見出し画像

余白

風呂上り。
拭いたはずの体が、また汗で濡れてくる。

裸のまま冷蔵庫の前に行き、
手に持ったタオルを肩にかける。

冷蔵庫のドアを開けて、
キンキンに冷えたペットボトルに入った炭酸水を手に取る。
冷蔵庫から漏れた冷気を足に感じる。

ペットボトルの上には、少し空気が入っている。
空気ではなくて二酸化炭素なのかもしれない。
水面が揺れて、内面についた水滴を洗い落とす。

キャップを開けると、「ポンッ」っという音が部屋に響く。
破裂したような、小気味の良い音だ。

底のほうから、待ってましたと言わんばかりに、小さな泡が上がってくる。
ペットボトルの周りが結露してくる。
飲み頃だ。

ふと、高校生の頃に、叔父から聞いた話を思い出す。
「どうして、ペットボトルの上に空気が少し入っていると思う?」

私が回答しようとするのを遮るように、せっかちな叔父は続ける。

余白だよ。余白。
なみなみと入っていたら、ペットボトルは衝撃に弱くなっちまう。
人間も同じさ。

ペットボトルをみると、時々この話を思い出す。

半分くらい残して、ペットボトルを冷蔵庫にしまう。

ドライヤーで髪を乾かし終えると、急に忙しくなる。

明日のカバンの準備。メールの返信。届いた郵便物の確認。レシートの管理。衣類の整理。

翌朝、飲みかけの炭酸水を見つける。
炭酸はほぼ抜けているが、ぬるい水道水よりはましだ。

新しい一日が始まる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?