多分、風

ここ最近あった出来事について泥酔しながら記す。泥酔しているので夢と妄想を多く含む。どんな文章でも推敲せずに投稿する。このことについては把握しながら読んでほしい。ただし「こんな夢を見た」で始まる文言についてはその掟を除外する。以上。

煙草を吸うには何が必要か。この問いに煙草と火と答えるだけでは不正解だ。ここまで聞けばある程度の人は思う。「ああ~~気持ちとかそういうことね、煙草を吸うに至る精神状態とか、そーいうことね」いや、違うのだ。煙草を吸う時点で精神状態なんていかれてるのでそんなことじゃない。だからそんなことじゃない。じゃない。ブランキージェットシティを聴いて無性にタバコが吸いたくなるあの感じでもない。ただ単純に、ただ単純に、灯りだ。煙草が手元にある、火のつくライターが手元にある、灰皿も手元にある。この状況が成立しない限り煙草は吸えない。この中で煙草とライターくらいは目に見えなくても手探りで当てられるだろうけど、灰皿だけは灯りがなければわからない。昼は太陽が、夜は喫煙所の熾熱燈が手元を照らしてくれるけど、灰皿の位置だけはわからない。僕らを助けてくれるのは身近な灯りだったりする。

灯り。明かり、電灯、街灯、家々の灯り、漁港の漁火、高層ビルのネオンライト。僕らは多くの灯りに囲まれて生活している。灯りのない世界はどんな世界だろう。そんな想像をする意味をなさないほど灯りに満ち溢れている。僕の家族は数年前の胆振東部地震でしばらく電気のない世界で暮らしていたというが、灯りの絶えない生活をしていた僕からは容易に想像できなかった。テレビは、ラジオは、お風呂は、トイレは、スマホは。僕はそれらがなくなることがどんな意味を指すのか、考えることすらできなかった。そのくらい灯りがなくなる恐怖に僕らは蝕まれている。逆に、灯りすぎて怖いと思うこともあった。夜、仕事でとある埠頭のビルの屋上にいるときのことだ。眼下には闇よりもオレンジ色の光が占めていて、倉庫の灯り、鉄突の火柱、ガントリークレーンの閃光がひしめき合っていて、申し訳程度に夜の海が薄らと見えた。灯りの数だけ夜遅く働いている人がいる。それはわかるが、どこか無機質で、人為を感じさせない灯りに見えてどうにも怖かった。歓楽街のような人出は全くない。人は倉庫の中か、船の中か、クレーンの中で働いていて、人が見えないのに灯りだけが煌々と輝いて、鉄色の風が吹いている。身を劈くような怖さに思わずたじろいでしまった。

思わずたじろぐ。一歩引く。多く日々の生活で経験することがある。僕はコンビニの前に5人以上の若者がいればそのコンビニを進んで使う気にはなれない。家から近く使う頻度が多いコンビニでも、その日は遠いコンビニへ行ったりもする。コンビニの前でたむろすることは全く否定しないが、当然彼らの中では楽しいという感情を持ったうえでたむろする。わかりやすく言えば、僕は日々の生活の必要のためにコンビニに寄る。だが彼らは日々の生活を満たす、友人と過ごすことを最大の目的としてコンビニの前を選び取る。楽しそうな人を、生活の一部を遂行する身が横を過ぎることが浅ましくてできない。ただ昨日は帰りも遅くて仕方なくその横を通り過ぎてコンビニに寄った。イヤホンをしたまま商品を選ぶ。カネコアヤノがカゴに放り込まれた商品に流れ込む。お弁当コーナーはスカスカで、仕方なく特に食べたくもない丼ものの弁当も放り込んだ。レジの前に並び、イヤホンを外した。有線放送ではサカナクションの曲が流れていた。店を出てすぐ、恥ずかしげもなく買ったビールを開けた。流し込んだ。流れ込んだサカナクションを押し込むように喉を鳴らした。イヤホンをつけてシャッフルで流れてきた全然知らないインディーバンドの曲に集中した。それが何故だったのかもわからない。台風一過の静かな夜だったからかも、全然違う理由だったからなのかもしれない。似合わないバドワイザーは段々と炭酸が抜けてきて、後には何も残らないほどの風味が辺りに広がっていた。最後には僕の手の中で潰れて、少し手を濡らしていた。

濡らしていた。いや、濡らされた。許せない。雨が降る、台風は雨が降る。それはわかっている。低気圧だ。普段見向きもしない雲が芯へ向かって日本見物に来る。家の前に色々飛んでくるし前が見えないほど雨が降るし家に帰るころには疲弊している。それもわかる。受け入れている。だがそんな台風もやっとすぎた。夜が明けて昼には快晴だ。いい天気だ。そうだ今日は家中を掃除しよう。普段は見て見ぬふりの本棚の裏でさえピカピカに磨いてやろう。そうだ、昼間頑張ったら夜には海辺の温泉へ行こう。帰りにつまみを買って家で一杯やりながら映画でも見ようじゃないか。そうだそうしよう。さあ、オートバイで出かけようじゃないか。その時の僕は晴れ晴れとした気持ちで、キックペダルを踏みこんだ。きっと夜空は澄んで星空が見えるだろう。出発して数キロ程度、

目を開けるのも憚られるほどの大雨が地面に突き刺さっていた。

家に逃げ帰ってカギをぶん投げる。スマホの天気アプリを見ると大雨のマーク。数十分前には晴れのマークがついているだけだった。天気予報ってそれでいいんだろうか。仕事を全うしたといえるんだろうか。いくら予報だとはいえ、発表してお金をもらっている以上自分の発言に責任とか持たないんだろうか。外れてもあくまで予報ですとか逃げやがって。恥ずかしくないのか。自然は難しいだとかほざきやがって。自ら自然に抗おうとしているくせに。行動の矛盾。自己防衛。性格破綻。このペテン師。詐欺師。守銭奴。人民の敵。宗教法人にでもなれ。湯水のごとく金使う。湯水のごとく設備に金使う。湯水のごとく騙されて大雨でずぶ濡れになる人が出る。それをみてお前嘲笑う。家の中でグラスでも傾けてる。家で泣いている僕以上に泣き空にさらされた僕のオートバイが泣いている。

多分、雨。天気予報なんてそのくらいの曖昧さで良いんじゃないだろうか。

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