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(没)蒼天雲来

 龍とは宇宙の道理と変化の具現である。
 時には大に、時には小に。大なるは霧を吐き、雲をおこし、江を翻し、海を捲く。また小なれば頭を埋め、爪をひそめ、深淵にさざ波さえ立てぬ。その昇るや大宇宙を飛揚し、その潜むや百年淵の底にいる。
 ありとすればあり、なしとすればなし。古来、龍の話は無数に聞くが、未だこれが真の龍だという実物は片鱗も見えぬ。
 が、性の本来は陽物ゆえ、いずれこの地上、風雲に会って大いに動く。
 人興り志気と時運を得れば天下に、龍起れば九天に縦横するという。
 人は龍に、龍は人に転ずる。
 そうした世に潜む龍は、古来、幾たびも英雄と讃えられてきた。

 そして雲雲龍雲龍龍雲雲雲龍龍龍おとど・たいとは英雄である。
 ただ生まれる時代を間違えた。
 本来天使病罹患者セラフィムとその2億6661万3336枚の翅に向けられたはずのあらん限りの武威──電飛の神通力、把握の爪、隠顕自在の才は、平穏時代の到来と共に行き場を失し、未だその裡に蔵されてわだかまっている。
 して、現在その力の片鱗は航宙機のハイジャック犯どもに向けられようとしていた。
 関西国際空港を発った星間企業インターステラースタークエイクのイカロス9が大気圏を抜けた時、数名の乗客がザップガンを振り回し始めた。
 土星圏にて確執をかまえるスタークエイクと無法者集団ゾハル家による数十年来の血を血で洗う抗争が、イカロス機を突如巻き込んだのだ。
 機内の乗客を殺害し機長室に突き進む彼らを阻んだのは雲雲雲龍龍龍であった。
「てめえら全員逮捕だアホ」
 世界連邦保安機構リヴァイアサンの特務執行部門〈まほろば機関〉の制服。その肩の記章を目にした途端、ゾハルの面々はザップガンを最大出力で撃ち放った。
 雲雲雲龍龍龍は己の逆鱗に触れ、転解・・
 裏返った身体に生える翼の表面分子が、迫る無数の光条を屈曲、拡散させ、遂には減衰させた。

【続く】

没理由:主人公の名前と冒頭のリリックが長すぎて文幅を大きく圧迫している。

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