(没)食卓事変
『引きこもりの男が両親を殺害した容疑で逮捕されました。警察によりますと……』
この瞬間、朝の食卓に緊張が走る!
ぼくはTVニュースが聞こえないふりをしつつポケットの中の凶器に触れ、両親がぼくに対してバカなことをしてきたら刺してやろうと刮目していた。母は台所で固まり、白く浮き上がった腱が遠目でもわかるほど強く包丁を握りしめている。父はぼくの向かいで顔の前に新聞を広げ一見平然としていたが、早業で『巨大隕石が地球に接近』と一面に記された紙面に覗き穴を開け、こちらを凝視していた。
両親は恐れている。ぼくが親を手にかけるんじゃないかって。ぼくも同じだった。
就活に失敗し引きこもりになり二年。始めは歓迎した両親も徐々にTVに影響されて武装を始めた。
母は包丁を研ぐ頻度が増え、父の服の右胸はいつも膨らんでいる。かくいうぼくも通販で買った凶器を常にポケットに入れて生活していた。
ニュースが切り替わり、米国のツインタワーにUFOが突っ込んだという内容に変わった。
緊張が解ける。
安心した父が新聞を下げ、
「そういえばお隣さんが感染したらしいぞ」
とわざとらしく口火を切った。
「ふーん」
ぼくはパンにマーガリンを塗りながら頷く。
玄関の呼び鈴が鳴った。
「出て」
母の求めに応じて食卓を後にし、玄関の扉を開く。
そこには腐った血まみれのお隣さんが立っていた。
錯乱してるそれは吶喊しながら迫ってきた。ぼくは咄嗟にポケットの凶器を抜くとそれの首に突き立てる。血潮が天井まで噴き出し、壁を濡らす。それは死んだ。
ぼくは食卓に戻る。
お隣さんを殺したと言って席に座る。TVは天変地異を報じていた。
「へー」
両親は興味なさげに頷く。
その時、TVがとある親が引きこもりの息子を殺したと報道し始めた!
再び平和な食卓に緊張が走る。ポケットに手を添えたぼくは、顔の血の気が引くのを覚えた。
凶器を玄関に置いてきてしまった。
クソ!ぼくはバターナイフを強く握った。
【続く】
没理由:話に広がりがなさげ。
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