皮膚バリア機能とは いったい なんなんだ
皮膚は外敵からのバリアとして大切で そのバリアが壊れ外的が侵入してきたとき、免疫細胞たちは、効率的に外敵を排除するために反応を起こします。この免疫の反応が、生体を守るためという大義名分を超えて、生体に悪影響を及ぼし始めたときに、人はその免疫の反応を「アレルギー」とよびます。
アレルギー反応の中で最もよく知られた反応である湿疹反応は、終わりの見えない痒みと、それによる不安感や、外見上の問題で、積極性を失ったり、その人に対し大小さまざまな精神的なダメージを与えます。バリア機能の低下したアトピー性皮膚炎の人の治療の中では、今まさに燃えている湿疹を抑える治療はもちろんのこと、それと同じくらい大切なのは、「さらなる悪化を防ぐこと、一回よくなっても再発しないように予防すること、どうしたら予防できるかを考えること」だと思います。
デュピルマブが湿疹に効果的であることは、広く知られていますが、アトピー性皮膚炎の人がもともと持っている「皮膚のバリア機能の低下」というものを回復させるかを確かめた人はいませんでした。
もし、デュピルマブが湿疹だけでなく、皮膚バリア機能自体を完全に回復するならば(皮膚が強い人と同じような皮膚になる)、この治療で抑制するIL-4,13が、このアトピー性皮膚炎の病態の悪の中枢であることが分かるんじゃないかと勝手に考えたんです。
そこで、現在皮膚のバリア機能の代名詞である、TEWL水分蒸散計とSCH角質水分計という機械を使って、それらがデュピルマブによってどのように改善していくかをみていくこととしました。この時は、TEWLとSCHが皮膚のバリア機能をすべて表すものだと信じていました。
この研究でもそうですが、世界中で「皮膚バリア機能正常=TEWLが正常値」だと信じられています。確かに、アトピー性皮膚炎の湿疹が起きている部位では、TEWLはとっても高く(5-10倍くらい)、水分がシューシュー外に漏れ出ており、その分、いろんな悪化因子の外的刺激が入りやすい状態になっていることはわかりました。
しかし、アトピー性皮膚炎の人の皮膚でも、湿疹が起こっていない皮膚の部位では、「TEWLが正常なのに、乾燥肌の状態」が存在したんです。
これより、TEWLとSCHだけでは、皮膚のバリア機能のすべてを表すことは難しく、逆にTEWLはバリア機能の指標というよりは、湿疹や傷などの物理的な皮膚のダメージを表す指標だと感じます。
SCHも広くバリア機能の評価項目として受け入れられており、例えば、皮脂欠乏性湿疹という病態では、乾燥肌を保湿剤で補うだけで湿疹を改善できる場合があることから、バリア機能の一つの要素だと考えたくなります。
しかし、皮膚の乾燥だけでは、皮膚のバリア機能を表すことができなさそうなことも多く経験します。なぜなら相関係数をとってみると、痒みを強く感じている人ほど、肌が潤っているという結果がでましたし(おそらくスキンケアをしっかりしている)、湿疹が治りTEWLが改善しても、乾燥肌はよくなっていない事実もあります。また、保湿剤を塗りたくったところで、どんな刺激も跳ね返すようになるなんて、絶対にないですよね。
さらに、デュピルマブで湿疹が改善しかゆみがへっても、角質水分量SCHは改善しておらず、乾燥肌は続いているのに、汗をかいても、刺激をあたえてもへっちゃらってことを経験します。
これって、乾燥しているのに、バリア機能は高まっていると言えますよね。
もちろん、保湿はスキンケアの最も基本的な大切なケアであることはかわりなく、保湿ケアの習慣がついていない人は、デュピルマブ治療中でもフレアを起こしやすいのは事実ですし、デュピルマブ投与終了後に、必ず早く再発してきます。そして、角質水分量SCHをみながら、「こんなに上昇してますよ」と褒められると、患者さんのスキンケアのモチベーションがあがります。実際、数字で低いことが分かると、驚かれ、ご納得される方も多いです。
そもそも「皮膚バリア機能」の定義とは何なのか。
湿疹の部分だけが、バリア機能が破綻しているところでしょうか。そうではないですよね、アトピー性皮膚炎の人の皮膚は、一見正常に見えている湿疹のない皮膚において、たとえば、髪の毛の先、食べ物、アクリル(化繊)、汗、ほこりなどで、本来跳ね返して反応しないはずの刺激に、いちいち反応が生じてしまうこと自体が、バリア機能が低下しているということになると思うのです。
さて、これは、「フィラグリン遺伝子異常→フィラグリン蛋白の活性低下→バリア機能低下」のストーリーだけで説明がつくものでしょうか。治療でTEWLが正常まで治療をしても、また刺激に負けてフレアを生じるこの皮膚の敏感さ自体が、バリア機能の低下の重要な一部と考えられると思います。
とすると、この敏感さは何からきているのでしょう。
おそらく、神経の異常なのだと推測されます。敏感であること、かくことで快感がうまれること、末梢神経と中枢神経(脳)の両方に原因があるのではないかと推測できます。
デュピルマブは、早い段階で、この敏感さと快感を軽減するため、投与数日という早い時期から効果を感じられます。IL-4の受容体が、末梢神経または中枢神経にあるのではないかともいわれています。
この、神経の異常からくる敏感肌、これを半永久的に改善させることができればアトピー 性皮膚炎を根治できるのではないかと ひとり夢を馳せています。
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