの頻度で産婦人科から紹介されて診ていますが、特に処置をしなくても数か月で離開は元に戻ります。「恥骨結合離開」は形状的に「骨盤が開いている」と言えるかもしれませんが、出産全例ではなくごく稀であり、また、前述の「ゆるみ」と同様、何もしなくても数か月で元に戻ります。 「産後骨盤矯正」をすすめる施術院は「産後すぐに処置しないと痛みが残る」「骨盤が開いたまま戻らなくなる」と脅し文句のように宣伝するところもあるようですが、出産時全例で恥骨結合離開がおこるわけではなく、この骨盤のゆるみも恥骨結合離開も、特に処置をしなくても数か月で自然に戻ります。もし「産後骨盤が戻らなくなる」のなら、「産後骨盤矯正」をしている女性ばかりではないので、世の中に「骨盤が開いた」女性ばかりになってしまいます。そんな事実はありません。
 
では、「産後骨盤矯正」はいったいどんな施術をしているのでしょうか?インターネットなどで調べてみると、(お店にもより異なりますが)、基本的に腰椎や股関節周囲のマッサージ、ストレッチのようです。単に、女性に気持ちのいい施術をしているわけです。骨盤を押さえるような施術をするところもあるようですが、手で骨盤の形を変えているわけではありません(変わりません)。 「産後の体型保持」についても骨盤形態とは全く関係ありません。「産後骨盤矯正で体型を元に戻す」と宣伝しているお店は、前述の「骨盤形態とは関係ない、腰椎あるいは股関節周囲のストレッチ行為によるダイエット」をしているだけだと思います。骨盤の形が変わらないので、骨格的に痩せることはありません。「広がった大転子(大腿骨の一部分)を閉じる」ということもおこりません。
 
 妊娠、出産、育児、と女性が心身共につらい時期に、本来必須ではない「産後骨盤矯正」について「産後骨盤矯正をしないと開いた骨盤が戻りません、体型が戻りません」などと切迫感を与えて宣伝しているお店は注意したほうがよいです。もちろん、前述のことを全て分かったうえで、「自分が気持ち良くなるために」そういうお店に行くことは否定しません。
 
僕は、施術院の資格や施術を否定しているわけではなく、宣伝や勧誘形態を批判しているのです。