「骨盤矯正」について

 「骨盤矯正」という言葉をよく目にします。「腰痛を軽減させる」、「産後の骨盤を元に戻す」、さらには「骨盤矯正ダイエット」まで・・・ ところで「骨盤矯正」って何?そんな医学用語、医学処置はありません。そもそも「骨盤」は「矯正」できるんでしょうか?
 
検索して調べてみると、いわゆる「骨盤矯正」とは、「骨盤周囲、特に腰椎や股関節周囲のマッサージ、ストレッチ」のことのようです。
 
 「骨盤矯正」と称して実際は腰や股関節のマッサージをしたりストレッチを指導したりする、「骨盤矯正ダイエット」と称して腰椎あるいは股関節周囲のストレッチや体操によりカロリー消費を促してダイエット効果を狙う、というもののようです。 「骨盤矯正」という医学用語っぽい言葉を、各種施術院のセールストークとして利用されているわけです。
 
 骨盤は2つの寛骨(腸骨+恥骨+坐骨)と仙骨の3つの骨が環状に線維結合している骨です。それぞれの結合は強固でほとんど動きません。その強固な環状の骨の形を手で変えることはできません。
 
 もし骨盤の形態が変わることがあるとしたら、交通事故のような大きな外力が働いて骨折したときか、あるいは日常におこる可能性としては、出産時の恥骨結合離開です。交通事故などで骨盤骨折をおこしたら、手で戻すなんて悠長なことは言ってられません。入院、場合により手術です。
 
 女性は妊娠中にリラキシンというホルモンが分泌されて体の靭帯結合や関節がゆるくなります。そのため出産のときに骨盤が少し動くことがあります。また、胎児が産道を通る際骨盤前方の恥骨結合が離開してしまうことがごく稀に(数百例に1例程度)おこります。「産後の骨盤矯正」を宣伝しているところは、この骨盤のゆるみや恥骨結合離開を戻す処置を宣伝しているのかもしれませんが、出産時全例で恥骨結合離開がおこるわけではなく、この骨盤のゆるみも恥骨結合離開も、特に処置をしなくても1-2か月で自然に戻ります。
 
 恥骨結合離開に対して産婦人科で骨盤を締めるようなベルトをすすめられることもあるようですが、そういうベルトをしてもしなくても、数か月で離開は閉じます。腰痛に対しては骨盤ベルトもある程度効果はあるようです。
 
「産後骨盤矯正」をすすめる施術院は「産後すぐに処置しないと痛みが残る」「骨盤が開いたまま戻らなくなる」と脅し文句のように宣伝するところもあるようですが、もし「産後骨盤が戻らなくなる」のなら、「産後骨盤矯正」をしている女性ばかりではないので、世の中に「骨盤が開いた」女性ばかりになってしまいます。そんな事実はありません。
 
 「産後の体型保持」についても骨盤形態とは全く関係ありません。「産後骨盤矯正で体型を元に戻す」と宣伝しているお店は、前述の「骨盤形態とは関係ない、腰椎あるいは股関節周囲のストレッチ行為によるダイエット」をしているだけだと思います。
 
 妊娠、出産、育児、と女性が心身共につらい時期につけこんだように宣伝しているお店は注意したほうがよいです。もちろん、前述のことを分かったうえで、「自分が気持ち良くなるために」そういうお店に行くことは否定しません。