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ふざけたやつら

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書いたことさえ忘れていたりする文章です。
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フォー・デイス

一日目     放課後の教室 ゆみ てかさーきいてみゆちゃん。昨日あたし家帰ったら、ママめっちゃ泣いててさー みゆ えーやば ゆみ なんか弟もめっちゃ泣いてて みゆ えっどうしたの!? ゆみ あたしもめっちゃやばいなって思って、ママにどうしたのってきいてみたの。 みゆ うん。 ゆみ そしたらさ、パパが蟹になっちゃったの、って。 みゆ うわ、しんど ゆみ でしょ?だから昨日のよるご飯、蟹だったんだけどさ みゆ うん。 ゆみ ママと弟ずっと泣いてるし、空気

むかし話

* 昔々、おじいさんとおばあさんが犬を食って暮らしていました。二人は昔、可愛い娘を野犬に食べられて以来犬を見つけては殺してその肉をくらい、その皮を剥いでは太鼓をつくって売っていました。太鼓はたいそう良い音がすると評判で祭りがあるたびによく売れました。今夜もどこかの祭りで二人がつくった太鼓の音は山を越えて町まで聞こえてきます。都会の青白い窓に響くのは百年前の犬たちと一人の娘の歌う歌なのです。 ちなみにおじいさんとおばあさんは九十九年前にスイカを喉に詰まらせて死にました。

Y◑U KN●W WHΛT I L◐VE😂

* * * 何度でも、何度でも、俺はお前を机に叩きつける。  お前の髪に手をかけて首が三メートル伸びるまで後ろにひっぱり、思いきり机に頭を叩きつける。やがて机にはお前の顔の形をした穴があく。張り付いた、ミッキーマウスみたいなお前の笑顔。机は重くて硬い声で鳴き地平線の彼方に走っていった。オレンジ色の半月に机は食われてしまうだろう。お前の笑顔も食われてしまうだろう。 どうだ、悲しいか。  再び髪に手をかけて新しい机に叩きつけえる。歯を剥き出して無防備に笑うお前の顔が黒い机

時限爆弾の作り方

* ソリッドなブルースカイを真っ赤に染めたいと思ったその日、俺は時限爆弾になることを決意した。 ところで諸君は、人間が時限爆弾になることなんてできないと思うかもしれない。あるいは、先ほどの俺の言葉はなんらかの比喩であると考えるかもしれない。否。文字通り時限爆弾になることは可能なのだ。 方法は実に簡単。タウンワークを見れば、様々な現場で時限爆弾を募集していることがわかる。そこで俺は、募集欄に書いてあった電話番号に電話し、新宿の雑居ビルで面接を行うことになった。 「幻想は

ザンビアに行った日

* 永遠の万華鏡がある。光は上下左右に三次元的な曲線を描いて広がり、緑の中からピンクが、ピンクの中から黄色が生まれる。正面にあるのは、水の入ったグラス。それは遠くにあると同時に近くにある。グラスのふちの円形にこの世に存在したあらゆる「美」そのものが顕在していることに気がつく。意識は、液状のガラスの表面を滑るように明晰でありながら、複数の場所に同時に存在していて、すでに時間を超越している。目の前に巨大化した自分の足が迫る。もはや大小の感覚すら存在しない。存在しないと同時に存在

アイスクリームユニバース

* 「佐々木」 「何?」 「宇宙ってデカくね?」 「・・・そうだね」 完璧な絶叫と完璧な沈黙は、同じ音がする。仮に音というものを鼓膜に伝播した物体の振動と定義するのであれば、両者はともに皮膜の無限の動であり、無限の静である。肉体の中心から発せられる実存の叫びは、皮膚直下で反響を繰り返し、決して体外の空気を振動させることはない。それゆえ、人体は、沈黙の絶叫を閉じ込めた鋼鉄の檻と化し、常にその崩壊の予感に震えているのである。崩壊は、救いである。わずかな隙間が生じれば、一

はじまりはじまり〜

よう、きょうだい。眠れないのか。それなら、俺がお話を聞かせてやる。これから話すことは全て事実であり真実だ。真実を言うと殺されるとむかし誰かが言っていたが、俺は構わない。それを言っていたやつは、結局、運命に殺されて死んでしまった。 残念だけど、さっき言ったことは半分嘘だ。これから話すことは、事実ではない。言葉は、初めに自分があらわしていたものの記号としての役割に飽きて、余計なことまで語るようになった。やがて、自分の正体を偽造したり、全く違う名前を名乗ったりする大胆なやつまで現