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リア×リオ÷フラム

冬も近付き、詩姫学園が放課後を迎えるころには、空にはすっかり夜の帳が降りていた。
「またねなのぉ♪リアスちゃん♪」
「じゃあね……リオちゃん……また……明日……。」
クリスマスムードに染まりかけた町明かりの中。
リオル・ティーダは親友に別れを告げ、一人帰路についた。
明日は週末で、リオルには親友との出掛けの約束があった。
(今日は早く帰って、明日着ていくお洋服を選ぶなのぉ♪)
スキップ交じりで家路を急ぐリオル。
夜影に潜む、魔女にも気付かづに。
「フラッシュタイミング」
「?」
「マインドコントロール」

リアス・ウロヴォルンが住むのは、摩天楼眩しい町中に聳える、マンションの一室だった。
「ただいま……」
リアスは、誰にとも向けられていない挨拶を小声で呟く。
この部屋にはリアス以外誰もおらず、高層階ともあって耳鳴りがするほど静かだったが、リアスにとってはそれが快適だった。
(明日……リオちゃんと……お出かけ……楽しみ……。)
鞄を降ろし、マフラーも外し、冷えた体を温めようとバスルームに向かおうとする。
「?」
不意に、通知音が部屋に響く。
今となってはリオル以外からメッセージを受け取る事は無かったので、リアスは意気揚々とスマホを確認した。

大丈夫?

差出人はフラム•サンドリアで、メッセージはそれだけだった。
(……?)
リアスは、フラムとは殆ど関わりが無かった。
当然メッセージの意味など理解できなかった。
(間違った……のかな…….?)
無視も良く無いと思ったリアスは、すぐさま返信した。

リアスです。肌寒くなってきましたが、私は大丈夫です。

フラムからの返信は直ぐに来た。

危険な目に遭ったら直ぐに教えて

(……?)
普段のフラムであれば、メッセージの時にはキザな口説き文句を囁く筈である。
(フラムさん……何か……焦ってる……のかな……。)一抹の不穏な物を感じつつも、リアスはこの事についてはそれ以上考えない事にした。
(来週……聞けば……良い……よね……。)

夜も深き学園の屋上。
フラム•サンドリアは一人、星も出ぬ空の摩天楼を見下ろしていた。
「恐らくは、詩姫に眠る旧き力を狙いやってきた小物でしょう。」
フラムの背後には、蒼と橙の鎧に身を包んだ、古龍の騎士が居た。
「ふふっ。君は昔から変わらないね。デフェール。私と同じで、”相手のスピリット”に凄く敏感だ。」
フラムはデフェールと顔も合わせず、ただ会話のみを交わす。
「でもね。私はもう、君の主では無いんだ。私は此処で、身も心も生まれ変わったんだよ。どうして手伝ってくれるの?」
「如何なる姿であろうとも、貴方は永遠に我が主でございます。ブラムザンド様。」
「見上げた忠誠心だね、デフェール。でもね、君もそろそろ前に進んだ方が良いよ。私はフラム•サンドリア。君のブラムザンドはもう居ない。」
フラムは振り返る。
「じゃあ、こうしよう。今から君に、ブラムザンドとしての最後の命令を下すよ。」
デフェールは跪く。
「…何なりと。」
「ここを出て行って、どこかの世界で君らしい生き方を見つけて。そうすればもしかしたら、今度は詩姫同士として会えるかも知れないからね。」
フラムは歩み出し、デフェールの真横までくる。
「もしその時がきたら、歓迎するよ。」
「…獄炎伯の名にかけて、全身全霊をもって遂行いたします。」
「ありがとう。それでこそ私の右腕だよ。」
次の瞬間には、デフェールの姿は無かった。
「君の歌、楽しみにしてるよ。」
フラムはそのまま、屋上の反対側まで移動する。
「見つけた。」
摩天楼の中、フラムは”相手のスピリット”を発見した。

今は使われていない、古びた倉庫の中。
「はぁ…はぁ…はぁ…ふふふ…やった…やったわ!」
魔女ナージャは肩で息をしながら、勝利の余韻に浸っている。
その傍にはリオル•ティーダが、恍惚とした目をナージャに向けながらもたれかかっていた。
「ウロヴォリアスで無い事が分かった時は落胆したけど、リボルティーガでも十二分ね。これを献上すれば、私もアスモディオス様に認めて頂ける!」
ナージャはリオルを抱き寄せ、その頬や頭をベタベタと撫でる。
対するリオルはされるがままで、心此処にあらずと言った具合だった。
「さあリボルティーガ。こんな平和ボケした世界から連れ出してあげる。」
「はいなのぉ…ナージャ様…」
その時だった。
「哀れね。蛇の血を引く魔女ナージャ。」
天井の骨組みとなっている鉄骨の上に、フラムが座っていた。
「だ…誰よ貴女!」
「ただの詩姫だよ。この世界ではありふれた、ね。」
フラムはすたりと降り立つ。
「ふん!たかだか詩姫一匹に何が出来る!せっかくの力も封じられた、惨めな敗北者如きに!」
ナージャはフラムより距離をとる。
「行きなさい!リボルティーガ!あの小娘を、神の砲撃で焼き殺してやりなさい!」
「はいなのぉ…」
リオルの付けている髪留め型キャノン砲が、幾年月振りにその砲身にエネルギーを充填し始める。
「ふふっ。マインドコントロールを使ったのね。体は大丈夫かしら?おばさま。」
「うるさい!リボルティーガ!奴を撃ち抜きなさい!」
「はいなのぉ…!」
二撃、炎の砲弾が放たれる。
一発目はあらぬ方向に飛び、二発目はフラムの髪を掠めた。
「く…このポンコツが!」
「申し訳ございませんなのぉ…」
リオルは再び充填する。
ただ、リオル自身は先程よりも疲弊している。
「可哀想に。貴女はそんな子じゃ無いわ。」
キャノン砲は同時に発破したが、片方は不発に終わった。
「ダメね。」
砲弾はフラムの胴体に直撃したが、炎が散る以上の事は起こらなかった。
「君の炎はもう、ライフを撃ち抜く為のものじゃ無いんだよ。
力を使い果たしたリオルは、ふらふらと倒れ、
「おっと。」
フラムの胸に受け止められた。
「ッチ…中身はともかく、所詮は下級スピリットね。良いわ!貴女の命、この私が全部、奪い尽くしてあげるわ!」
ナージャは僅かに紫色のオーラを帯びる。
「消滅しなさい!下等スピリッ」
パチン。
フラムが指を弾く。
「君の冷え切った心。私の炎で温めてあげる。」
ナージャの身体は青い焔に包まれる。
「燃え尽きてしまっても、責任は取れないけど。」
「何これ…破壊じゃ無い!?嫌、いやああああああああああ!!!」
ナージャはフラムの力によりデッキの底へと消えていった。
「すぅ…すぅ…」
フラムの腕の中、リオルが気持ち良さそうに寝息をたてている。
「…みんながジャンヌの様に、自分の正体を受け入れられる訳じゃ無い。今は知らなくても良いんだよ。リオル。」
深夜0時。
倉庫全体に展開されたバトルフィールドは、まだ解けない。
「そろそろ出てきたらどうかしら?黒幕さん。」
フラムがそう言った瞬間、目の前に紫シンボルが現れる。
現れたのは、仮面で顔を覆う夜族の真祖。
ゼーゲブラヒトだった。
「本来強者に生まれ変わる筈の魂が、まさかこの様な次元に匿われていたとはな。」
ゼーゲブラヒトの背後に、五つのコアが埋め込まれた浮遊する盾が現れる。
ライフと呼ばれる、スピリット達を別次元に移送し、その世界での存在を維持する為の装置である。
「しかし唯一無二の禁呪を持つには、ナージャはあまりにも愚かな魔女だったな。アスモディオスの名前を出したら、直ぐに付いて来てくれた。」
「貴方の目的は?」
「この世界で囚われている強きスピリットの魂を現界に再臨させ、我が手中に収める事だ!知っているぞ。ここにはウロヴォリアスやベルゼビートといった強大な紫スピリットが縛られているのだろう?」
ゼーゲブラヒトの前に、ヴァンピーアヴォルク、陰陽童、ガーゴイルバットが現れる。
「我がそれを頂く!」
「ええ。確かに彼女達はここに居る。でも、貴方は一つ勘違いをしているわ。」
フラムが一つ、手を払う。
青白い炎の風が巻き起こり、耐性を持った陰陽童以外から全てのコアをトラッシュに送った。
「ここに来るのは、闘いに疲れた魂達。誰一人として、囚われている子なんて居ないわ。」
「が…ぐああああ!コアシュートだと!?この…黄色の身分も弁えずにぃ!」
2体の眷属は消滅し、ゼーゲブラヒトの身体も消えかかる。
「く…まだだ!フラッシュタイミング!反魂呪!不足コアは陰陽童から確…保…」
全てのスピリットが消滅し、辺りには暫しの静寂が訪れる。
だか次の瞬間、フラムの目の前に二つの黒いモヤが現れた。
「遥かなら死の世界より夜族と、コスト2のスピリットをコストを支払わずに召喚する!」
現れたのはゼーゲブラヒトと、ヴァンピーアヴォルクだった。
「…ん…く…」
ゼーゲブラヒトが現れた時に一緒に放たれた瘴気よりリオルを庇った為、フラムは少しコアを失った。
「いでよ!紫魔神!」
ゼーゲブラヒトの背後に、紫色の巨人の幻影が現れる。
「赦しをこうてももう遅い!跡形残らず朽ち果てるが良い!」
白銀の光がゼーゲブラヒトを包む。
夜族の王は、白銀の衣を纏う聖魔体となった。
「貴様にはもう、我を止める事など出来ぬ!はあああああ!!!」
平静を装っていたフラムだったが、もう手持ちのコアが、自身とリオルの生命を維持する為の一つづつしか無かった。
(受けられない…)
次の瞬間だった。
「【ソウルドライブ】」
次の瞬間、ゼーゲブラヒトは叫ぶ間も無く灰燼に帰した。
「おや?もう帰ったのかと思っていたよ。」
「我の還る場所は、いつでも貴方のお側にございます。ブラムザンド様。」
空には朝日が登っていた。

朝。
街中のベンチに座り、リアス•ウロヴォルンは親友を待っていた。
今日の空はどんよりと曇っており、風も刃物の様な鋭利な冷え方をしている。
「リアスちゃん!おーい!こっちなのぉ!」
「あ……リオちゃ……」
そこで、リアスは見てしまった。
道路向かいのリオル・ティーダは、フラム・サンドリアの腕に手を回し、もたれかかるようにしていた。
「え……?」
大型トレーラーが、両の前を横切る。
「私のエスコートはここまでだよ。君だけのお姫様の元へ、お帰り。」
「ぜんぜん覚えてないけど、昨日は助けてくれてありがとうなのぉ。」
「フフ。今度からは夜道には気をつけるんだよ。人気者には、迷惑なファンが付きものだからね。」
リアスは、2人のそんな会話を聞くことができなかった。
「リオちゃん……ねえ……どうして……」
目に涙を溜め、微かに震えるリアス。
ただならぬ雰囲気を感じだフラムは、リオルを離すどころか強く抱き寄せた。
「?」
「済まない。どうやら君のお姫様を怒らせてしまった様だ。」
全てを沈める闇色の呪いが、リアスを中心に広がり始める。
「リオちゃん!どうしてぇ!」
リアスの涙ながらの叫びに呼応するかの様に、先程まで座っていた椅子と付近にあった自販機、それから路上駐車していた車が闇に包まれ崩れ去る。
「まずい!スピリットの喧嘩だ!」
「逃げろー!」
「俺の車がーーーーー!!!」
当然街はパニックになる。
「な…なんで怒ってるのぉ?やめてよリアスちゃん!」
「どうしてフラムさんを庇うの……?私の事……もうなんとも思ってないの……?」
「違うよ!リオはただ…」
突如フラムが咳き込み、紫色に溶けた2つのコアを吐き出す。
「フラムさん!?大丈夫なのぉ!?」
「はぁ…はぁ…ふふっ…君のお姫様は随分と嫉妬深いみたいね。」
周囲の建物が闇に犯され脆くなり、自重で潰れ始める。
コアを失った今のフラムでは、リアスのBPを超える事が出来ない。
このままでは、リオル以外の全てが”底”に送られてしまう。
(周りにも被害が…仕方ないわね。)
フラムは魔女になる事にした。
「そんなにリオルが大事なのかい。リアスちゃん。」
フラムはゆっくりと、リオルの頭に手を乗せる。
指を一本一本、リアルの前髪に被せていく。
「なら、悪い魔女から取り戻してみなさい。せっかく洗脳してまで手に入れたのに、そう簡単に離したりなんてしないわ。」
「洗脳……?」
リアスの周囲に展開されていた闇が彼女の目の前に集結し、リアスを守る力場が形成される。
「フラムさん……貴女はやっぱり悪い魔女なんだ……」
「ふふっ。ええ、そうよ?やっと気付いたの?」
「許さない……許さない……から!」
リアスの背に、ボロボロの翼が広がる。
(…素敵な子を見つけたわね。リオル。)
二人を遮る信号機が青に変わった瞬間、リアスとフラムは同時に飛び出す。
(ちょっぴり、羨ましくなっちゃったじゃないの。)
赤く燃えるフラムの拳が、リアスを守る闇によってせき止められる。
闇を纏ったリアスの手が禍々しい鉤爪と変わりフラムに掴みかかろうとしたが、手首を掴まれる事で止められる。
「そう言えば、リオルの寝顔って凄く可愛いわよね。そう…食べちゃいたいくらい。」
「……!」
リアスを守る闇がその勢いを増し、フラムを弾く。
「おや?」
「私だってまだ見た事ないのに!」
自由な方の闇の鉤爪が、体勢を崩したフラムの胴を深々と抉る。
「…ふふっ。BP負けか。」
フラムの体に、三本の傷が深々と刻まれる。
傷は橙に染まっており、炎が吹き出していた。
「まだ……まだ!」
リアスはフラムをリオルの居る歩道まで蹴り飛ばし、追い討ちをかけるべく自身も飛びつく。
「もうやめてなのぉ!」
リオルの叫びに、リアスの攻勢はぴたりと止まった。
「リオちゃん……待ってて……直ぐ……助けて……あげる……から……」
「フラムさんは、悪い魔女に操られてたリオを助けてくれたのぉ!」
「え……?」
リアスの纏っていた闇が、徐々に晴れていく。
「それにさっきも、フラムさんは疲れて動けなかったリオをここまで送ってきてくれたのぉ。」
リアスは、致命傷を負い仰向けに倒れたフラムを茫然と見下ろす。
「ふふ…ゲホッゲホッ…安心したよ…リオル…リアスちゃんになら…君の為にこんなに全力になれるリアスちゃんになら…君を…任せられそうだ…」
リアスは跪く。
「フラムさん……!ごめん……なさい……!」
「…良いんだよ…私の自業自得だ…ただ…もしリオルを傷付けたりなんてしたら…」
フラムの目が、一瞬だけ赤く燃える。
「燃え尽きてしまっても、責任は取れないわ。」
フラムの体が、消えていく。
「またね…お嬢様たち…末永く…お幸せにね…」
特に処理も無いので待機状態は解消され、フラムはBP比べで破壊された。
「うう……」
罪悪感に苛まれ、リアスは手で顔を覆い、泣く。
「リオもごめんなの…リアスちゃんの気持ちも考えてれば…」
初め、疲弊したリオルはフラムに止められた。
だがリオルが約束の事を伝え何度もせがんだ結果、
「仕方ないね。エスコートしてあげるよ。だけど、無理だけはしてはいけないぞ。」
そうして見事、二人は約束を果たす事ができたのた。
「謝りに……行こう……」
リアスがそう呟いた瞬間、二人のスマホがほぼ同時に鳴る。
「あれ?リアスちゃん!これって…」

さっきは騒がせてごめんね。これはほんの気持ち。デート、楽しんでね。私の可愛いお姫様達。

フラムのそんなメッセージと共に、二人の元にレストランの予約が届いた。
「凄いのぉ!これ、最近できた大人気の場所なのぉ!」
「フラムさん……。」
リアスは立ち上がる。
(謝るのは……来週でも……良い……よね……。)
リオルがリアスに寄り掛かってくる。
「リオ、まだ疲れてるからエスコートして欲しいのぉ。」
リアスの鼓動が、倍速程になる。
「うん……勿論……だよ……ずっと……一緒……だよ……。」

「フフ。羨ましい限りだよ。」
紫色に輝く大きな魔法陣に座り、フラム•サンドリアはスマホを眺めながらほくそ笑んでいた。
「……どう?身体、大丈夫?」
魔法陣の外側には、ベルゼリア•ビートが佇んでいた。
「ありがとう。君にはいつも世話になっているね。」
「私に出来るのは……これくらいだから……。」
フラムは立ち上がり、切り裂き傷の付いた制服のポケットにスマホを突っ込む。
「じゃ……私はこれで……」
「ねえベルゼリア。今度、四魔女のみんなでお鍋をするんだけど、君も来る?」
「え……?でも……私なんか……」
「トワゴシで君を知らない詩姫なんて居ないよ。それにみんな、君と仲良くなりたいと思ってる。私が保証するよ。」
「ほんとに……私なんかで良いの……?」
「勿論。…いや、君じゃなきゃダメなんだ。」
ベルゼリアは一瞬だけ笑顔を見せる。
「ふふっ。やっぱり君には笑顔が似合うよ。」

詩姫学園、事務室。
「はぁ…はぁ…アブソリューツのスケジューリングも終わった。シャイニーハーツのライブ会場確保も。トワゴシもプリアニも…うん、来月の予定まできっちり調整済み。」
次の瞬間、リリは手に持っていた書類を全て宙に放り出す。
「終わったーーーー!やっと休めるーーーー!(歓喜)」
その拍子でリリは椅子ごと倒れたが、変わらず嬉しそうにしていた。
「はー!あたしはやってやったぞー!(満足)バッグの圧だけでPが二人もいるグランシエスタなんかに、負けてられるかってんだ!(表明)」
その時、内線電話が鳴る。
「はーい。凄腕プロデューサーのリリでーす(挨拶)。え?何々?詩姫が喧嘩?街中で?損害賠償だって!?(困惑)あっ…ちょっと待」
通話が終了する。
「うあああああああああ!!!(怒)あたしの休日返せええええあああああああ!!!(絶望)」

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